この小さな本の小さなお話が心に沁みる。立春から始まり大寒まで。新幹線の車内で読み始めた。24のお話(24節気)のひとつひとつを噛み締めながら読み進めると気がつけば1年が過ぎているのだろう。現実と幻想のあわいをたゆたう。最初の2篇が好き。動物園好きのふたり。往復書簡を思わせるメールのやり取り。買って10年過ぎたマンション。たぶんパッキンが悪くなり水がポタポタ落ちる水道。この『立春』、『雨水』から始ま . . . 本文を読む
これは一体なんだったのだろうか? まさかの空前絶後の不思議映画。オチもなくあり得ないエピソードがサラリと連鎖していく。何? と思ったらもう次のお話に移行している。監督はこれが長編デビューとなるイ・オクソプ。2018年の大阪アジアン映画祭グランプリ作品。2022年には日本公開されている。ようやくNetflixでも配信がスタートした。このバカバカしい話が、あまりにさりげなく描かれていくからなぜか怖くて . . . 本文を読む
初めて読む作家である。生理痛が酷くて眠れない、とかいうことを延々と書くところから始まる。だから同棲していた男のところから家出して、自殺するために大阪に行く。えっ?それって何。買ってきたレコード盤(『暗い日曜日』)に入っていたメモ。大阪にある優しい死に方を教えてくれる喫茶店、「待合室」。冗談みたいだが、沙保はそこに行く。そこで出会った不思議な初老の女性、律に導かれて一緒に暮らすことになる。偶然この作 . . . 本文を読む
生まれて初めてネット配信小説(?)を読んだ。知り合いから頼まれたからだが、これがかなり面白くて一気に読んでしまった。携帯小説って昔流行ったけど(全く読んだことがなかったが)これってそんな感じのものなんだろうか。まぁそんなことはどうでもいい。面白いから読む。それだけ。現在公開されている15話までを読んだ。当然この先まだまだお話は続くだろうが、とりあえず、ここまでの感想を書こう。まず、問題点から。世界 . . . 本文を読む
8編からなる短編集である。いずれもテクノロジーの変化を取り上げて近未来を予見する作品が並ぶ。最初の『暗号の子』を読んでいてまるで書かれていることが理解できなくて焦った。知らないカタカナで書かれた単語が続出、しかも内容も理解不能。旧世代のアナログ人間には外国語を話されている気分。これは無理かも、と半分匙を投げる。だけどなんとかわからないなりにラストまで読んでいく。専門用語続出から浮かび上がるストーリ . . . 本文を読む
これはコメディ映画なのか? タイトルにある「ヒプナゴジア」って「半覚醒」という意味らしいが、奇想天外なお話だけど、ファンタジーというよりただのトホホ映画で、ただ呆れるばかり。真面目に見てたら疲れるばかりだ。こんなアホな映画を必ずしもおふざけしているわけでもなくかなり真面目に作るって何? コメディとして、窓から落ちてきたテレビで頭を打って意識不明になった老女が脳内で作りたかった映画を夢見る話、という . . . 本文を読む
久しぶりの樋口有介の新作?って、感じで気になって手に取ったけど、そんなわけはない。彼は数年前に亡くなっている。この作品は95年4月に刊行され、2009年に文庫化された作品である。本の最後を見て確認した。というか、そこにちゃんと明記されていた。だがなぜ今頃再び単行本となって再発売されたのか、わからない。その経緯はどこにも書かれてないけど、気になって手にした以上、まず読み始める。読みながら、これは昔の . . . 本文を読む
新進気鋭の美術家(らしい。僕は知らなかったし、彼女の作品も見たことがなかった)によるエッセイってあまりないかぁと思う。理屈っぽいのは勘弁って感じで読み始める。だけどこれはそんなのではない。とてもバランスがいい。というか、よくある作家(小説家、ね)が書いたものとは一味違う。彼女のエッセイは幾分長いし重い。ちょっとした評論みたいなエッセイだ。ある問題と向き合ってひとつの答えを出さないことには終わらない . . . 本文を読む
この新人作家は手強い。ここまで破壊的で強烈な作品を読むのは久しぶりだ。最近は優しい作品ばかり読んでいた気がする。町田そのこですら優しい。いや、彼女はいつも優しいな。もちろん、この新人が優しくないのではない。主人公である弟は自殺しようとしていた姉を助けて彼女のケアをする。優しい彼はパワハラ上司からの暴力から姉を守ろうとする。だが壊れた姉は自分が壊れていることにすら気づかない。姉と上司の関係性が普通じ . . . 本文を読む
正式なタイトルは『例えば世界はこんなにも広いのにそんな世界の隅っこに存在している僕は。』だけど、さすがに長すぎてタイトルスペースには書けない。いや、ちゃんと書いたほうがいいのかな。ほぼ毎月1年で10本のオリジナル作品を作、演出する企画の7作目。さて、今回で僕が見るのは3作目になる。今回は升田祐次作品。これで3人の作家をまず1本ずつコンプリートしたことになる。この後3人3本がラストランとなる。3月か . . . 本文を読む
これは久しぶりの瀧和麻子だ。だけど今回はまるで重松清みたいなお話。またまた6話からなる短編連作。この手のパターンにはいささか食傷気味。まぁそれなら本格長編を読めよ、と言われそうだが、そちらにはあまり読みたいものがない。さて、今回は亡くなった校長先生を巡る物語。先生は定年退職後、しばらく再任用で働いた後、完全引退し、ひとり暮らしをしていたが、75歳で亡くなった。これは6人の彼女に教えてもらった(生徒 . . . 本文を読む
これまで乱作多作だった井口昇の2023年作品。だけど、この作品の後、新作は途絶えている。これは彼にとってひとつのレジェンド的な作品である。『恋する幼虫』はなかなかよかった。だけど後の作品は駄作ばかりだ、と思っていたが、あの大傑作『惡の華』(2019)を作ったことで彼は僕からの信頼を勝ち取った。(笑)その後、期待して新作を待ったが、なかなかなかった。そしてようやくこの作品である。これが久々の井口監督 . . . 本文を読む
エイチエムピー・シアターカンパニーの笠井さんの演出、指導による作品。昨年末の『友達』に続く近大の学生による授業作品なのだが、これが侮れない。ダブルキャストで僕が見たのは歌組。主人公の乱歩の妻隆子を演じた川畑三琴と乱歩の清水彩雲がいい。当日パンフを見ると文組のふたりと違って歌組のふたりはぽっちゃりしているけど、そこも乱歩夫婦のキャラクターにピッタリだと思う。若い頃を演じたふたりとの落差がいい。(文組 . . . 本文を読む
なんと刺激的なタイトルだろう。攻撃的で過激な鈴江さんがこのタイトルからどんな話を紡ぐのか、期待は高まる。なんとこれは2時間の作品である。しかもアフタートークもある。平日の夜に。だから2時間30分。芝居だけでなくすべてが怒濤の展開。この「小劇場ならでは」の贅沢な時間を満喫する。満員の狭い劇場で(ウイングフィールド)これだけのキャストが暴れて、終演後には演出のペーター・ゲスナーにこの芝居の作家、鈴江俊 . . . 本文を読む