2022年最後に劇場で見た映画だ。とても小さな作品だが、それがいい。ひとりの女性の生き方を見つめる作品で三浦透子初主演作品。先日の岸井ゆきの主演『ケイコ、目をすませて』と並ぶ女性映画の秀作。あちらはきっとベストテンの上位に位置づけられるはずだが、これはきっとあまり評価はされないはず。でも、どちらも同じように素敵な作品だと思う。メ〜テレ制作の劇映画はその慎ましさがいい。TV局制作映画なのに大手のよう . . . 本文を読む
A24の新作だ。最初に見た『ミッドサマー』の不気味さと同じ。これもまた従来の「ホラー映画」という括りにはとうてい収まりきらない作品だ。今回『エクス・マキナ』のアレックス・ガーランドが監督・脚本を手掛けた。彼にとっては初めてのSFではない作品でもある。冒頭は衝撃的。部屋の窓の外を落ちていく男と目が合う。あの恐怖は、心当たりがある。昔僕が書いた(つたない)小説の冒頭と同じだ。あれは高層マンションの屋上 . . . 本文を読む
毎日新聞日曜版に連載されていて時々読んではいたけど、できることなら早く全体を通して読みたいと待ち望んでいた山田詠美の新刊。あまりに楽しくてほぼ一気読みしてしまった。(2日で前半後半にして読んだ)
彼女の自伝エッセイ。帯には「本格自伝小説」とあるけど小説ではない。フィクションではなく実名でたくさんの人たちが登場する。作家だけではなく、彼女の知り合いまで登場する。仮名とは書いていないから本名で書いて . . . 本文を読む
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の自伝的映画。あのフェリーニの『8 1/2』を想起させるような、これもまた壮大なドラマだ。Netflixお得意の巨匠に自由に手掛けさせ映画祭(本作は第79回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品である)で賞を狙うという大作アート映画。もちろん劇場公開後、すぐに配信公開するという必殺パターンの作品。
この幻想的なドラマはリアルな現実と陸続きになっている . . . 本文を読む
1972年5月30日、イスラエルのテルアビブ空港で起こった乱射テロ事件の犯人の軌跡を追うノンフィクションに挑むライター。彼女がこの50年も前のできごとにこだわるのはなぜなのか。空港でのテロ事件を引き起こした彼の正義のための戦い、その是非を問うわけではない。たとえどんな動機や理由があろうともテロは許せない。そんなことは本人だってわかっているはずだ。已むに已まれずの行為。切実な想い。犯行を起こした事件 . . . 本文を読む
TVシリーズは見ていない。だから、あまり興味はなかったが、吉岡秀隆の白髪頭が気になっていた。宣材のポスターやチラシのシンプルなデザインにもそそられた。本気でこの作品を作っているという気概が感じられたからだ。(まぁ、冗談で作る映画なんかないだろうけど、でも、なんだか仕方なく作っている気がするようなTVドラマの劇場版はたくさんある、気がする)
TVシリーズ放映から16年の歳月を経て作られた続編らしい . . . 本文を読む
辻村美月の長編小説の映画化。500ページにも及ぶ作品を2時間の映画に収めるのは至難の業だ。お話自体はシンプルだから骨格をなぞるだけなら簡単。でもそれではまるで意味はない。彼女がこんな単純なファンタジーをこんなにも膨大な長さの作品にしたのは、それだけの意味があるからだ。そこをちゃんと抑えなくては映画化する意味はない。原恵一監督はかなり苦しんだのではないか。安易な映画を作るつもりはない。勝算のない戦い . . . 本文を読む
これは椎名さんによるコロナ感染体験記。最近この手の本がどんどん出ているが彼が手掛けるものなので他とは一味違う。「シーナ、78歳。よろよろと生還す」と宣伝文句にはある。「コロナふらふら格闘編」とサブタイトルをつけている。いかにも、なネーミングだが、メインタイトルの『失踪願望。』とはそぐわない。そこに今の彼の立ち位置が窺われる。なんともまた微妙なのだ。
2021年、77歳、椎名誠は早々にコロナに感染 . . . 本文を読む
今年最後の1本。そしてこれが「WING CUP 2022」最初のプログラムになる。本当ならこの12月10日から11日に上演の「くらげのななり」公演『ばかやろう』が1本目の作品となるはずだったのだが、コロナ感染のせいで上演が中止になった。この3年間こんなふうにして上演されることなく消えてしまった芝居がいくつあったことだろう。数えきれないため息と無念がそこにはある。
ということで今年のウイングカップ . . . 本文を読む
土曜の朝、東生駒にある「ギャラリー宗」というところに行く。古民家を改装して多目的スペースにした空間だ。朝、生駒山上にある両親と祖父母の眠るお墓に行ってから下山して、東生駒駅に到着したのは10時過ぎ。開演までの時間、街歩きをする。でも、駅周辺には何もない。しばらく歩いて火葬場にたどり着く。上り坂にある火葬場の裏山には墓地が広がる。頂上まで登りきると見晴らしがいい。生駒山が見える。この小さな誰もいない . . . 本文を読む
今週も驚くほど素敵な本を山盛り読んでいる。いずれも女性作家の作品ばかりだ。そこにはYA小説や絵本もある。まず小手鞠るい『ご飯食べにおいでよ』から。児童書ではなくYA小説という分類だが、小学校の高学年から大人まで十分楽しめる。中二の時に感じたこと、考えたことをちゃんと大人になり実現する青年のお話。森崎雪はベイカリーカフェ「りんごの木」をオープンする。夢を実願する。そんな彼の1週間が描かれる。だがそれ . . . 本文を読む
別に特にこれを見たかったわけではない。この日、芝居と芝居の間の空き時間でちょうど見られる映画がこれしかなかったから見ることにしただけだ。いつものようにたまたま。それにしてもいくら平日の夕方の回とはいえ、公開1週目の上映なのに観客は5人しかいないのはなんだか、だ。しかもなんばのTOHOシネマズでの上映なのに。きっと2週目からは1日1回上映にされてしまうことだろう。
今流行りの「A24映画」である。 . . . 本文を読む
いやぁ、これには驚いた。こんな芝居を作るんだ、という衝撃がある。しかもただの思い付きではない。実に考えられている。安部公房の『箱男』(これはとても異常なお話だ。まぁ、それがいつもの安部公房なんだけど)をそのまま朗読劇にした。舞台上で箱を被った男がこの小説を読むだけ。それだけ。なんなんだ、それって、と思う。でも、それだけではない。(自分がそれだけと勝手に書いたくせに!)なんと観客である我々も箱を被り . . . 本文を読む
前日に『ケイコ、目を澄ませて』を見ていたから、なんだか不思議な感じだ。これは同じように聴覚障害を持つボクサーのお話。たまたま2本連続で同じ設定の映画、芝居を見ることになった。偶然なのだがなんだか不思議な気分。そして2本とも素晴らしい作品だった。
2本はまるで一卵性双生児のように似ている。ケイコはしゃべらないけど、ひかるはとても饒舌。感情をストレートに表に出す。闘志をむき出しにする。喧嘩に勝つため . . . 本文を読む
こんな小説なかなかない。自由奔放。恩田陸本人(のナレーション!)が出てきて、主人公の行動や時代背景を解説してくれる。もちろん同時に本人(主人公のほう)の告白もある。語り部がそのふたりなのだ。そこにはひとりの女の子が生まれたところから23年間が丁寧に描かれていく。というか、丁寧というより、思いつくまま好き勝手に、という感じ。
ほんとうは1冊で完結するはずだったのに、作者が寄り道ばかりするから話がど . . . 本文を読む