ここまでメリハリのない作り方をされたなら、これが何のための、どんな映画だか、そんなことすら観客には伝わらないことだろう。もちろんそれでも面白かったのなら、それはそれでいい。だが、この映画はちょっとやりすぎてしまったようだ。
学生が作った前衛的な実験映画のような独りよがりとなっている。緩い時間の流れ方も、心地よさよりも居心地の悪さを感じさせる。ボスの愛人と関係を持ち、ボス自身から、その女を殺す . . . 本文を読む
古厩智之監督の持ち味が十二分に発揮された傑作である。感動的なドラマになるような盛り上げ方は一切しない。カメラも必要以上に寄らない。彼らとの距離の取り方がすばらしいのだ。
だから、わざとらしい青春映画にはならない。前半を見ていて、こんなにも体温が低い映画でいいのか、と心配になったくらいだ。それは、本題である、夏の合宿の場面になっても変わらない。おきまりのストーリーなのにおきまりの展開にはならな . . . 本文を読む
初演はウイング・フィールドで見た。劇場に当てて書いた芝居なのだが、公演を行う劇場に合わせて芝居自体までが変化していく。今回もアトリエS-paceという新しい劇場空間の構造を自在に使った作品になっている。
かといって、作品自体が大幅に変わることはない。劇中劇になる2つの芝居はほとんど書き換えていないらしい。だけれども、ものの見事にこの劇中劇の内容を忘れていた。なんとなくこんな話だったなぁ、とい . . . 本文を読む
昨年のゴールデン・ウィークに上演され好評を博したテラヤマ博の第二弾が今年もスタートした。初日である2月23日。まず、2本を見る。佐藤香聲 による『レミング』と、大塚雅史さんによる『星の王子さま』だ。
2本ともとても刺激的な作品だった。今回も3グループに別れて、全く別々のアプローチでテラヤマ戯曲に取り組んでいる。劇作家としての寺山修司が忘れら去られていきつつある中で、もう一度彼にスポットをあて . . . 本文を読む
2本立一挙上演というスタイルを取る場合は、普通、完全入替制にして、もう少し時間の間隔をとる。あるいは、1本1本が短い作品を、ほぼ連続上演に近い形でするものだ。なのに、今回の清流劇場は、30分の休憩を挟んで、一挙上演である。しかも、それぞれ完全に独立した作品である。2本の間に関連性はない。どちらも上演時間が長い。
船戸香里さんによる実験的な1人芝居と、田中孝弥さんがドイツ留学中、見た芝居の中 . . . 本文を読む
山崎ナオコーラのすっとぼけた魅力の『カツラ美容室別室』以降の小説について、少しメモしておく。
ずいぶん久しぶりで谷村志穂を読んだ。最新刊『雪になる』は6つの雪を巡る愛の物語。あまりに痛々し過ぎて、ちょっとまいった。続いて同じように北海道出身の新人、桜井紫乃による『氷平線』。これも痛ましい話ばかりで、辛い。6つの短編がそれぞれどうしようもない哀しみを潜ませている。
さらに楊逸の『ワンち . . . 本文を読む
この語呂合わせのタイトルが、示すのは主人公であるアスペルガーの女性(池脇千鶴)のとてもシンプルな内面世界。昆布茶漬けが大好きで、音符の形をした街灯の写真を集めている。この2つに象徴されるものが今の彼女のすべてだ。
映画はそんな彼女が母を失いひとりぼっちになり、今まで会った事のない腹違いの妹(市川由衣)のもとを訪れることから始まる。
父と2人で平和に暮らしていた。父が旅行に行き、これ幸いと . . . 本文を読む
日本アカデミー賞を軒並み掻っ攫った『東京タワー、オカンとボクと、時々オトン』の松岡錠司監督の新作。アカデミー賞で(もちろん日本の、だけど)助演男優賞を取った小林薫主演。(それにしても、あの賞でなぜ、オダギリ・ジョーだけが選ばれなかったのだろう?わざと外したとしか思えない。ただの嫌がらせか?オダギリの見事さ、は誰の目でも明らかなのに、なぜ吉岡秀隆?あれをTVで見ながら、ありえない!と日本中の人たち . . . 本文を読む
13日、市川崑が亡くなった。あれからもう1週間だ。なんだか力が抜けてしまった気分で何もする気にならない。偶然、今、劇場で公開されていたこの映画を見てきた。
国際シネマで開催中の「京マチ子映画まつり」の1本として上映されていたのだ。59年作品。
大阪と東京を舞台にして、、結婚よりも仕事をとって、男なんかに見向きもせず、ばりばり働く女たちを主人公にしたこのコメディーは今見ても充分に楽しめる作 . . . 本文を読む
まだ2月なのに、もう今年のベストワン候補と出会ってしまった。これだけの映画はたぶんもう今年は出てこないだろう。イスラエルの新人、エラン・コリリン監督作品。昨年の東京国際映画祭でグランプリに輝いた傑作だ。
夜のしじまの中。8人の迷子の警察官たちが、人々の善意に支えられ、別々の場所で、ひとりひとりが迎える特別な一夜。エジプトを離れ、この異国であるイスラエルの見知らぬ町で、思いもかけない時間を送る . . . 本文を読む
この素敵なタイトルに、まず心惹かれた。それだけでこの作品を好きになってしまったくらいだ。見る前からこれは僕が好きな作品だ、ということがはっきりとわかる。ときどきそんな時があるのだ。
そして、予想は的中する。見終えて、ほんとうにいい作品だと思った。だから、出来る事ならこの戯曲(キャサリン・グロヴナー)をドラマ・リーディングではなく、きちんと演劇として見せてもらいたかった。そんなふうに思わされた . . . 本文を読む
喫茶店を舞台に、男女2人(と、店員2人)による会話劇。(4話以降は2人に限定されなくなるが)全く同じスタイルで、10分強のお話を串団子式に8話、綴っていくことで、トータル1本の長編作品を構成していく。とてもスタイリッシュで、ほんの少し実験的なシチュエーション・コメディーに挑戦している。
作、演出の当麻英始さんは、普段の大阪新撰組ではとてもやらないけど、だけどちょっとやってみたかったことに、こ . . . 本文を読む
こんなバカな企画はTVのバラエティーですらやらない。それを一応低予算の安直な作品とはいえ劇場用映画として作ってしまうなんて、バカもほどほどにしてもらいたい。作る前から、作者たち自身がそのくだらなさに気付いていたはずだ。そして、こんな映画を見に来るお客は数えるほどしかいない、ということも知っていただろう。
なのに、酒の席か何かで戯言として誰かが思いつきで話したことが、アルコールの助けもあって、 . . . 本文を読む
この小説の描く恋愛未満のつきあいって、あまりにさりげなさすぎて、あっけない。小説自体の分量の問題ではなく、口当たりのよさもあり、一瞬で、読み終えてしまった。
20代後半のもうそこそこ大人の男女が主人公。こんなふうに友だちとして、なんとなく時々連絡を取り合ったり、そして食事したり、一緒に美術館にも行ったりする。それって一応デートかもしれない。だけれども、お互い一歩踏み出すきっかけもないまま時を . . . 本文を読む
まるで、ホラー映画みたいな安直なラストを敢えて用意したのはなぜだろう。主人公のキャラクター設定は、正直言ってかなり「痛い」はずなのに。
この映画はこの初老の独身女教師をかなり冷めた目で捉える。この女の性癖が、こういう事件を引き起こしたように描かれる。もちろん彼女の若い女性への過剰な思い入れは、かなり危険なものもある。しかし、正直言って、一番悪いのは生徒と関係を持ってしまった女(ケイト・ブラン . . . 本文を読む