期待の一作だったのだが、残念な仕上がりだ。これは宇宙版『地獄の黙示録』である。そして、これは象徴としての父ではなく実際の父を捜す旅。でも、父(トミー・リー・ジョーンズだ!)はカーツにつながるのだから、ここには狂気がなくてはならない。父親はなぜ行方不明になったのか。海王星で何があったのか。主人公がこのミッションをどう受け止め遂行するのか。それを世界は(政府は)どう受け止めるか。そうい . . . 本文を読む
公開時以来の30年近くの歳月を経ての再見である。劇場公開時は3時間版だったが、今回の完全版は3時間56分。キネマ旬報の90年代外国映画ベストワンにも選ばれた。ただ、昔見た時にはあまり面白くはなかったので少し不安だった。嫌な予感は当たる。
やはり、あまり面白くなかった。感情移入できないような作り方をするのはいつものエドワード・ヤンだからわかっていたのだけど、これだけ . . . 本文を読む
こんなにも、どうでもいいような、小さな、どこにでもありそうな、そんなお話で1本の長編映画を作るって、どうなんだろ、と思わされる。もちろんスターを使った商業映画である。こんな話がメジャーの映画になるのかと驚く。しかもいつもの伊坂幸太郎とはちょっと違って、お話の整合性があまりに緩い。この人たち(主人公たちね)が、この状況になくてもいい。たまたまそうなっただけ。しかもどこにフォーカスして . . . 本文を読む
ジャ・ジャンクーの最新作である。前作『山河ノスタルジア』と同じように今回も3部からなる。ただ、前回のような未来までを描くのではない。17年間の3つの時間。21世紀に入った中国で、ふたりの男女のすれちがいメロドラマ。01年、山西省の大同に始まる男と女の愛のドラマは北京五輪、06年三峡ダム建設の地での再会と別れを経て、17年再び大同へと帰り着く。
それにしても、ここま . . . 本文を読む
このシンプルなタイトル、でも、なんだかよくわからないタイトルでもある。この作品の抱える混沌を見事に象徴する。これは一歩間違えば、観念的で独りよがりな作品になりかねない。だが、作、演出の橋本建司そうはさせない。わからないものを無理にわからせようとするのではなく、わからないまま、ちゃんと提示した。だから、その誠実さと向き合うことで、わからなさが作品自体の魅力にすらなる。上から目線の作品 . . . 本文を読む
思い返せば、『ぼっちゃん』もそうだった。大森立嗣監督のオリジナル台本の映画は、息苦しい。(前作『日日是好日』があんなに気持ちのいい映画だったのに!)彼の今の時代への真摯な想いが溢れ出てしまい、その残酷さには気分が悪くなる。露悪的だ。だけど、ここから目が離せない。主人公3人の少年たちが何をしでかすか。ずっとムカムカしながら見守るしかない。目を背けたい現実がそこには横たわる。生々しい。 . . . 本文を読む
50代後半の薄汚いオヤジと、20歳の女子大生が恋に落ちる話。なんか汚らしいなと思う。それは僕の感想だけではなく、主人公の女の子自身が感じていたことでもある。そんな彼女がそんな恋に陥る。
まだ本当の恋も知らないピュアな女の子が、唯一の肉親(母親は幼い頃他の男のところに出奔した)である父親を突然の事故で失い、ひとりぼっちで傷心の日々を送ることになる。というか、そんなふうな日々を送って . . . 本文を読む
初演のアイホール公演も素晴らしかったが、今回の再演はあれ以上に素晴らしい。高橋恵の抑えた演出が冴え渡る。2年前のオリジナルキャストを集結させて、丁寧に3回の講座を見せていく。まるでこのボイストレーニングに自分も参加している気分になる。芝居は物語ではなく、この講座のライブ中継のような趣を呈する。
廃校となった校舎を再利用して市民講座を開講している。だが、市の勝手な要 . . . 本文を読む
ここに及んで「ぼつじゅう企画」(大竹野正典没後10年記念公演企画)怒濤の連作である。こんなことが起こり得るなんて、彼の生前には想像もしなかったことだ。毎月、複数の大竹野作品が公演されるのだから驚きだ。
さて、9月の一番手は、今回のオリゴ党である。岩橋演出による大竹野正典作品という組み合わせの意外性にドキドキしながら見る。違和感はない。確かに普段の岩橋作品とは一味違 . . . 本文を読む
今回もホラー映画だ。ジョーダン・ピール監督の第2回監督作品。ただ前作の『ゲット・アウト』は黒人差別の問題を前面に押し出す社会派的なアプローチが根底にあったが、今回は完全な娯楽映画のパターンに収まる。そのぶん、安心して見ることが出来るが、お話自体は凡庸。だけど、これが実は侮れない映画なのだ。パターンのフリしながら、微妙なところでそこを巧妙に裏切りながら、ある世界観を提示する。
それは、 . . . 本文を読む
パターンになりつつある短編と長編の2本立てというスタイルが今回も踏襲される。短編のレベルの高さは時に長編を凌ぐほどで、とてもお得な感じ。小さな作品が必ずしも小さな出来事を描くわけではなく、大きな作品が(といっても70分程度なのだが)大きなことを描くというわけでもない。南出さんはひとつのスケッチから、人と人とが向き合い、本気で何かを目指していく姿をみつめていくと、それがこの世界の行く末すら左右してい . . . 本文を読む
いつも刺激的な映画を見せてくれる池田千尋監督のこの新作は対照的なふたりの女性が主人公。なんと起業をテーマに据えたドラマだ。こんな題材が映画になるなんてそれだけでまず驚きだ。上白石萌音と山崎紘菜が主演する。
こんな地味な映画がなんと東宝系で(そりゃぁ、ふたりは東宝シンデレラだ!)公開される。だから、きっとすぐに公開が終わると思うので、初日に見に行く。1日3回上映の夜の回なのに、やはりガラガラだった . . . 本文を読む
実は2週間前にこの荒井晴彦監督第3作『火口のふたり』を見ている。今年一番の期待作だったから公開初日に見てきた。でも、見終えてショックだったので、というか、なんか違う、と勝手に思ったので、そこで止まってしまってここには書かなかった。いろんなことを思ったのだけど、それが何だったのか、今では明確ではない。ただ、日常のスケッチから始まって、5日間を終えた時、そこに何が残るか、それが気になったから、唖然とす . . . 本文を読む
別に本を読んでいないわけではないけど、最近、読んだ本の感想を書くことが滞っている。純粋に時間も余裕もないのが原因だけど、読書がただの習慣になっているからだ。もちろんこの文章もただの「習慣」なんだから、それでいいのだけど、書くことが義務になるのは嫌。でも、映画や芝居はなんだか義務になっていて、特に芝居と劇場で見た映画に関しては基本的に飛ばさず書くようにしている。(誰に言われたわけでも . . . 本文を読む
宮沢賢治の童話と書簡をアレンジしてひとつの世界を作り上げる。『土神ときつね』を全体の中心に据えて、唯一の友という保坂嘉内への手紙を全編にコラージュさせる。全体を物語の形に整えるのではなく、もっと自由に見せていく。お話としての整合性より、感情の起伏を前面に押し出した。『土神ときつね』というシンプルな物語の間に手紙が挿入されていく。その結果物語は分断され、お話への集中力は殺がれていくのだが . . . 本文を読む