若年性アルツハイマーになった50代の女性が主人公だ。作家として名を成している。ひとり暮らしで係累はいない。離婚した夫とは今も付き合いはないわけではないけど、この先、不安。今、これから遺された時の中で何が出来るのか、と考え、行動するけど、病状の進行のなかで、思い通りにいかないし、もうすべてを投げ出してしまいたくなる。でも、そんな内面はおくびにも出さず、彼女は表面的には穏やかで、冷静に対応し、現実をし . . . 本文を読む
とても面白い短編集を読んだ。『運命の人はどこですか?』という短編連作である。6人の女流作家の競作だ。いずれも面白く、読んでいて楽しい。
運命の人なんかいないかもしれないけど、いたらいいな、と思う。そして、たぶん、いると思う。それがいつも通う風呂屋の番台のいるおじいさんであってもいい。理想の恋人と出会い結ばれるということだけが、運命なのではない。もっと違 . . . 本文を読む
光州事件を取り上げ、わかりやすく、見やすい映画にして、でも事件をしっかり伝えようとする。社会派映画で、重くなりそうなテーマなのに、ソン・ガンホのキャラクターで、決して重いだけの映画にはせず、エンタメ要素すら折り込んで、ドキドキさせながら、ラストまで2時間17分走り抜ける。
伝えたいことをしっかりと伝える。事実は歪めず、感傷的にすることもなく、多少の誇張はあるけど、 . . . 本文を読む
結末が安易だし、ストーリー自体も中途半端。北村想とは思えないくらいに杜撰な台本なのだが、この単純さは、このお話自体を寓話として読ませるための仕掛けなのかもしれない。メッセージはストレートで、それを素直に受け止めるといい。劇団息吹はこの台本をとても丁寧に描くことで作者の意図通りの作品に仕立てた。
核シェルターなんて、いらない。ただそれだけのお話だ。この全く意味のないもののために、翻 . . . 本文を読む
スタートは結構ドキドキさせられる。ミステリ仕立てのドラマだ。「映画」と「戦争」がお話の根底を成す。男のもとにある日届いたフィルムの切れ端。そこに映る女性の姿に引き込まれる、というところから始まる。彼は撮影地であるその島を訪れる。
だが、島に渡ってからすぐにフィルムの謎を握る女と出会うのはちょっと安易か。しかも、彼女が語る秘密がこの芝居のすべて、とい . . . 本文を読む
とてもわかりやすい芝居だ。何から何まですべてを説明してしまう。でも、テンポがいいからそんなことは気にならない。ただ、ほんとうはもっと端折るところは端折って、見せるところはじっくりと見せるというメリハリがあったなら、もっとよくなるのに、残念。(そういうところはこの作品に続いて見た『スプライサー』に対しても言えることだ。丁寧すぎて、そこが徒となる。)
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2045年。ひとりの老婆が回想する1990年代のある夏の日々。とある高校の演劇部、夏合宿でのできごと。話自体はまるでリアルじゃないけど、多少脚色された想い出の中の風景としてなら、こういうドラマチックな展開もありかもしれないと思い、受け止める。女子高生を妊娠させる高校教師(演劇部の顧問)とか、いくらなんでもありえないだろ、と思う。しかも、あんなにけろっとしている。(匿名劇壇の福谷圭祐がふ . . . 本文を読む
4月にオリゴ党公演を終えたばかりの岩橋貞典が公演終了と同時に稽古を初めて、5月11日に初日を迎える。前作は2プロの公演で大変だったはずなのに直後の1ヶ月の準備期間でまるでタッチが違うこの作品の演出に挑んだ。落ち着いた手触りで、ところどころにちゃんと持ち前のユーモアを滲ませて、とても丁寧な作品として仕立てた。
4人の女優たちの持ち味をきちんと生かして、そんな4人のア . . . 本文を読む
これはとても難しい芝居だ。円形舞台で中央のアクティングエリアだけではなく、どちらからというと、その周辺の部分を中心にして芝居を作るなんて、そんなこんなの困難に挑む。それって、装置だけの問題だけではない。お話の展開のさせ方も、だ。敢えて困難に挑む作り方に徹した。これだけの壮大なお話なのに、たった100分の尺に収めようとする。2時間半くらいのボリュームなのに、それを駆け足で見せるからお . . . 本文を読む
白石和彌がついに本格的に東映ヤクザ映画に挑む。しかも、最初からいきなり頂点を極めることになる。こんな大胆な挑戦に心躍る。ウォーミングアップなんか要らない。やる以上は最初から頂上決戦だ。深作欣二の最高傑作『仁義なき戦い』にケンカをふっかける。チンピラが組長の首を獲るようなもんだ。大胆にもほどがある。しかも、時代は70年代ではなく21世紀。もうヤクザ映画なんか誰も作らない。そんな時代に . . . 本文を読む
エンタメなのだが、とてもよく出来ていて2時間、全く飽きさせない。「娯楽活劇はこうじゃなくっちゃ、」と思わせてくれる快作だ。お話自体は『インファナル・アフェア』なのだが、そんなこと、気にならない。ストーリーがパクリでも、ちゃんとお話の中にそれが消化されていたなら、それはそれで立派なオリジナルになる。その好例だ。
清朝の頃、海賊たちが海軍と争う中、東インド会社が絡んで . . . 本文を読む
別役実の二人芝居を中心にして上演してきた当麻英始さんが、別役ではなく北村想の古典に挑む。いや、挑むとかいう言い方はそぐわない。もっと自然体に、『寿歌』をやりたいと、なんとなく思い、それを実現する。ただそれだけ。今何故寿歌なのか、なんて構えてないところがいい。いや、もちろん、当麻さんにはきっといろんな思いがあるはずなのだ。でも、そこを封印して、とてもさりげなく、今、寿 . . . 本文を読む
男娼が主人公。ホストではなく、女の人に体を売って癒しを与える。お金のための身売りではない。体も心も満たされないまま、生きている寂しい女性の欲望にコミットする.つけ込むのではなく、彼女たちのために身を提供するのだけど、ただの性のはけ口ではない。女たちにセックスを通してやすらかな心を与える。満たされたいのは体ではなく、心の方なのだが、心と体は繋がっているから体から心に通 . . . 本文を読む
ウニー・ルコントの第2作.前作『冬の小鳥』から6年。韓国からフランスに舞台を移し、前作の続編のような物語が再びここに綴られる。
『冬の小鳥』の孤児院に入れられていた少女は、頑なに、そして、ひたすらに、母親が迎えに来るのを待ち続けた。あの少女が大人になり、結婚もして、子どももいる、とでもいうようなこの『めぐりあう日』の設定が面白い。ここでも、彼女は自分を棄てた母親の . . . 本文を読む
2ヴァージョンで上演。しかも「女装男」、「女たち」という2パターン。どうして、『屋上のペーパームーン』という作品をそういうかたちで上演するのだろうか、不思議でならなかった。でも、きっと昇竜之介のなかでは勝算のある行為なのだろう。では、それってなんだろうか、と興味津々で劇場に向かう。この3年間で大竹野戯曲を3作品連続で取り上げた後の4年目の挑戦である。
大竹野作品を原作として自由脚 . . . 本文を読む