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映画・演劇のレビュー

額賀澪『タスキ彼方』

2024-02-29 06:38:00 | その他
額賀澪が『屋上のウインドノーツ』でデビューしたのは2015年。面白かったが、まだまだ未熟で若い彼女がこれから作家としてどうなっていくか、未知数だった。だけど、翌年には『タスキメシ』を書いてブレイクした。そこからは怒濤の展開である。ずっと読んできているけど、これだけの活躍をするようになるなんて思いもしなかった。  そんな彼女の最新作がこの小説である。幻の22回箱根駅伝から始まって100回 . . . 本文を読む
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加藤千恵『アンバランス』

2024-02-28 14:41:00 | その他
この小説が描く不安と哀しみはある種の地獄ではないか。どうしようもない傷みを抱えて生きることになった日々。ある日、知らない中年女が夫の浮気相手だといって訪ねてくる。そのくたびれた女は夫と付き合っている。夫とはセックスはしてない。夫が不能だから。もちろんそれはふたりだけの秘密。   夫は子供の頃に受けた性的虐待を今も抱えたままで生きていた。その事実を聞かされて傷つく自分の心と向き合う。向 . . . 本文を読む
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『バッドランド・ハンターズ』

2024-02-28 08:45:00 | 映画
観客から支持されるB級娯楽映画は敏感に時代の気分を反映する。世界が終わった後の世界。大地震から3年。これは『マッドマックス』を思わせる無法地帯となった世界を舞台にしてひとりの少女を守るために戦う男の物語。   もちろん主演はメル・ギブソンではなく、これはマ・ドンソクがこの世界に君臨する韓国発のNetflix映画である。今年1月公開された大作映画『コンクリート・ユートピア』の姉妹編らし . . . 本文を読む
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『TOKYO VICE』②

2024-02-28 08:41:00 | 映画
読みは当たった。第1話があんなにも面白かったから、もしかしたら、と心配してしまったのだ。そんな嫌な予感はいつも的中する。マイケル・マンから監督も変わってドラマはまるで別世界の様相を呈する。あの第1話の魅力はことごとく裏切られて欠陥になる。初めて日本の大手新聞社に入社したアメリカ人青年が東京の裏社会と向き合うという話をマイケル・マンは丁寧に描いた。  そんな第1話の魅力をことごとく反故にする。嘘っ . . . 本文を読む
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村山由佳『雪のなまえ』

2024-02-28 06:12:00 | その他
2020年12月刊行の作品である。23年12月に文庫化されたものを読む。440ページに及ぶ長編だ。  学校で虐めに遭って不登校になっていた小学5年生の雪乃。彼女は母と離れて(離婚ではない)夢の田舎暮らしを求めて会社を辞めた父と共に長野の曽祖父母の元に行く。母は仕事があるから東京に残り時間を作ってやって来る。家族はそんな生活を始める。そこから始まる物語は遅々として進まない。雪乃はいつまで . . . 本文を読む
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『ヴァチカンのエクソシスト』

2024-02-26 16:29:14 | 映画
これはとんでも映画だ。それなりの予算で作られた映画で真面目なホラー映画のように見える。だけど、最初から最後まで実にバカバカしい。だけど、「カトリック教会の総本山バチカンのローマ教皇に仕えた実在のエクソシスト、ガブリエーレ・アモルト神父の回顧録『エクソシストは語る』を映画化」したものだという。マジですか? ちゃんとした原作があるだなんて信じられない。お話はただの安いB級ホラーとしか思えない。今のラッ . . . 本文を読む
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大阪劇団協議会プロデュース『白き恋人たち』

2024-02-26 14:06:00 | 演劇
昨年、大作『梅子の梅根性』をものにした南出謙吾・作、しまよしみち・演出のコンビによる新作である。ふたりは前回の津田梅子に続いて今回は与謝野晶子に挑んだ。 主人公の晶子を演じたのは劇団未来の池田佳菜子。史上最大最悪(?)のドンファン、与謝野鉄幹の蛮行を描く前半から、そんな男に恋した晶子がどこまでも突き進む後半に突入するという怒濤の2時間30分である。 バカな男に入れ込む女。彼女がこんなつまらない . . . 本文を読む
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『落下の解剖学』

2024-02-26 13:54:00 | 映画
この不思議なタイトルにまず興味を抱いた。昨年カンヌ映画祭で注目されて(2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で最高賞のパルムドールを受賞)アカデミー賞にも4部門でノミネートされている作品。フランスのジュスティーヌ・トリエ監督の作品だ。雪山の山荘での転落事故死。自殺か、殺人か。妻が容疑者になる。地味な映画だけど2時間半に及ぶ長尺である。最近やけに長い映画が多い。もちろん面白かったら . . . 本文を読む
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『TOKYO VICE』

2024-02-25 12:30:22 | 映画
なんとマイケル・マンである。『ヒート』『コラテラル』といった骨太の大作映画を手掛けてきた彼がこのTVシリーズのスタートとなる第1話を監督した。2020年、コロナ禍の東京でロケした超大作TVシリーズ。なんと製作費88億円。1999年の東京、新宿を舞台にして外国人初の新聞記者になったアメリカ人青年が取材を通してヤクザ社会の闇にハマり込んでいく姿を描く。リドリー・スコットが大阪を描いた『ブラックレイン』 . . . 本文を読む
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白いたんぽぽ『初心者のための永遠』

2024-02-24 22:03:00 | 演劇
なんだか気になる不思議なタイトルだ。舞台美術が作品に先行して作品作りがなされたというのもなんだか不思議。竹腰かなこさんにまずプランを自由に作ってもらってそこから得たインスピレーションをもとに台本を書き起こした。舞台装置に合わせて芝居作りをした。何重にもなる(舞台上に3つ、客席にまで作られてある)細胞膜を思わせるアーチ。そこは3人の女性がそれぞれ暮らしている3室の部屋。あるいは水族館の水槽のガラス、 . . . 本文を読む
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創造street『あるいは沈む殻』

2024-02-24 17:16:00 | 演劇
初めて見る劇団だ。旗揚げから既に今回で9年になるらしいが知らなかった。今回の作品は彼らの代表作の再演。案内をいただいたので見に行くことにした。どんな世界を見せてくれるのか、楽しみである。ダブルキャスト2ヴァージョンでの上演。僕が見たのはチームピンクの方。まるで予備知識もなく見た。思いもしない芝居だった。戸惑いながらラストまで見た。こんなにも音楽がない。感情を音に乗せないのだ。せりふも少ない。噛み合 . . . 本文を読む
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シアター生駒『蜜柑とユウウツ 茨木のり子異聞』

2024-02-23 22:59:00 | 演劇
長田育恵の鶴屋南北賞受賞作品を熊本一の演出で贈るシアター生駒25周年記念公演。ダブルキャストでの公演で僕は高升君枝が主演するヴァージョンを見た。とても気持ちのいい作品に仕上がっている。これは考えようによったらストレートなお話だ。茨木のり子が亡くなって4ヶ月が過ぎた。空っぽになった彼女の家に編集者がやって来る。彼女が残した遺稿があるはずだから、それが欲しいと言う。管理をしている甥には心当たりはない。 . . . 本文を読む
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佐川光晴『あけくれ少女』

2024-02-22 08:03:00 | その他
80年代、尾道から東京へ。少女は小学生から中学生に、そして大学生に。彼女の20年に及ぶ軌跡を描く。自分らしく生きるために、全力で取り組む。親を説得して東京の4年制大学に進学する。だが、父の会社が倒産し親からの援助がなくなり大学を中退することになる。やがて波瀾万丈の90年代に突入する。4章からなる壮大な人生のドラマはひとりの女の子を立派な大人の女性に変えていく。小学生から33歳で結婚するまでのドラマ . . . 本文を読む
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『マエストロ その音楽と愛と』

2024-02-22 07:55:00 | 映画
レナード・バーンスタインの伝記映画をブラッドリー・クーパー脚本、監督、主演で贈る大作。プロデュースはなんとマーチン・スコセッシとスティーブン・スピルバーグのふたり。最初はふたりとも自ら監督するつもりで準備していたようだ。だがスケジュール的に不可能になり、主演にオファーされたブラッドリー・クーパーが名乗り出た。『アリー スター誕生』で監督デビューした彼の第二作となる。素晴らしい映画である。アカデミー . . . 本文を読む
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『テオレマ』

2024-02-21 16:00:00 | 映画
パゾリーニの68年作品が4Kリマスター版として復活した。50年以上前の映画を見るなんて久しぶりのことだ。しかもこの映画を見るのは初めてである。当時(多感だった10代、70年代の後半のこと)フェリーニやビスコンティは旧作も新作も見ていたがパゾリーニはあまり見ていない。パゾリーニやゴダールはあまり好きではなかったからだ。今回これを見たのも、たまたまである。有名な、でもあまり見る機会もなかったこの作品が . . . 本文を読む
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