あまりに甘く幼い、そして、ほろ苦い少年時代の回顧録である。May『チャンソ』と比較したならそのやわさには、ちょっとどうよ、とも思うが、でも、センチメンタルで、内省的で、ひとりよがりの小さな世界を大の大人が、何の衒いもなく、それどころか思いっきり開き直って、この傷つきやすく、懐かしい子供の世界を子供モード全開で見せていこうとするのは、潔い。
舞台は昭和40年代、小学校4年の夏休み。ひとりぼっち . . . 本文を読む
金哲義さんの新作は自らの高校時代にスポットを当てた青春グラフィティーなのだが、それは単なるセンチメンタルな感傷にはならない。大阪東部にある朝鮮学校の高等部という僕たちが覗き見ることができない聖域に入り、そこでの日常というものをドキュメンタリータッチで綴る3年間の物語は、生半可なものではない。
80年代の終わり、という時代背景も当然のことながらしっかり抑えられていく。それがこの芝居のベースなの . . . 本文を読む
70分というコンパクトな上演時間とぴったりあうような単純な内容。でも、そんな中で人の心の中に巣食う悪というものをとてもよく捉えてある。明日取り壊される都会のビルの真ん中に残っていた古い萱葺きの家屋。そこに現れた鬼。彼はかって何人もの村人を喰らい、人々を恐怖のどん底に落とし込んだ。
かっての、その悪行を彼の母親は隠すために死者の骨を、この家の地下に埋めていた。しかし、今ここが取り壊される前に、 . . . 本文を読む
この映画の毒気に当てられる。吉田恵輔は、前作『机のなかみ』で衝撃のデビューを果たした逸材だ。方法論の突飛さが驚きなのではない。意外なんてものを百万光年通り過ぎた唖然の世界を平気で展開して見せるその感性の異常さがおもしろかったのだ。
女子高生と家庭教師の歪なすれ違いが描かれた前作に続き、今度もまたありえないことを現実化させてしまう。
今時ここまで趣味の悪い喫茶店なんか犯罪的である。そんな店 . . . 本文を読む
押井守にとっては、『イノセンス』以来の長編アニメーションの新作となる。思いきった作り方をした映画になっている。だいたいこの原作を持ってきて1本の映画にしようとする試みの大胆さに驚く。この小説(森博嗣)は映画には不向きな題材である。あまりに単調な生活描写が延々と続き、絵にならない。戦闘機が飛び交うシ-ンも多々あるし、ドッグファイトだって描けるからそういうスペクタクルを狙えれるとは、誰も思うまい。こ . . . 本文を読む
阪本順治監督が『闇の中の子供たち』(公開はこちらの方が後で大阪は8月2日から)の後のリハビリとして撮った最新作は、松田優作の『遊戯シリーズ』の1本として企画された幻の台本(丸山昇一)の映画化。こういう単純アクションを1本撮ることでバランスを取るっていいことだと思う。
今まで阪本監督は様々なジャンルの映画に挑戦してきたが、この手のB級アクションは初めてではないか?『トカレフ』は基本はアクション . . . 本文を読む
地方の全寮制予備校を舞台にしたドラマ。ここで暮らす子供たちと、先生たち。彼らの夏の数日間を描くとても小さな作品。
教師側4人、生徒側4人、という登場人物は決して少ないわけではない。だが、彼らを通してこの学校の全体像が見えてこないから、芝居に奥行きが生じない。とても真面目な芝居だし、それぞれの気持ちは確かに描かれてあるし、共感できる。だが、それが点描でしかない。1本の線にはならない。その結果、 . . . 本文を読む
とても抑制の効いた舞台だ。高校生がここまで作品全体のカラーをセーブできるなんて、これではあまりに上手すぎないか。もちろん上手いのが悪いなんて、これっぽっちも思わない。そうではなく、この作者の冷静さが、どこから生じたのかが、気になる。感情を表には出し切らない。答えは口にしない。説明的にはならない。大人の手が入った、というのとも違う。なんだか、不思議だ。
題材自体はそんなにめずらしいものでもない . . . 本文を読む
この手の企画は、ほとんど失敗する。企画自体が魅力的であればあるほど、失敗する頻度は高くなる。全く違う個性がぶつかりあい、うまく化学変化を起こし、思いがけないものを示す、なんていう都合にいいことは、なかなか起きない。お互いに遠慮して、当たり障りのないところで、折り合いをつけたり、なぁなぁになって普段の力を発揮できないまま不完全燃焼となったり、どう転んでもろくでもないことが、待ち受けている場合が多い . . . 本文を読む
ジャッキー・チェンとジェット・リー(と、いうよりも僕らの世代にはリー・リンチェィーというほうが、ピンとくるのだが)の対決が見られる。夢のコラボがついに実現した。期待はしなかった。えてして、こういう企画は肩すかしを食らうことが多い。今まで、何度、だまされて来た事だろう。だから、極力期待もしないで、スクリーンと向き合った。
昔、バート・レイノルズとクリント・イーストウッドが共演した『シティーヒー . . . 本文を読む
時間がないから、書けない。今週末の芝居が始まる前に先週末の分を書いておきたいのだが、仕事が忙しすぎて、余裕がない。焦ったら何も書けないので、また、時間が出来たらゆっくり書こうと思う。今日は、そのためのプレビューです。
共犯企画『大炎上』はいろんなことを考えさせてくれる大作だった。合同公演の弊害、でもその魅力も詰まった芝居だった。作(尼崎ロマンポルノの橋本さん)と演出(悪い芝居の山崎さん)がこ . . . 本文を読む
1時間にも満たない小品である。しかも、3話からなるオムニバス。3人の作者たちによる3人芝居。自分たちの個々の感性のみを拠りどころにして、自由気ままに作り上げた短編をひとつにまとめてみせる。ささやかで、でもやさしい、とても気持ちのいい芝居だった。
こういう芝居を見ると、なんだかうれしい。派手でたくさんの人たちが舞台を駆け回る大作もいいけど、手作りで、真心のこもった、ただ、そこに人がいて、伝えた . . . 本文を読む
こんなにも暗くて重い映画になっているなんて、正直思いもしなかった。ハリウッドの娯楽大作の域を完全に逸脱している。もともと『バッドマン』シリーズは暗い話だったが、それにしても、これはやりすぎである。『スパイダーマン』もよく悩んでいたが、レベルが違うから。これは全く従来のヒーローものとは桁が違う。
こんな映画が(しかも、凄い大作なので、制作費はとんでもない額だろう)全国拡大公開されて、お客さんを . . . 本文を読む
上下2巻からなる長編だ。実は前半を読んだところで、あまり面白くない、だなんて書いてしまった。それが気がかりで、ちょっと書いてみる。後半に入ってから、徐々に面白くなる。4人の幼なじみの話が、どんどん広がる。
これは人が死ぬということ、を描いた小説だ。一番大切な友人が死んでいくということ。それをこの小説はこれ以上ないくらいに真摯にきちんと描いていく。お涙頂戴になんかならない。この目を逸らしてはな . . . 本文を読む
とてもシンプルでわかりやすい芝居だ。お話の中にすんなり溶け込んでいけるし、見ていて、楽しくて、これからどうなっていくのだろうか、と興味を駆り立てられる。結果、どんどん作品世界に取り込まれていくことになる。そして、気付くとその滅茶苦茶な話にどっぷりと浸っている。えっ?もうおしまいなの、と思わされて90分。全く退屈させないし、滅法面白い。これぞ、ザッツ・エンタテインメント!って感じだ。
いつのま . . . 本文を読む