岡部尚子さんはどんどん進化している。その事実を確かに実感させられる空晴の最新作である。今年結成5周年を迎え、これが第9回公演となる。三都市、23ステージのロングランというのも、すばらしい。最初に目指したビジョンからぶれることなく、着実に前進していく。しかも、牛歩の勢いで、である。マッハのスピードで走り抜けることは、簡単だ。でも、こんなにも、1歩1歩前進するのは、本当は難しい。彼女は、慌てない。ラ . . . 本文を読む
このモノクロ・サイレントの意図的に古くさい映画には、映画の夢がすべて詰め込まれてある。たしかにあざといことはあざとい。でも、ぎりぎりで受け入れることができる。というか、好きだ、と言ってしまってもいい。
1920年代後半、映画がサイレントからトーキーに移行し、映画革命が起きた頃、当時、名声を浴び、得意の絶頂にあったひとりの大スターが、落ちぶれていくのと同時に、ひとりの名もない女優志願の若い女性 . . . 本文を読む
なんだかとても疲れてしまった。(今日まで3日間、恒例行事であるクラブの春合宿だったのだ)こんな日は、ただ、何も考えないで、ぼんやりと映画でも見たい、と思った。どこの国の、どんな映画なのかも、わからないような作品を見ようと思って、これをレンタルしてきた。何の予備知識もなく、タイトルだけで選んでみた。ちょっと重かったが、今の気分にマッチした映画だった。
何よりもまず、なんとも不思議なこのタイトル . . . 本文を読む
これは震災以後の自分の心境を物語るよしもとばななの新作である。死者との交信を描く。でも、これって特別なことではなく、いつもの彼女の定番のようなものだ。
突然の事故で恋人を失い、自分もおなかに穴が開き、ほとんど死んでしまっていた女性が、奇跡的に命をとりとめ、再び現実世界に戻ってくる。でも、もう恋人はいない。たったひとりになり、生きる望みも失い、でも、死ぬこともできず、生きる。生き残ったことに感 . . . 本文を読む
虚空旅団の高橋恵さんによる台本を、桃園会の深津篤史さんが演出するこの春一番の期待作。女性写真家の山沢栄子さんをモデルにしたオリジナル作品。伝記ではなく、フィクションとすることによって、史実に縛られることなく、自由に山沢さんの生き方を語れたのではないか。彼女の考え方、精神を忠実に救い上げることが、事実と虚構を縦横に駆使することで可能となった。高橋さんは今回も自分の劇団でやっている今のスタイルを踏襲 . . . 本文を読む
金蘭会高校の『修学旅行』を彼女たちの本拠地であるウィステリアホールで見た。春休み公演として「修学旅行~金蘭style2012~」と題された本作品は、昨年夏、勤務している高校の視聴覚行事として見た青年劇場によるオリジナル版とは、違い、ちゃんと金蘭会らしいアレンジがなされてある。彼女たちがやると、どんな作品も自分たちのカラーに染まってしまうのがおもしろい。だから、いつも「金蘭スタイル」とサブタイトル . . . 本文を読む
先日見た『逆転裁判』の三池崇史監督のひとつ前の作。昨年の夏に公開された。連続して作られたこの2作品はとてもよく似ている。どちらも、とてつもなく、くだらない。
正直言うと、あまりにバカバカしくて、あきれたのだが、本人たちはそんなこと、充分承知の上でやっているのだから、これを見て怒るのはお門違いだろう。それにしても、こんなバカを延々やり続けるエネルギーには恐れ入る。ワーナーも、よくもまぁこんな映 . . . 本文を読む
19,20歳の頃の不安と憂鬱。そんなものから遠く離れてしまったけど、この小説を読みながら久しぶりにあの頃に想いを馳せることが出来た。自分が何者でもなく、(というか、今でも何者にもなれてないんですけど)、ただ漠然と将来に不安を抱いていた日々。夢なんかない。現実に押し潰されて、自分にはムリ、と思うこと。それしか、なかった。才能もないし、ただ人並みに生きれたなら、それだけで充分だ、と思いつつも、でも、 . . . 本文を読む
この作品については、先の『はやぶさ 遥かな帰還』の項でも少し触れた。三作品競作の最終作品だ。今回の売りは3Dと、子供目線ということなのだが、予想以上に悲惨なことになった。作品的にも、そうだが、まず興行的に惨敗を喫した。そんなこと、最初からわかりきったことだったが、それでもここまで人が入らないと、製作会社はショックだろう。三作品ともに沈没したが、それでもまだ先の2作品はましだ。作品的には、ある種の . . . 本文を読む
この短編集は怖い。もちろんこれはホラーではない。死んでしまった子供たちの話だ。8つの短編はそれぞれ不思議な出来事を描くのだが、それは仕方ないことだ、と思わされる。土俗的な風習のようなものが、それぞれのお話のベースにはある。時代は今ではなく、ほんの少し昔。まだ日本の産業が農耕を主とする時代の話だろう。明治とか、大正とか、昭和の前半の頃。戦争の前の話だ。もちろんどこにもそんなことは書かれていない。漠 . . . 本文を読む
これは原題のまま『アイアン・レディー』でよかったのではないか。いくらなんでも『鉄の女の涙』ってないだろ。しかも、それはサブタイトルだし。サッチャーという女性を、どう描くか、いろんな切り口があったはずだ。この映画の選択は悪くはない。年老いて、認知症になった彼女が、死んでしまった夫の亡霊とともに過ごす今の時間から、過去の歴史を振り返る。伝記物なのだが、彼女の偉業を描くと言うのではなく、今の彼女の現実 . . . 本文を読む
8話からなる短編連作だ。1本が10分程度という長さ。これだけの尺で何かを表現することは難しい。空の驛舎『追伸』が3話であることについて、先ほど書いたのだが、その直後にこの作品を見たのは偶然なのだが、面白い偶然だ。10分であろうとも、ちゃんと完結するエピソードが描けれる。まぁ、当然のことだろう。ただ、『追伸』で中村さんが8作品、あのレベルで作り、しかも、それを一気に見せて成功できたか、はわからない . . . 本文を読む
これはこの集団の前作である『under-ground』のアンサーソングのような作品になっている。村上春樹も『アンダーグラウンド』(別の作品だけど)を書いた後、対になるように『約束された場所で』を書いたけど、中村さんもこの作品で震災を別の視点から描く。ここに描かれるのは3・11ではなく、もっと漠然としたものだ。東北でも、神戸でもない。特定されないし、震災ですら、ないかもしれない。だが、明らかにこれ . . . 本文を読む
このアトリエに来ると、それだけで懐かしい気分に包まれる。昔はこういう場所でよく芝居を見た。たとえば京橋のアルバトロス。あそこになんか一時期本当に足繁く通ったものだ。
倉庫を改造して稽古場にする。そこで定期的に芝居を打つ。せいぜい50席ほどの客席にぎゅうぎゅう詰めて、芝居を見る。夏は暑くて、冬は寒い。そんな自然なままの空間で、わけのわからない独りよがりすれすれの作品に熱狂する。そんな時代がかつ . . . 本文を読む
ファーストシーンの台北駅、中央待合所で、椅子に座る少女の姿を見たときから、この映画の虜になった。あそこで僕も座っていたことがある。ちょうど彼女が座っている同じベンチだ。初めて台湾に行った時、彼女と同じようにあそこで、ちょっと心細そうにして、待っていた。
映画の中では、この後、天井から雪が降る。吹きぬけになっていて、とても高い。でも、駅のなかに雪が降るわけはない。この幻想的なシーンから、このメ . . . 本文を読む