石井隆の新作だ。昨年、『フィギュアなあなた』と2本撮りした2本目の作品。2本ともよくあるロマンポルノ作品の定番の内容で、それを敢えて、彼が手掛けることに何の意味があるのだろうか、そのことも気になった。女子高生を監禁して調教する、なんていう散々ポルノ映画が遣り尽くした内容である。しかも、それを15年後、医者になった主人公のお話と同時進行で見せていくが、昼間は優しい医者で、夜はSM嬢なんていう、これ . . . 本文を読む
重松清の小説を舞台化した。リタイアした60代の男たちが、毎日を持て余す日々をリアルに描けたならおもしろいのだが、まるで絵空事のようで、納得いかない。話の導入部があまりに安易だ。主人公の山崎さんが戸惑いながら生活する日々をもっとじっくり見せなくてはその先が切実にはならない。なんだか段取り芝居を見せられているような気分になる。あまりに簡単に「定年男子会」のメンバーになり、そこで生きがいのようなものを . . . 本文を読む
もう20年間も桃園会の芝居を1本も欠かすことなく見ているのか、と改めて思う。パンフのはたもとさんの文章を読んでそのことを知った。
僕にとって深津さんの芝居を見ることは、もちろんそれは桃園会の芝居を見ることとも重なるが、それは他の何物にも代え難いものだったのだ、と気づく。もちろん、それは結果論であって、普段はそんなことは一切考えない。でも、また、桃園会の公演がある、ただそれだけでうれしい。
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このなんだかまるでやる気のないようなタイトルに心惹かれて読み始めて、やはりまるでやる気のないようないいかげんな小説のユルユル感に、最初は戸惑いながらも、でも、徐々に「まぁ、これはこれでいいかぁ、」とあきらめる。
そんなふうに書き出すとこれはとんでもなくつまらない小説に思えるが、そうではない。これは確信犯の所業だ。ただ、あまり上手くないから、少しダレる。5話からなる短編集、というスタイルだが、 . . . 本文を読む
これは深川栄洋監督の初期作品。今のような売れっ子監督になり、時代の寵児になるなんて思いもしなかった時代の作品。『狼少女』でデビューした時は、きっとこれだけで消えるのではないか、と思った。悪い映画ではなかったけど、マニアックで、線の細い作品で、惜しいけど、無理、と思った。それが今では引く手あまたの若手作家のエースである。メジャー大作から小品まで、なんでも手掛けて、見事な作品に仕立ててしまう。商業映 . . . 本文を読む
昨年10月、試演会がなされた。今回は満を持しての完全版としての上演となる。『O嬢の物語』を題材にしてレトルト内閣の三名刺繍が自由翻案した。1920年代上海租界を舞台にし、その魔窟で娼婦として生きていくことになる女を見つめる語り部となる女(ナレーション部分だけではなく、登場人物のほとんどのセリフも、彼女の口から発せられる!)の視点から見た幻の魔都上海の幻想。寺山修司の映画『上海異人娼館』の世界を自 . . . 本文を読む
なんと、『スープの国のお姫様』の後に読んだこの本もまた、食をめぐるお話だ。偶然だが、なんだか不思議な連鎖。楽しい。『ランチのアッコちゃん』の柚木麻子だもの、当然のことか。
女子中学の頃からのなかよし4人組のお話だ。29歳になった彼女たちの友情が描かれていく。4話からなる(もちろん、それぞれが主人公となる)連作、そこに最後にもうひとつ、全員を主人公にした最終話が用意される。まぁ、至れり尽くせり . . . 本文を読む
表紙を見たときに、これは無理か、と思ったが、作者は『大人ドロップ』の樋口直哉である。思い切って読み始めた。心配は杞憂に終わる。これはとても素晴らしい小説だ。こんなにも胸に沁みて、心地よい時間を過ごすことが出来たことを心から喜びたい。読んでいて癒される。ページを捲りながら、幸福感に包まれる。この時間が永遠に続けばいい、と願う。でも、そんなことは不可能だ。350ページで終わる。主人公はこの屋敷から去 . . . 本文を読む
初演以上に華やかで、ショーアップがなされた超大作としてよみがえる。歌と踊りを随所に織り込み、休憩10分を挟んでの3時間に及ぶ作品になった。総勢70名に及ぶキャストで贈る往来創立30周年の記念作品だ。初演も見ているが、今回、前作を超えた。
それは前以上に派手になったから、ではない。そういう意味では別に変りはない。変ったのは、そこではなく、描くべきことをさらに明確にしたことだ。16人の少女たちが . . . 本文を読む
60年の歳月を経てよみがえったオリジナル『ゴジラ』。デジタルリマスター版が全国一斉公開中だ。劇場の大スクリーンで『ゴジラ』を見ることができる至福を逃すわけにはいかない。しかも、映像は修復されて、とてもきれいになっている。白黒の映像は劇場でこそ映える。明暗がくっきり出て、この作品の怖さはちゃんと再現される。モノクロ・スタンダードサイズというこの映画のフレームは、描かれる内容に見事、マッチしている。 . . . 本文を読む
伊坂幸太郎の原作小説の映画化には、まず、はずれがない。話自体が面白いのだから、そこをちゃんと再現したなら、出来のいい映画になるのは必然だ。
だが、それって、実はかなり難しいことなのだ、ということがこの映画を見てよくわかった。今までこんなにも面白かったのは、当たり前の話なのだが中村義洋監督の力だったのである。そんなことに改めて気づかされる。
今までの映画化作品の歴史を振り返ればいい。これが . . . 本文を読む
先日DVDで劇場版第1作を見て、感心した。そこで、今公開中の第2作の方は劇場で観ることにした。今回も2時間13分と長い。この長さがこの作品の魅力のはずだった。1作目は本当によく出来ていた。それだけにパワーアップした本作に期待をしてしまったのが間違いだった。
残念である。でも、こうして失敗するのが、世の中の常だ。仕方ない。まず、一番の問題は、同じ切り口ではただの二番煎じにしかならない、というこ . . . 本文を読む
今回の朝井リョウは帯にもあるようにダークだ。3人の女のお話。3話からなる連作。話はちゃんとつながっていく。1話目のお話の脇役が、次の話の主人公になるというよくあるパターンなのだが、その選には、結構微妙な人物が選ばれる。いずれも、自分を信じきれなくて、何とかしたいと、もがき苦しむ。読んでいて暗い気分にさせられるのだが、止まらない。落とし所も、かなり微妙なラインだ。
もっと上手く生きられたのでは . . . 本文を読む
ジャ・ジャンクーの新作である。何はさておき、まず、これを見なくては始まらない。その他の映画なんか見ている場合ではない。
初めて彼の『世界』を見た時から、僕はいろんなことを考えなおすことにした。10年ほど前の話だ。その時、まず、中国に行かなくてはならない、と思った。世界ではとんでもないことが起きていると思ったのだ。そしてこの世界が終るのではないか、と思った。それくらいに衝撃的な映画だった。北京 . . . 本文を読む
このタイトルは、「男だけの世界」という意味ではない、と本人が「まえがき」でも述べている。だいたい、こういう短編集に「まえがき」があるということ自身が驚きだ。作品の成立事情なら、「あとがき」で十分ではないか。というか、そういうものがいらない、と考えるのが普通だ。もちろん、村上春樹自身がそんなこと百も承知。でも、敢えてそれをするのには、彼なりの事情というものがあったのだろう。これは、そういうエクスキ . . . 本文を読む