1961年
別所コーチにウインクしながら堀本はダッグアウトを出ていった。九回裏、あと1イニング投げれば九ヶ月ぶりのシャットアウト勝ちが待っている。中盤ごろはちょっと不安だった別所コーチも「三、四、五番か」とひとりごとをいっただけに別にアドバイスを与えない。広島を完封した堀本はナインに抱きかかえられるようにしてダッグアウトへ。そこにはまた選手のさし出した手がいっぱいヒーローを待っていた。「久しぶりで気持ちがいい。スピードがあったのがよかったんだよ。そうだな、去年のいいときのスピードにもどっているようだ」広島の打球はこのスピードに押えられて、左翼方面にとんだのは大和田の三遊間安打を含めて2本。青田昇氏は「広島の打者はひっぱろうとする無策なバッティングだったが、あれだけのスピードならもう心配はいらない」とほめちぎっていた。だが昨年九月十四日の対中日戦以来久しぶりの完投シャットアウトにもかかわらず、堀本はまだまだ注文があるようだ。「内角高目いっぱいをついてから外角へ遠いストレートを投げた。このタイミングはよかったがどうもカーブがいかんな。5本のヒットのうち3本がカーブ。みんな真ん中へ集まってしまった。あれが外角へ切れなくちゃ本物とはいえんよ」暗いせまい廊下を出口の方へ足ばやに歩きながら自分のピッチングを反省していた。「九回はなんともなかったけど六回ごろがつらかった。なにぶん完投能力のない新人投手ですからね」ことしシーズン・オフにつくった背広がアメリカ遠征からかえってみると、きつくてはいらないくらい太っていた。当然調子はわるい。一度自分から多摩川(二軍)におちて練習した苦労がやっと報われた。「昨年にくらべて不振がつづいたのでいろいろといやなこともいわれたが、これでふっとばすぜ」大きなバス・タオルを巻きつけた堀本は、トレード・マークの大きいメダマをぎょろりとむいて笑いだした。エースのいない巨人にエース復活だ。
別所コーチにウインクしながら堀本はダッグアウトを出ていった。九回裏、あと1イニング投げれば九ヶ月ぶりのシャットアウト勝ちが待っている。中盤ごろはちょっと不安だった別所コーチも「三、四、五番か」とひとりごとをいっただけに別にアドバイスを与えない。広島を完封した堀本はナインに抱きかかえられるようにしてダッグアウトへ。そこにはまた選手のさし出した手がいっぱいヒーローを待っていた。「久しぶりで気持ちがいい。スピードがあったのがよかったんだよ。そうだな、去年のいいときのスピードにもどっているようだ」広島の打球はこのスピードに押えられて、左翼方面にとんだのは大和田の三遊間安打を含めて2本。青田昇氏は「広島の打者はひっぱろうとする無策なバッティングだったが、あれだけのスピードならもう心配はいらない」とほめちぎっていた。だが昨年九月十四日の対中日戦以来久しぶりの完投シャットアウトにもかかわらず、堀本はまだまだ注文があるようだ。「内角高目いっぱいをついてから外角へ遠いストレートを投げた。このタイミングはよかったがどうもカーブがいかんな。5本のヒットのうち3本がカーブ。みんな真ん中へ集まってしまった。あれが外角へ切れなくちゃ本物とはいえんよ」暗いせまい廊下を出口の方へ足ばやに歩きながら自分のピッチングを反省していた。「九回はなんともなかったけど六回ごろがつらかった。なにぶん完投能力のない新人投手ですからね」ことしシーズン・オフにつくった背広がアメリカ遠征からかえってみると、きつくてはいらないくらい太っていた。当然調子はわるい。一度自分から多摩川(二軍)におちて練習した苦労がやっと報われた。「昨年にくらべて不振がつづいたのでいろいろといやなこともいわれたが、これでふっとばすぜ」大きなバス・タオルを巻きつけた堀本は、トレード・マークの大きいメダマをぎょろりとむいて笑いだした。エースのいない巨人にエース復活だ。