まず、一般的な労働組合における、組合事務所の考え方として・・・
○労働組合法
=====【引用ここから】=====
(不当労働行為)
第七条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
○最高裁判例 昭和62年05月08日
=====【引用ここから】=====
労働組合による企業の物的施設の利用は、本来、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものであり、使用者は、労働組合に対し、当然に企業施設の一部を組合事務所等として貸与すべき義務を負うものではなく、貸与するかどうかは原則として使用者の自由に任されているということができる。
=====【引用ここまで】=====
使用者が労働組合に援助を行うことは、労働組合の独立性を侵す不当労働行為として禁じられている。世の中、「金を出せ、口は出すな」は通用しない。支援を受けるということは、一定の場合に口出し、介入されることを許容することを意味するからだ。
ここで、労働組合法は「最小限の広さの事務所の供与」を不当労働行為から除外している。最小限の事務所提供は使用者の禁止行為から除外されているが、では使用者が事務所を提供する義務があるかというと、そうではない。組合に事務所を提供するかどうかについては、使用者側に広い裁量が認められている。
次に。
労働組合法の適用のない地方公務員の組合(職員団体)が、役所内に組合事務所を構える根拠規定としてよく使われているのが次の条文。
○地方自治法
=====【引用ここから】=====
(行政財産の管理及び処分)
第二百三十八条の四
7 行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。
8 前項の規定による許可を受けてする行政財産の使用については、借地借家法 (平成三年法律第九十号)の規定は、これを適用しない。
9 第七項の規定により行政財産の使用を許可した場合において、公用若しくは公共用に供するため必要を生じたとき、又は許可の条件に違反する行為があると認めるときは、普通地方公共団体の長又は委員会は、その許可を取り消すことができる。
=====【引用ここまで】=====
自治体の行政財産は、何らかの公的な目的を与えられた上で設置されている。税金を使って不動産を買ったり建物を建てたりするのだから、税金を投じるに足る何らかの用途・目的が通常は設定されている。
地方自治法では、庁舎をはじめとする行政財産を特定の個人・団体に使用させることができるとされている。ただこれは、あくまでも公的な用途・目的を妨げないことが必要。行政財産の目的外使用許可を受けたとしても、強い権利が認められたわけではない。賃借人の強い権利を認めている借地借家法を、行政財産の目的外使用については適用除外としている。
この行政財産の目的外使用ということで、自治体は職員組合に対し庁舎の一部を組合事務所として使用することを認めている(大阪市はこのケース)。
さてここで。
役所では、庁舎内の会議室やホールを、私的団体の会議、講習、イベントのために貸し出すことがある。こうした諸団体の会議や講習は公的な用途・目的ではなく、上記の行政財産の目的外使用許可として貸し出しが行われている。
老人クラブや障害者団体、町内会、遺族会、英会話教室、パソコン教室、女性セミナー、健康クラブ、人権団体などの様々な団体が、行政財産の目的外使用許可を得て、日時を指定して会議室を一時的に使用している。
通常の会議、講習、イベントでは、指定した一定の時間帯のみ会議室を占用する。ところが、事務所として使うとなると占用の度合いが大きく異なる。
事務所として会議室の目的外使用許可を受ければ、そこにパソコンやプリンター、事務机、キャビネット等を運び込み、事務所としての体裁を整えるだろう。1年間の使用許可であれば、24時間365日、その団体が独占的に会議室を使用することになる。特定団体の私物の機器や内部資料が並んでいる場所で、他の団体が会議や講演をするというのはまず無理。
会議室を講習の場として一時的に使うのと、事務所として使うのとでは、排他性の強さに格段の違いがある。これだけの排他性を、特定の団体に認めるというのは行政としてどうなのか、という疑問がある。
1年という長期間にわたって、事務所として特定の団体に使用させる。これは、24時間365日、他の団体の会議や講習などでの使用を排除するということを意味する。また、事務所として様々な機器や内部資料があるため、突発的に生じた公用目的の使用にも対応できない。
現在、自治体が既に組合事務所に目的外使用許可を出している場合、自治法の規定により、使用期間の途中で許可を取消すのであれば、一旦許可を与えてしまっている以上、取り消す理由が具体的に予想される、あるいはその理由が既に発生していることが必要だ。
しかし、新規に目的外使用許可申請を出す場合(あるいは、使用期間が終了して再申請する場合)は違う。自治法の規定上、許可をするかしないかの裁量が認められているのだから、公用目的が発生するかもしれないという蓋然性がありさえすれば、特定団体への長期間の排他的利用を許可しないと判断しても裁量権の濫用とはいえないはずだ。
また、平等の観点からも問題がある。
職員組合も上記の諸団体と同様、私的な団体である。職員組合が事務所として庁舎の一部を使用することができるのであれば、その他の諸団体も自治体に事務所としての申請をすれば許可されるはずである。その他の団体に事務所として使用させることができないのであれば、職員組合に対しても認めるわけにはいかない。
憲法第14条「法の下の平等」に最低限含まれる内容、「法適用の平等」である。
私企業であれば、
「自分の会社にある労働組合に事務所を提供はするけど、他の会社の従業員の組合にまで事務所を提供はしないよ。」
というのは当たり前。
だが、行政はそうはいかない。住民に対して、ルールを一律に適用しなければならない。法適用の平等である。自治体で行政財産の目的外使用に関するルールを定めたら、職員組合であれ、老人クラブであれ、他所の労働組合であれ、同じ基準で使用の可否を検討しなければならない。
会議室がたくさんあるビルを行政財産として所有しており、一定の条件を定めて様々な団体に会議室を事務所として貸し出しているような自治体であれば、職員組合に対して事務所として貸し出しても、法適用の平等の観点で問題はない。しかし、そういった自治体は少ないだろう。むしろ、少ない会議室を各部署で融通しあいながら、どうにか対処している自治体の方が多いはずだ。
他の団体から見れば、職員労組にだけ事務所としての長期の排他的利用を認めている現状こそ、自治体の裁量権の濫用と映るのではないだろうか。
労働組合法で保護されている労働組合でさえ、使用者が労働組合に事務所を提供する義務はないのだ。行政財産の排他的利用、法適用の平等の観点という二つに照らして、なお職員組合に組合事務所を提供しなければならない、という理由が私には考え付かない。
公務員の組合は、庁舎以外でどこか空き店舗を事務所として借りたらいい。そして、役員会とか職員が集まる必要がある場合は、他の団体と同様、日時を指定して役所の会議室を借りるようにしたらいい。
○労働組合法
=====【引用ここから】=====
(不当労働行為)
第七条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
=====【引用ここまで】=====○最高裁判例 昭和62年05月08日
=====【引用ここから】=====
労働組合による企業の物的施設の利用は、本来、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものであり、使用者は、労働組合に対し、当然に企業施設の一部を組合事務所等として貸与すべき義務を負うものではなく、貸与するかどうかは原則として使用者の自由に任されているということができる。
=====【引用ここまで】=====
使用者が労働組合に援助を行うことは、労働組合の独立性を侵す不当労働行為として禁じられている。世の中、「金を出せ、口は出すな」は通用しない。支援を受けるということは、一定の場合に口出し、介入されることを許容することを意味するからだ。
ここで、労働組合法は「最小限の広さの事務所の供与」を不当労働行為から除外している。最小限の事務所提供は使用者の禁止行為から除外されているが、では使用者が事務所を提供する義務があるかというと、そうではない。組合に事務所を提供するかどうかについては、使用者側に広い裁量が認められている。
次に。
労働組合法の適用のない地方公務員の組合(職員団体)が、役所内に組合事務所を構える根拠規定としてよく使われているのが次の条文。
○地方自治法
=====【引用ここから】=====
(行政財産の管理及び処分)
第二百三十八条の四
7 行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。
8 前項の規定による許可を受けてする行政財産の使用については、借地借家法 (平成三年法律第九十号)の規定は、これを適用しない。
9 第七項の規定により行政財産の使用を許可した場合において、公用若しくは公共用に供するため必要を生じたとき、又は許可の条件に違反する行為があると認めるときは、普通地方公共団体の長又は委員会は、その許可を取り消すことができる。
=====【引用ここまで】=====
自治体の行政財産は、何らかの公的な目的を与えられた上で設置されている。税金を使って不動産を買ったり建物を建てたりするのだから、税金を投じるに足る何らかの用途・目的が通常は設定されている。
地方自治法では、庁舎をはじめとする行政財産を特定の個人・団体に使用させることができるとされている。ただこれは、あくまでも公的な用途・目的を妨げないことが必要。行政財産の目的外使用許可を受けたとしても、強い権利が認められたわけではない。賃借人の強い権利を認めている借地借家法を、行政財産の目的外使用については適用除外としている。
この行政財産の目的外使用ということで、自治体は職員組合に対し庁舎の一部を組合事務所として使用することを認めている(大阪市はこのケース)。
さてここで。
役所では、庁舎内の会議室やホールを、私的団体の会議、講習、イベントのために貸し出すことがある。こうした諸団体の会議や講習は公的な用途・目的ではなく、上記の行政財産の目的外使用許可として貸し出しが行われている。
老人クラブや障害者団体、町内会、遺族会、英会話教室、パソコン教室、女性セミナー、健康クラブ、人権団体などの様々な団体が、行政財産の目的外使用許可を得て、日時を指定して会議室を一時的に使用している。
通常の会議、講習、イベントでは、指定した一定の時間帯のみ会議室を占用する。ところが、事務所として使うとなると占用の度合いが大きく異なる。
事務所として会議室の目的外使用許可を受ければ、そこにパソコンやプリンター、事務机、キャビネット等を運び込み、事務所としての体裁を整えるだろう。1年間の使用許可であれば、24時間365日、その団体が独占的に会議室を使用することになる。特定団体の私物の機器や内部資料が並んでいる場所で、他の団体が会議や講演をするというのはまず無理。
会議室を講習の場として一時的に使うのと、事務所として使うのとでは、排他性の強さに格段の違いがある。これだけの排他性を、特定の団体に認めるというのは行政としてどうなのか、という疑問がある。
1年という長期間にわたって、事務所として特定の団体に使用させる。これは、24時間365日、他の団体の会議や講習などでの使用を排除するということを意味する。また、事務所として様々な機器や内部資料があるため、突発的に生じた公用目的の使用にも対応できない。
現在、自治体が既に組合事務所に目的外使用許可を出している場合、自治法の規定により、使用期間の途中で許可を取消すのであれば、一旦許可を与えてしまっている以上、取り消す理由が具体的に予想される、あるいはその理由が既に発生していることが必要だ。
しかし、新規に目的外使用許可申請を出す場合(あるいは、使用期間が終了して再申請する場合)は違う。自治法の規定上、許可をするかしないかの裁量が認められているのだから、公用目的が発生するかもしれないという蓋然性がありさえすれば、特定団体への長期間の排他的利用を許可しないと判断しても裁量権の濫用とはいえないはずだ。
また、平等の観点からも問題がある。
職員組合も上記の諸団体と同様、私的な団体である。職員組合が事務所として庁舎の一部を使用することができるのであれば、その他の諸団体も自治体に事務所としての申請をすれば許可されるはずである。その他の団体に事務所として使用させることができないのであれば、職員組合に対しても認めるわけにはいかない。
憲法第14条「法の下の平等」に最低限含まれる内容、「法適用の平等」である。
私企業であれば、
「自分の会社にある労働組合に事務所を提供はするけど、他の会社の従業員の組合にまで事務所を提供はしないよ。」
というのは当たり前。
だが、行政はそうはいかない。住民に対して、ルールを一律に適用しなければならない。法適用の平等である。自治体で行政財産の目的外使用に関するルールを定めたら、職員組合であれ、老人クラブであれ、他所の労働組合であれ、同じ基準で使用の可否を検討しなければならない。
会議室がたくさんあるビルを行政財産として所有しており、一定の条件を定めて様々な団体に会議室を事務所として貸し出しているような自治体であれば、職員組合に対して事務所として貸し出しても、法適用の平等の観点で問題はない。しかし、そういった自治体は少ないだろう。むしろ、少ない会議室を各部署で融通しあいながら、どうにか対処している自治体の方が多いはずだ。
他の団体から見れば、職員労組にだけ事務所としての長期の排他的利用を認めている現状こそ、自治体の裁量権の濫用と映るのではないだろうか。
労働組合法で保護されている労働組合でさえ、使用者が労働組合に事務所を提供する義務はないのだ。行政財産の排他的利用、法適用の平等の観点という二つに照らして、なお職員組合に組合事務所を提供しなければならない、という理由が私には考え付かない。
公務員の組合は、庁舎以外でどこか空き店舗を事務所として借りたらいい。そして、役員会とか職員が集まる必要がある場合は、他の団体と同様、日時を指定して役所の会議室を借りるようにしたらいい。