マリア山中からグラナダの西、アンテクエラの北部まで300kmをゆく。
この日は大西洋の低気圧が激しい嵐となって、今冬私たちが滞在予定のアルガーヴに洪水を起こし大変な被害をもたらした。
低気圧は衰えることなくスペインを襲い、激しい雨を降らせている。
この朝、昨日と一変して、雨雲が低く山中では霧が発生して、道路わきがぼんやり見えるくらいだった。霧の中から山道の脇に変わったオブジェが現れる。なんとなく不気味な小悪魔の感じだった。
マリア山中から150kmほどは道路わきにアーモンド畑が連なり、春のピンクの花の咲くころにはもう一度通ってみたいところだった。途中からオリーヴ畑に替わり銀色のオリーヴの葉が雨風に激しく揺れている。
最後の50km地点で雨雲から開放された。やっぱり青空はいい。行くところあちこちの畑地が大きな水溜りや湖のようになり、かもめが畑地の水溜りに浮いていた。この辺り海からは60-70km内陸の盆地なのにかもめはどこにでも繁殖できるらしい。
2年前に出来たばかりのキャンプ場はモダンできれいなサイトだけれど、やっぱり雨が激しかったから水はけが悪い。通路にキャンパーを停めた。
嵐が去った翌日から天気が回復し、洗濯物を干して周辺を散歩する。道端にへちまが下がっていて、へちまなど見るのは一体何十年ぶりだろうかとふと考えてしまった。
歩道にひょろひょろ伸びているのはオレンジの木でまだ青い実がなっている。飾りのオレンジは実が実っても甘くないのはもう何回も経験済みだ。
アンテクエラはロンリープラネットに拠れば、知られていない掘り出し物の観光地とのことだった。キャンプ場からはバスが出ていないからキャンパーで行くしかない。
カーナビをつけていったところが旧市街の狭い一方通行の道ばかり、大きなキャンパーを停めることが出来ない。結局駐車場探しで町の中をぐるぐる回って、ストレスが溜まるばかり。諦めて次のキャンプ場オルヴィラへ行くことにした。
スペインの道路はどんな田舎道でも素晴らしく良い。たぶんスペインがEUに加入した際もともと貧しい国だったのに潤沢な借入金を道路や住宅,それに風力発電、太陽熱発電など設備投資に使ったものと思われる。それの元の取れぬまに、今その付けが回ってこの国は経済不振と不況にあえいでいる。
オルヴィラはアンテクイラから山道を上がったり下がったりした挙句着いた盆地で真ん中に高く突き出た岩山全体が町と教会と城砦のこれぞ隠れた観光地だった。おまけにキャンプサイトが町から離れた小山のてっぺんを全部占めており、見晴らしの良いことはいうまでも無い。見渡す限りオリーヴの木が規則正しく並んで植えられ、あちこちに散らばる白壁の家々はとってもかわいい。
キャンプサイトのシャワートイレ、キッチンなどは新しく清潔で、こんな環境のサイトはあまり経験していない。トイレの男女のマークがさすがスペインを思わせる。
夕日が山の向こうに沈む頃は幾重もの山並みが色とりどりに変わり只ボーゼンと岡に立ちつくし神秘的な世界を眺めていた。
夕焼けの最後が燃え尽きる頃でも、わがキャンパーが天空にうかんでいる。