カレーからフランスを縦断するにしても、なるべく行ったことの無い行路を選んでいる。この地図で見ればお分かりと思うが、今年のコースはフランス中央部を真っ直ぐ地中海沿岸へ向かって南下したもので、中央部オーリオンから海抜1000メータ前後の山間を上下する長距離コースは無料の高速道路が無ければ幾日かかるか判らない。
渓谷のキャンプサイトを後にしたものの、カーナビに頼らないでと思って間違って全く反対方向へ行き、往復50k以上も無駄にした。しかし山頂から見下ろした山間部は素晴らしく、遠くにヨーロッパで一番高い橋を眺められて、不幸中の幸い。
高速道路で100km近くも雲の中を走っていたらしくあたり一面霧雨で暗かったが南下して地中海が近づいてくるにつれ、空も明るくなってきた。8年前に来て1週間も滞在したルーケイト(Leucate)のキャンプサイトで今回もゆっくりしようと夢見てきたのに、キャンプサイトは閉まっていた。天気も怪しげで強風、小雨がちらつく寒い夕方になってしまった。
幸い海辺にキャンピング・プラッツがあり一泊7.2ユーロ、すべてがオートメ化していてクレジットカードを入れて操作するだけ、泊まっても電気も無く、キャンパーの自分のバッテリーを使い自分のトイレを使う。今夜はテレビもコンピューターも見ないで編み物をしたり、数独をしたり。
今朝目覚めてみれば夕べの雨雲は強風に吹き飛ばされて、空は真っ青、南国の空の青さは英国の11月の暗い空からは想像も出来ない。ルーケイトの町並みも白壁にテラコッタ色の屋根が美しく密集して,蛎やムール貝を養殖している内海は空の色を写して真っ青だ。
内海の向こうに雪をかぶったピラニー山脈が伸びて、昨年あの山を越えてアンドラ国へ行ったことなど思い出した。ここからそんなに遠くないそうだ。
フランスの国道からスペインにかけてどれほど多くのキャンパーを見かけたことか。10月末は帰国して自国でクリスマスを迎えようとする人達と、私たちのように暖かい天気を求めて南下する北ヨーロッパの人達で、キャンパーが行ったり来たりしている。スペインの国境を越えるまで前に4台のキャンパーが走っていて、彼らもこの冬スペインでの滞在組みか。
ところでフランス南部やスペインの高速を離れると、あちこちで見かけられるのが道端に立っている若い女性たち。彼女たちは売春婦で車でやってくる顧客を待って派手な格好で立ったり座ったりしている。売春が公認されているわけではないだろうけど、只立っているだけでは逮捕も出来ないだろうから難しいのかもしれない。それとも公認か?
スペイン国境を過ぎると暫らくして周囲一体の山や林や森の木が真っ黒に焼け爛れて、これは今年の春か夏に山火事が有ったらしい。あたり一面が火の手が上がったらどんなに恐ろしいだろう。そしてどうやって消火したものかと思ってしまう。それにしてもものすごく広範囲だった。車で10分以上走ってもまだ周囲は黒木が林立していたから。
ボウシュから南へ下る国道N144は真っ直ぐで、これらの道の基本はローマ時代に作られたことがわかる。起伏は仕方が無いとしても、どこまでも真っ直ぐな道だと、私でもキャンパーを運転してみようかななんてフット思ったりするが、これが危ない。八年前、リオンへ南下する真っ直ぐな道で亭主の道案内で運転したら、町の通りへ入ってしまった。後ろには車が数珠繋ぎ、これには冷汗物でそれ以来絶対ハンドルは握らない。
ヨーロッパもイギリスも通りには四つ角と言うのが少ない。ほとんどラウンド・アバウトと言う中央が丸く、自分の出発手前に車がいなければどの通りからでも出発できる。ここフランスの国道はほとんどそれで、真ん中のデコレーションがしだれ菊のハンギングバスケットだった。
国道の途中素晴らしい古城を目にし近くの駐車場に停めてもらって写真を写す。ロッシェ城の説明案内が張り出されていたがフランス語で読めなかった。
南下するうちに天気もすこしづつ明るくなって、高速道路の周囲の景色が素敵に見えてくる。先日友達がフランス北部のアルザス地方を1週間旅行してきたが、彼女の言葉を借りればやっぱり田舎はイギリスが一番きれいね。私にはノルウエーの田舎が一番だけど。
高速道路の休憩所から見える聖マドレィン教会とシャレー村は久しぶりの南欧の景色で絵になる風景。
ミヨー(Millau)で高速を降りてキャンパーは狭い田舎道へ入っていった。片側崖が急で”下を見ないでゆっくり走って ”、とわたしも必死。またカーナビにこんなところへ連れてこられたと亭主の怒ること。
1時間後にやっときれいな渓谷のキャンプサイトに着いた。
このサイトは河ぶちまでの崖を削って平らにしたところにキャンパーやキャラバンが停められるようになっているが急な坂道でトイレやシャワーに行くのがつらい。
しかしこのサイトの設備の素晴らしさは今まで8年間廻ったサイトのうちでも上の部に入るものだった。洗面所も大人と子供が使えるように工夫され、シャワーなど親子で同時につかえるように一室に高低のシャワーが設置されている。
素敵なサイトだったけれど、私たちにはもう一度来ることは無いだろう。きっと夏にはこのサイトが満員になるに違いない。
200kmほど南東へ行ったボウシュ(Bourges)はほぼフランスの中央に位置する小さな町で、ロンリープラネット(英語版地球の歩き方のような本)にも町の説明が載っていない。
また朝から雨模様で、辺りはグレイ。午後2時頃に着いたキャンプサイトでここから1kmで大聖堂に着くと言われて町の散策に出かける気になった。
1kmも行かないうちに降り出した雨の中、この一角に48時間無料のキャンピングプラッツを見つけた。停まっているのはフランスのキャンパーばかり。一泊するには最適な場所だ。またここに来た時の為に記憶しておこう。
町の中心は13世紀の聖エティエン大聖堂、ゴシック建築の巨大な建物で、内部はほとんど真っ暗な状態。只入った時に奥の大きなパイプオルガンが荘厳な曲を奏でていて、久しぶりポーランドの教会を思い出した。
ここも一面のステインドグラスが張り巡らされて、一枚一枚の絵にストーリーがあるのだろうけど、これだけ細かく多色を使ってごちゃごちゃしていると暗い中で色彩もにごってしまう。あまりきれいに見えない。
雨の石畳を歩いている人達は明らかに観光客ばかり。雨の中で冷たい風もだんだん強くなってきて寂しさが増してくる。
この町は辻の飾りもハンギング・バスケットもすべてが菊の花で、このような飾りははじめてみた。
古い建物の飾りに、雨どいを口にくわえている獣、その上のガーゴイルも犬らしい。建築物の守り神?または獅子脅しみたいだ。ヨーロッパの古い教会や英国の古い建物のほとんどにこの守り神がとりつけられている。