イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

ツンツンドラドラ

2009-11-07 20:46:56 | 夜ドラマ

『不毛地帯』5日に第4話。旧日本軍のエリート参謀タイプというより、どうも小器用才子、偏差値優等生のイメージが強かった唐沢寿明さんが一転抑制的な演技を見せていて、依然水準以上のテンションは保っているのですが、回を重ねてちょっとちぐはぐと言うか、もったいないふしも目についてきました。

小出(松重豊さん)の出番は3話で終わりかな。伎楽面のような不気味な愛想笑いに隠したエリートへの憎悪とコンプレックス、壹岐とは違う“負け犬の牙”的な静的な芝居で、松重さんにも新境地だったと思うし、自分をトカゲの尻尾扱いにして上首尾にラッキード製機売り込み成功した近畿商事航空機部の面々が、里井支店長(岸部一徳さん)の音頭で寿司を囲みビールで乾杯しているとき、切られた小出がどこでどんな表情をしているのか、1カット拾って挿入してもよかったのではないでしょうか。演出としてベタになるかもしれないけど、松重さんほどの“大物のクセ者”俳優さんを、利用される負け犬に使っているんですもの、それぐらいくすぐりサービスしましょうよ。第2話で、G資金円転換の舞台となっている銀行口座を突き止めるべく壹岐の手足となって細かい動きをするくだりは、長身でコワモテの松重さんが小出、永遠の父っちゃん坊や唐沢さんが壹岐だからおもしろく見ごたえがあった。

もちろんこの作品、平和な時代の企業ドラマ、お仕事ドラマではなく“戦争と人間”ものであることは確かなのですが、戦争は戦争でも終わった戦争で、人物のそれぞれに内面化されている戦争ですから、やはりここは軍人転じて企業戦士間の“どちらが勝つか負けるか”、原作ものだから勝ち負けがわかっているにしても“どう勝つか、どう負かすか”という、対戦バトルもののスリルがほしいところ。

古田新太さんがまさかの空自制服で登場したのもサプライズだったので、戸建てマイホームの夢と、高級クラブの酒色に迷って道を踏み外したしがない制服組の末路、もっと見せてほしかった。川又空将補(柳葉敏郎さん)の覚悟の自殺と、その残した波紋に第4話は時間を割きましたが、川又の、書体に喩えれば楷書のような生き死に様と、芦田のあまりに生臭い自滅っぷりは好一対になったはずです。

壹岐と同じ抑留復員組の、元関東軍幹部谷川役・橋爪功さんの出番も少ないですね。原作に忠実に作られているようだからこんなものかもしれないけれど、人物の情熱のベクトルに気持ちを沿わせて、快哉を叫んだりハラハラしたりしながら観ていくということができにくいドラマではあります。

「主役じゃないけど、この人が登場する場面が楽しみ」と思える、“持って行く”人物がひとりでもいると、物語世界の立体感や色彩感が格段に違ってくるんですけどね。同じ山崎豊子原作ドラマで言えば、唐沢さん版『白い巨塔』では財前又一=西田敏行さんが抜群だったし、木村拓哉さん版『華麗なる一族』はだいぶ苦しかったけど、ヴィジュアル的には万俵長女の夫にして大蔵官僚の美馬役・仲村トオルさん、キャラ的には知性とエロティシズムを備えた美しき女バトラー高須相子役・鈴木京香さんでかなり救われました。

企業戦士モノつながりでNHK『ハゲタカ』では、ホライズンインベストメントの中延さん役・志賀廣太郎さんですね。いろんなドラマでおなじみの美声もさることながら、1話で三葉銀行の不良債権を調査するために、金髪女子社員と客を装ってラブホに入る場面からもう釘付け。「最後まで鷲津の味方でいてくれますように」と願いながら見守っていました。

『不毛』はドラマキャストとしては当節例を見ないくらい粒揃いなのですが、そういう“持って行く”キャラが不足。近畿商事大門社長役の原田芳雄さんがいいなと思っていたら、意外に登場場面が少ないし、「大阪発の、糸ヘン商社のトップにこういうタイプいそう」と頷かせた後、そこからさらに“持って行かれる”までの奥行き展開もない。呑ん兵衛とか食いしん坊とか、エロとか、何か絵的な属性付けたらいいと思うんですけどね。財前又一に「ヅラで、気にしていて、よくズレる」という属性を加えたのは西田敏行さん自身からのアイディアだったそうですが。

このドラマで好感が持てるのは、青黒みがかった画面の質感。ガラス越しに見ているような、一度凍らせて解凍している途中のような、独特の空気感があって、極寒のシベリア凍土から始まり、その影と冷気を引きずり続ける物語にふさわしいと思います。

コメント
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