イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

錯士、錯に溺れる

2009-11-12 18:12:10 | 夜ドラマ

「動機までも、錯覚だったようですねえ」

…右京さん(水谷豊さん)のラストのこの台詞にすべてが収斂して行った『相棒 Season 84話“錯覚の殺人”(1111日放送)。

ベクトルがぜんぶ一方向に向かって、この一点を頂点かつ終着点とするように組み立てられたシナリオなので、若干作為くささが鼻につくところもあったし、“目の錯覚”を利用した手口やトリック(制服集団にまぎれる、ある種の照明下で違う色に見える服)も小粒で、さしたる新鮮味はありませんでしたが、“恋愛心情そのものがすべからく、大なり小なり錯覚”という皮肉がよく効いていた。

元ゼミの教え子でTV局総務部若手社員の絵美(高松あいさん)と、知覚心理学者好田(近藤芳正さん)は男女の関係になっていましたが、“2人でいると急に冷たく、哀れむような目つきで見る”“同じ年頃の若い男たちと話すとき実に楽しそう”に見える絵美を、好田は「自分が年の離れた、見てくれの冴えない中年男だからウザがって離れようとしているのだ」と思い込み、空室のスタジオに誘い込んで転落事故に見せかけて殺してしまいましたが、絵美の同僚社員で、好田の前に彼女と交際していた池谷(松尾政寿さん)の証言では、「彼女は“先生”と呼ぶ、父親ぐらい年上らしいその恋人に本気で、ボクは振られてしまった」「彼女は結婚も考えていたが、年上なためにその彼氏のほうが消極的で、彼女はそのことで悩んでいたようだ」…本気なあまりに、端々にこぼれる悩ましい目つきや、“貴方だけ特別なのよ”を訴える表情・仕草も、もとから年齢や容姿をコンプレックスに思っていた好田は“裏切った”と錯覚したのです。

無人のスタジオの手すりから、絵美に身を乗り出させ突き落としのチャンスを作るために、好田はダミーの、空(から)の婚約指輪ケースを見せ「アレ?さっきはあったのに、この下に落としたかな?」と小芝居を打ちます。ケースを見ただけで顔をほころばせた絵美の表情も“高額な宝石のプレゼントだと思って食いついてきた”と好田は苦々しく思ったのでしょうが、本当は、絵美は純粋に好田のプロポーズと信じて喜んだはず。錯覚で、殺さなくてもいい人を殺し、犯さなくてもいい殺人を犯した犯人が、錯覚研究の大家だったという大いなる皮肉。

前季までNHK『つばさ』に集中していたか『相棒』にはご無沙汰だった脚本戸田山雅司さん、動機や手口はそれぞれ違いますがSeason 5『女王の宮殿』やSeason 6『蟷螂たちの幸福』、戸田山さんの相棒デビュー作となったSeason 4『緑の殺意』とどこか世界観が通底しています。“自分はこの分野で人並み優れている”“優れているのだから他人に譲歩できない、遅れをとるわけにはいかない”というプライド、こだわりを持った犯人が、そのプライドゆえに犯意を抱き、ごだわりゆえに露顕し自滅するというお話。今季は“脳味噌筋肉”をある程度自覚していた亀山くん(寺脇康文さん)ではなく、他人から“頭がいい”アピールされると我知らず反応してしまう神戸くん(及川光博さん)が参入したので、ちょっと独特な味わいになりました。

捜一トリオの芹沢くん(山中崇史さん)も、伊丹先輩(川原和久さん)から余計な任務背負わされたおかげで、結果大活躍(大使われ?)だったではありませんか。地下駐車場のライトアップレバーオンオフの後、照明錯視のトリックが載った好田の著書を、間髪入れず神戸に渡した忠実飼い犬っぷりもキュート。

『相棒』登場の大学教授と言えばSeason 4『殺人講義』でも石橋蓮司さんが教え子と懇ろになって殺人を犯していましたが、今回はTVのお勉強バラエティで人気の、“知覚の脳による情報処理”が専門のタレント学者ということで、近藤芳正さんには似ていないけれどモジャ頭のアノ脳科学者を連想した向きも多かったのではないでしょうか。好田先生、女性関係はともかく、納税は大丈夫だったかな。

コメント
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