イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

この先浩志中

2009-11-11 16:47:03 | 昼ドラマ

Xmasの奇蹟』は、第5話、浩志(岡田浩暉さん)の魂を宿し蘇生した健(窪田正孝さん)が本格的に参入してから、一気に右肩上がりで精彩が出てきました。

意識も記憶も、直(高橋かおりさん)を愛し、彼女に背中を押されて、覆面作曲家兼ピアニスト・Xeno(ゼノ)として世に出ようとしていた浩志のままなのだけれど、身体は20歳のサッカー好き大学生・健。直に「自分は浩志だ」と告げたいのに、告げかけると心拍も呼吸も停止してしまう。浩志の魂が健に入っていることを他人に知られると、今度こそこの世に身体も魂も存在できなくなるらしいのです。この辺り、ともすればナレーションで説明したくなるところですが、窪田さんは表情と、途切れ途切れに呻く様に漏らす台詞だけで、状況を表現し切りました。

社運を賭けて売り出してきたゼノの失踪で、直とともに浩志が立ち上げた新音楽事務所も風前の灯。直の苦境を知って思いあまった浩志=健は、「俺がゼノだ」と名乗り出ます。

 浩志=健にとって、嘘ではなく真実で、かつ、命を失わずにすむぎりぎりの選択が「ゼノだ」の告白。35歳の分別と、愛する女性への思いと音楽への執念、追い詰められての思考の回転が、高校生にも見える童顔の健に宿って懸命の選択肢探しをする内面の葛藤。カメラが揺れたり回ったり、ぐよんごよんエコーがかかったりなど、絵的にも音声面でも勿体ぶった演出はほとんど無いのにこの唯一無二の、命綱のような告白は重く映り、響きました。

命を危ぶまれた昏睡から生還の健を喜びで迎える母・江利子(中村久美さん)と幼馴染みの恋人・仁美(水崎綾女さん)、サッカー友達の光(千代将太さん)たちですが、浩志の魂にとっては初対面の見知らぬ人々。それでも自分と同じ、母の細腕ひとつで育てられた母子家庭と知って、どうにか健として振る舞い周囲を安心させようと浩志(の魂)は努力します。離婚後江利子がエステサロンで働いて健を大学に進学させ、好きなサッカーも思う存分やらせてくれていた様子で、こぢんまりしたマンションですが小奇麗で、健の部屋にもひと通りの物が揃いまあまあ裕福そうです。しかも仁美は健が昏睡中も毎日病院を見舞ってくれた、献身的な恋人。光はクチは悪いけれども、高校時代からサッカーをともに競い同じ大学に進学して、健と仁美の幸せを願う熱血な親友です。

こんなに恵まれた環境でも「この身体で生き返ったのは、ラッキーなんかじゃない、地獄だ…」と呟いてしまう浩志の苦悩。浩志にとって何より大切なもの、大切な人との距離は、見えないガラスで隔てられているかのようにどうしても詰められない、触れられない、抱きしめられない。それは健として享受する、母や恋人の愛、20歳の若く健康な身体をもってしても埋め合わせることができないのです。

とりわけ第7話で、直のマンションの部屋から出てきた浩志の母・多恵(泉晶子さん)と健が偶然出くわした場面は素晴らしかった。母は浩志の納骨を済ませた後の喪服姿です。自分の魂はこうして生きているよと告げたい、でも告げられない。健の姿の浩志は「外は寒いですから、気をつけて」とささやくのが精一杯。母はダウンジャケ姿の見知らぬ若者からの優しい言葉を訝しがりつつ「ご親切に」と去って行きます。

音楽の仕事と、恋愛&結婚に心を領されていた35歳の男といえども、唯一の肉親だった母への思いは別格のはず。ゼノ問題や直との関係だけでなく、母に向けるこの場面を入れたおかげで、“健の身体に入ってしまった浩志”の悲劇が格段の立体感を持ちました。

他方、浩志の健としての蘇生など知るよしもない博人(大内厚雄さん)は、自分の脇見運転で浩志を死なせてしまった罪の意識と、ずっと片思いしていた直を、浩志亡き後こそは自分に振り向かせたい、頼って大事な人と思ってもらいたい下心、そして音大時代の事故以降、地味なスタジオミュージシャンとして埋もれさせていたピアノで陽のあたる場所に出、注目されてみたい野心も微量綯い交ぜになって、事故現場から拾って隠していたゼノ名義の新曲の楽譜を“証拠品”に、「ゼノは僕だ」と直に宣言。直は一も二もなく、面識のない健より、浩志の親友でピアノの能力があることも既知の、博人の言葉を信じてしまいます。

博人の言動には打算が含まれているけれど、狡猾利己的な打算ではなく、芯には純粋な、切実なものもある。こうなってくると、頑迷なくらい「浩志の遺志を汲みたい、ゼノを売り出し多くの人に聴かせる夢をかなえてあげたい」と固執する直のほうが愚かで近視眼でエゴく見えてきてしまうのですが、手書き譜面の筆跡、これから博人がゼノを装って披露するであろう実演奏などから、徐々に不審を持ち気づいていくのかもしれません。気づいていってもらわないと健の空回りだけで物語になりませんからね。

こういうスーパーナチュラルな、SF的な設定って、なんでもアリで都合がいいせいか、長丁場多話数の連続ドラマではとかく後半で放置されたり、無視されたりで、1年クールの特撮ヒーローものなどでもよく「アレ?あの必殺技はこの状況では出せないんじゃなかったっけ?」「あのキャラのこの技はこのキャラに圧勝だったはずなんだけど、同じ技で今度は負けるの?」なんてことが毎話あり、毎話のように前半で敷かれた設定が引っくり返され“無かったこと”にされて行く、所謂“グダグダ化”がつきものなのがいまから非常に懸念されるのですが、とりあえず見た目も設定も、演技ぶりも若々しくみずみずしい窪田さんの参入で、古くさく湿気っぽく「韓国ドラマのいまさら後追い」としか思えなかった物語世界が俄然活気を持ってきました。

ここへ来て、OPタイトルに流れるパク・ヨンハさんの主題歌『最愛のひと』がちょっと浮いてきました。

もっと言わせてもらえば、若干“キムチ味濃すぎ”。「これが聴きたくて、日頃昼帯ドラマなんか観ないのにチャンネルを合わせている」というファンも多いのでしょうが、このOPでドスンと“韓国ドラマ臭さ”の沼に沈められてしまい、本編の、甘く苦いラブファンタジーに“きれいに浸り、心地よく騙される”モードまで這い上がり戻るのに、どうも時間がかかっていけません。

ピアノ曲、ピアニストをモチーフにした物語でもあり、いっそ歌詞なしピアノのソロインスト曲にしたほうがよかったのではないでしょうか。この枠の08年『花衣夢衣』『愛讐のロメラ』では、重要度さほどではないシーンでもかなり大胆に載せられていたコーニッシュさんの音楽が、ヨンハさんに遠慮してか今回えらくおとなしい使われ方なのももったいないし、物足りない気がします。

そのコーニッシュさんのサウンドトラックCDは来週、18日(水)リリース。劇中、ゼノのオリジナル曲として使われた『青の月』のアレンジヴァージョンを含む全41曲、演奏時間6527秒となかなか気合いが入っていますが、いま少しドラマとのシンクロ具合を見守ってからでないと手が出ませんね。

コメント
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