イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

国を憂う

2009-11-19 19:38:45 | 夜ドラマ

しばらく“流して”いた『ウェルかめ』、いつの間にか亀遍路=勝乃新(大東俊介さん)が波美(倉科カナさん)のことを「カメ子」なんて呼んでますね。亀子と呼ばれていいのは『相棒』の亀山くん細君美和子さん(鈴木砂羽さん)だけなんだけど(←それも約1名、伊丹だけしか呼んでないけど)…とちょっと憮然としますな。

まぁカメ大好きの勝乃新くんにしてみれば、“カメ”の接頭辞は親愛の情の証しだろうし、ベタなラブコメカップルなりにいい雰囲気になってきているので大目に見ますか。

亀山夫妻がサルウィンに井戸掘りに行って、もうすぐ満1年になるのを記念してというわけでもないでしょうが、18日放送の『相棒 Season 85話“背信の徒花”も井戸がらみの話でした。

最近の『相棒』、亀山くんの去る前のSeason 7前半辺りから、バディものとか警察組織ものというより、“犯人のキャラ、犯人役俳優さんの嵌まり度と頑張り次第”な傾向が出てきて若干気になるふしはあるのですが、この第5話はとにかくでんでんさんがよかった。

でんでんさん扮する江藤は、6年前に高速道路延長が内定している土地を、安いうちに方々から借金掻き集めて買い、老人保健施設を建てて身寄りのない高齢者を集住させ、施設しか行き場所がない状態を作った上で、道路建設工事のための立ち退き要求を拒否して、「孤立無援の老人を追い出すのか」と入所者たちの身柄を事実上の人質にして立ち退き補償金をつり上げまんまとゴネ得をつかむ計画でした。

ところが計画が順調に行っていると思った矢先、思わぬ邪魔者が現われます。道路建設の主体である国土建設省の若手官僚・三島(村井克行さん)が、同省と建設業者との官製談合の証拠をつかみ、「これが暴かれれば高速道路計画自体が沙汰やみになり、あなたの施設も立ち退かされずにすむ、入所者の皆さんもここに根を下ろして住み続けることができる、私も前に手がけた案件で住人を強制立ち退きさせざるを得ず辛い思いをした、こんなことは二度とさせない」と提案してきたのです。談合の尖兵になっているのは三島と同期入省で、かつてはあるべき官僚像を熱く語り合ったこともある片倉(中村繁之さん)。理想家の三島は、年月を経て利権の構造に浸り切り小器用に泳いで甘い汁を吸うことを覚えてしまった僚友への憂わしき思いとともに、内部告発を契機に、施設を救済し省庁改革の口火にしたいと純粋に願っていたのです。江藤があらかじめゴネ得狙いで建てた施設だなどとは夢にも思っていません。

しこたまカネを引き出してやろうと思っていた国建省の内部から、まさか自分の計画を根こそぎ揺らがせる、とことん善意の敵が出現しようとは。思いあまった江藤は、敷地内の古い涸れ井戸に三島を誘い込み、突き落として殺害。死体を引き上げて夜半はるばる都心の霞ヶ関に運び、庁舎屋上からの飛び降り自殺を偽装したのです。

談合疑惑で三島の周囲を嗅ぎ回っていた捜査二課も彼の自殺で捜査を打ち切り、建設計画は続行され、5年ののち着工が目前、江藤は思惑通り相場を大幅に上回る立ち退き補償を得て、あとは入所者たちの窮状を悲しむ素振りを見せつつ撤収…という間際になって、鑑識米沢さん(六角精児さん)が趣味で入手したローカル沿線風景の素人DVDから、三島の同地訪問が判明、彼がしようとしていたこととともに片倉の談合先導、江藤の犯行も一気に露見することに。

神戸くん(及川光博さん)のアシストよろしく右京さん(水谷豊さん)が犯行の手口と隠し方まで暴いたあとの江藤の「あーあーあーあー」という嘆息が素晴らしかった。痛いところを逐一右京さんに衝かれた犯人のリアクションって、嗚咽とか逆ギレとか脱力とか、ヤケ哄笑とかいろいろありますが、今回ぐらい犯人のキャラに合った暴かれリアクションもないでしょうね。自虐、自嘲、あっけに取られ、悔しさと一抹のリグレット。「あの手の(=三島のような理想主義の)バカがいちばん嫌(きれ)えなんだよ、大義名分に酔いしれるなあ結構だけどよ、世の中そういう風には出来てねぇんだ、俺ぁよっくわかってんだよ」と地面にへたり込み毒づく江藤、「われわれにわかっているのは、あなたに三島さん殺しの罰が下るということだけです」と静かに断じる右京さん。

国から金をせびるという目的のためだけに、人ひとり殺めてまで5年の歳月をクチをぬぐって雌伏してきた江藤とて、もう5年か10年もすれば施設のお世話になるかもしれない年齢で、妻なり子供なり嫁や孫なり家族の匂いもありません。彼の前職歴がどのようなものであれ、ここまでハラの据わったゴウツクのカタマリになるには国や中央省庁、あるいは土地利権を持った親戚縁者等によほどの煮え湯を飲まされた経験がありそう。最後まで受け入れ施設の決まらなかった認知症のお婆ちゃんが縊死未遂、搬送先病院のベッドに付き添っていた表情は、「立ち退き前に人質に自殺されちゃ責任が問われて迷惑」というだけの冷血ぶりでもありませんでした。どんなトラウマと計算のもとにか“中央省庁なんて税金泥棒の集まりからは、どれだけ汚い手を使って金をふんだくってもふんだくり過ぎってことはない”と思っていたのであろう、その中央省庁から「道路公団民営化が叫ばれているいまが、計画見直しさせ省改革する最大のチャンス」と理想に燃える清廉潔白な青年官僚が現われたのですから、それまでの自分の人生を全否定されたような苛立ちと怒りにかられたことでしょう。

右京さんが指摘した通り、そもそも高速延長計画の情報を事前に得るには地元選出の族議員辺りとのかなり濃密な接点があったはずで、江藤の“国”“公共”への徹底した侮蔑と拝金主義は、その接点のきっかけから始まっているのかもしれませんが、そこは「後でゆっくりうかがいましょう」とあえてスルーされました。江藤の血を吐くような“よっくわかってんだよ”の部分を想像に委ねた、ここも余韻あり。

本筋部分だけではなく、冒頭鑑識米沢さんが田舎の車窓を背景に駅弁をパクついてるけどなんでまた鑑識ユニホ姿?それにしても安っすい合成映像だな…と思ったら、右京さんが入ってきて、鑑識ルームでのささやかな息抜きDVD鑑賞ヴァーチャル鉄道の旅タイムとわかったり、一方くだんの車窓DVDを部分拡大分析して、同駅での三島と片倉の合流待ち合わせを突き止めるソフトが異常に精確だったりなど、面白がりどころも満載。

「(カメラが動かず車窓だけを映している映像の)どこが面白いんです?」との神戸のナメた質問に「どこがって全部ですよ!」とキレる米沢さん、“この人には思いっきりキレ見せしてもいい”と、新顔参入をひそかに楽しんでいる様子。特命係のこんにちまでの歴史や、状況を神戸くんが知らないだけに、恩も売れるしね。

それにしても今話つくづく昭和は遠くなりにけりの感だったのは、「所謂三島事件ですな」と、米沢さんのセリフを皮切りに、普通に劇中で言及されていたことですね。月河にとって“三島事件”と言えば、197011月に自衛隊市ヶ谷駐屯地でアノ作家がなにした、あの件以外にありません。もうすぐ39年経つわけですが、11月にこのエピ放送というのは何かのサインなのかな。テレビ朝日だけに。穿ち過ぎか。

コメント
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