イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

ともだちなんにん

2009-11-26 17:51:11 | 夜ドラマ

昨日(25日)ここで、沖縄の中学生男子同級生によるいじめ暴行死事件についてと、『相棒Season 8サウンドトラックCDについて書いたら、同じ日の放送『相棒』が中学生男子同級生同士の、それも米軍基地の町での犯罪の話。ちょっとびっくりしました。

『相棒』ではリアルに放送時近辺マスコミで話題になった事件を軽く下敷きにしたり、連想させるようにしたエピソードがたまさかあるのですが、製作スケジュールを考えると今回ばかりは“偶然リアルが虚構を追いかけた”のでしょうね。

初見では、どこにもある、両親の離婚と、とりわけ母親不信で心が傷ついた思春期少年ふたり、孤独が通い合っての共謀暴走…というモチーフに、傷の原因として米軍基地の存在を無理やり絡ませた、若干“なんちゃって社会派”なストーリーとも見えたものの、再見再々見すると、どうしてなかなか噛み応えも余情もある好篇でしたよ。

公平(森田直幸さん)にとっては父の職を奪い、母に暴力をふるうDV夫に変貌させたのが基地。良明(阪本奨悟さん)にとっては離婚後の母を性的に堕落させたのが基地の米兵たち。彼らを郵便局強盗と爆弾製造に駆り立てたのは「基地さえ無ければ親子幸福に暮らせた」の思いというより、“年若い自分らの努力や辛抱ではどうにもできない、理不尽な抑圧力”の象徴が、たまたま基地の居丈高なフェンスに破壊衝動の焦点を絞らせしめたというところではないでしょうか。両親離婚で母姓に変わったことがきっかけで陰湿ないじめを受けるようになった公平、いじめられてはいないけれども同時期にやはり親の離婚で姓が変わった良明はひそかに“俺がアイツだったかもしれない”との思いに苦しみ、公平と心が通い合ってやっと救われたはず。

“共謀が同級生や教師たちにばれないように、一方がミリタリーサークルで格闘術を習ってもう一方に教え、パッと見ではいじめのように見せかける”という2少年の発想には胸をつかれましたね。いまや中学生の社会では、いじめ←→いじめられの関係のほうが、世の目を欺くカムフラージュとして有効らしい。

郵便局強盗を分析する特命コンビ、改造スタンガンや単独犯、武器入手の経路から、神戸(及川光博さん)は“手慣れたプロ”をイメージしましたが、同じ事象が、右京さん(水谷豊さん)の別角度から見ると“ネットしか物品や情報入手手段のない、社会経験浅く資金もコネもない若年者のやりクチ”になる、ネガポジ反転とともに象徴的でした。

両少年の母親たち(仁藤優子さん、滝沢涼子さん)の、酌量すべき逆境が切々とわかるだけにいや増しにやり切れない人の子の親としての不甲斐なさ。後味悪いだけに終わりそうなエピソードも、終盤に救いが。歪んだ出発点とは言え結ばれた公平と良明の精神的な絆は純粋で、強盗の手口以降は一切完黙していた公平が「(基地へ)夜、何処そこ側の出入口から侵入するということしか決めてません…だけど、村越(=良明)は必ずやります」と言い切った、“深い信頼”なんて言葉をこういうところに使っちゃ不適切かもしれないけれど、大枚の報酬や高邁なるイデオロギーで結束した犯罪グループだって、段取り決めたほうが先に拘束されたら、未逮捕で野にいる共謀連中が怖気づかずに打ち合わせ通り実行するか、全幅の自信をもって断言できるケースってそうそう無いと思う。

親にも教師にも理解されず、こっちから期待もせず、やり場のない鬱屈の受け皿がどこにもなかった少年ふたりが、“出口なし”ゆえに如何に密に、損得無く純に結びついたかがわかる「必ずやります」

公平の自供を受けて速攻、いざ良明爆弾突入実行前に確保へと動き出した特命コンビへの公平「助けてください、俺…友達は村越だけだから」より、月河は「必ずやります」に泣けました。あれは言えないよ。15歳同士、それも何ひとつ順風でない、お互い以外、夢も愛も希望もない同士じゃないと。

特命コンビの機動力よろしく、公平の願い通り犯行前に良明も無事確保。公平「ごめん…喋っちゃった」良明「…何がごめんだよ」を離れて見守る右京神戸。右京さんの言う通り、未成年と言えども微罪というわけにはいかないでしょうが、誰の命も殺めずに済んだのが何よりの救いになった。逮捕後の良明の自供を公平のそれとつきあわせて成ったのであろう、強盗&爆弾共謀の過程のVが、まるでビクトル・エリセ監督の一連の映画のよう。行もしくは露見すれば犯罪になるしかないけれど、2人にとっては、「オレの望み、欠乏感を共有してくれるコイツがここに居る」と実感できる、至福の時間だったことでしょう。どうにか更生して、母親たちとも和解の通路を得、辛い経験を越えて大人の男同士の友情に脱皮できる未来を願わずにはいられません。

良明役の阪本さんはキアヌ・リーヴスの若い頃を髣髴させる正統派美少年、公平役森田さんはワイルド小動物系の“一周回って可愛い”系。孤独ゆえに接点を持てた2人のヴィジュアルのバランスも絶好。どちらも、月河が同級生女子なら胸騒がせたに違いないタイプなんだけど、“異性”を介在させなかったのは、ともに母親との心理的確執を想定しての話だったからなのでしょう。テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞、40歳受賞ということで話題になった福田健一さん、『相棒』ワールドにもじゅうぶん親和する味を出してくれました。テレ朝の誇る高視聴率人気シリーズ参戦は糧になったはず、もう一作ぜひ書いてほしい。

「暇か?」の組織犯罪5課角田課長(山西惇さん)の「下の息子がヴィジュアル系バンド始めちゃって、金髪に染めるわ、オレと顔そっくりなのに化粧までするわ…」は、神戸くんを演じる及川さんへのソフトアピールのようで笑えましたね。ライブステージMCで、観客の女子親衛隊(?)に「ヒマかーーー!!」とか叫んだりするのかな。

コメント
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