森のなかの秋。

かくれんぼ。

コスモスが咲いている。
山から転げ落ちた爽やかさが花を誘ったのか、それとも各地を気まぐれに旅して風かな、
それにしても少し早いのではないかな・・・
一週間前の森のなかは夏日で暑くて・・堪らなかった。
今日の爽やかさ森のなかにかくれんぼしていたのかな、そう思いながらコスモスを眺めながら分け入ったいつもの森、一週間ぶりに訪れて「オーイ・・」叫んでみる。
私の叫び声、法師蝉の鳴き声に埋没してしまう。
この蝉が鳴き始めたけど森のなかはいまだに夏色が残っている。

麓のコスモスを咲かせた爽やかさ、森のなかにかくれんぼして誰かが探してくれるのを待っているのかな、今日は会えるかな・・・
目印は何だろう、風か沢のせせらぎか、
そろそろ形になり始めたアケビ、栗の実に深まり行く秋をみて爽やかさを追って歩く。

あれほど激しく泣きじゃくった蝉は法師に代わりさあ今度は私の出番よ、
そう言わんばかりに鳴いている。
自然はある意味で正直で素直な表情をみせているが人はこういかない、
なぜだろう・・・
いつも自然のなかを歩いていてそう思う。
その自然からい何かが消え、何かが変わろうとしている。
ただ綺麗、持って帰ろう、そんな単純な発想で山から消えた私の好きな笹百合、
これらの花は自然のバランスであり大切な植物、
それが一人の欲望で採掘され消えてしまった哀しい現実。
たしかに中高年が健康のために山を歩くのはいいけれど、
自然の大切な、生態系を保持している四季を持って帰るのだけはやめて欲しいものである。

営みのなかで様々な障害の亀裂が入るこの星の自然、人の心が病み痛むようにこの自然も病んで泣いている、それなのに人は意外と冷めて無関心、
たしかに生きるだけで精一杯でそこまでは・・・それは判るけれど、
秋の表情のように哀しい。

移り変わる四季のなかでいつも影絵を眺めては、
今年の秋はいつ来るのだろう・・・ぼんやり法師の声に耳を傾けて考えた一日。
森のなかを歩くと秋がいたる所にかくれんぼしている。
「みっけ」一人、また一人、楽しくなる。

失った恋を再び求めるように、静かに火照った樹にもたれて秋をみつめる。
それは一通の手紙を心ときめかせて開封するのに似ている。