大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

劇団往来『ママはダンスを踊らない』

2011-06-26 23:31:10 | 評論
劇団往来『ママはダンスを踊らない』

 第35回大阪春の演劇まつりの参加作品です。演出の鈴木君とは学生時代に何度かエキストラの仕事をまわしてもらったり、古い付き合いですがビッグになったなあと思います。劇団往来は、大阪でも屈指の劇団になりました。さて、今回はブレヒトでもなく、原爆がテーマでもなく、お気楽で楽しいエンタテイメントでした。


 とある町のゲイバー「アクエリアス」に勤めるオカマの明菜はオカマ歴26年のベテラン。親友で店のママでもある夢路が、経営不振のためニューハーフ、ハードゲイ、オナベを取りそろえた。さあ大変、店ではニューハーフ対その他(主にオカマ)の対立となった! そんな中、明菜は密かに心を寄せている萬太郎から、一人娘の千里を預かって欲しいと頼まれる。仕事のトラブルで、しばらく町を離れなければならなくなった萬太郎に代わり、一週間後に私立のお嬢様中学の受験を控えている千里である。子供を育てたことのない明菜と生意気娘の千里の戦いも、火ぶたを切っておとされた……


 この芝居、あらゆる意味でてんこ盛り! キャストが48人、正にORAI48! それも往来だけでなく、落語家の桂春駒さん、桂春蝶さん、よしもとクリエイティブ、CEL,SABカンパニー、ムーンビームマシン、HIA,ステージ21、舞夢プロ、とてんこ盛り。とばすギャグもてんこ盛り。ラストはもちろんのこと劇中にカルカチュアライズされた人間性がてんこ盛り。挿入歌は4曲まで数えましたが、途中で数えるのを忘れるくらいに上手い歌と踊りのエンタメのてんこ盛り。 もう満腹でした。


 道具や照明、衣装があか抜けて上手いのは、みなさんその道のプロなので、当たり前なので省略しますが、店と萬太郎のアパートを盆を回して転換する手際は大したものでした。わたしたちの常識で、なるべく転換や暗転は避けるのですが、舞台はテレビのカット割りのように変わっていきます。エプロンや花道の使い方も上手く、とにかく客を飽きさせません。明菜を演った要冷蔵さんは昨年の芝居では旧陸軍の将校を演っていたので、同じ舞台で冴えないオカマさんを演っているので、そのギャップの大きさに(おそらく演出も意図しないところで)笑ってしまいます。


 48人も出しながら、ハーモニーの取り方も絶妙でした。所属もまちまち、キャストの年齢も、十歳ぐらいから、還暦前後の方まで、それぞれの色を出しながら全体の芝居の色もしっかり出していました。みなさんお上手なのですが、特に子役の子達が上手いです。昨年の芝居では、言われたとおりに演ってますという感じだったのですが、すごく自然に(むろん、自然に見えるように演出は苦労されたのでしょうが)子供たちの集団を作っていました。欲を言えば、今少し子供たちの個性が明確だとよかったと思いましたが、生きた子供として形象されていました。中でも準主役と言っていい千里を演った今津さんと南雲さんは、千里と奈津子を交互に演っていたようですが、大人の役者と対等な演技ですばらしかったです。わたしの悪い癖で、台詞を喋っていない役者に目がいってしまいます。店のシーンなど上下にボックス席があるのですが、上手で芝居を演っていると下手のボックス席に目がいきます。そういうとき、やや小芝居になっていて、店全体の盛り上がりがもっとできたと感じました。千里の今津さんは、その点きちんとできていました。相手役の台詞や演技の中できちんと自分の演技ができていて素敵でした。ラストで明菜といっしょに食事の準備をするところなど、それまでの千里の葛藤を踏まえた上で、ちゃんと和解のカタルシスを表現できていました。作品も余計なラストを書かず、明菜と千里の食事の準備で、和解とハッピーな未来を暗示させるところで筆を止めていることに好感が持てました。


桂枝雀さんが、生前こんなことをおっしゃっていました「新劇の人は、真面目に芝居しすぎですわ。演るほうが楽しまんと、観てる人は楽しなりまへんで」 まことにその言葉通り、みなさん舞台できちんと楽しんでいらっしゃいました。当然、楽しめるだけの力と、稽古をなさった上であることは言うまでもありません。


劇作家として一言。 わたしなら明菜の誕生日を4月4日の設定にして、エピソードを一つ増やしたかなあ、と、思いました。4月4日はオカマさんの日なんです。3月3日のひな祭りと、5月5日の端午の節句のちょうど真ん中……


       劇作家  大橋むつお

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