大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

劇団大阪『フォルモサ!』

2011-06-27 13:47:08 | 評論

 大阪春の演劇まつり参加の、劇団大阪による公演でありました。劇団大阪は創立40周年にあたり、創作脚本を公募され、その最優秀に選ばれた石原燃さんの『フォルモサ』を上演されました。

 作品は、戦前の明治末年、日本統治下の台湾が舞台。高砂族と総称される台湾の山岳原住民の人類学的調査を依頼された、総督府嘱託の人類学者百木太郎の苦悩を描いたドラマです。彼は東京帝大の人類学者森尾を助け、当時蛮族と呼ばれていた原住民の調査にあたるが、その調査が滅び行くことを前提とした調査であり、皇民化政策の一環であり、彼らの文化を失わせるものであり、帰順せぬ者は征伐されると知って懊悩する。そして、百木はせめて彼らを移住させ、生存の道をさぐろうとして周囲の者との軋轢の末、強制的に日本に送還され、送還される船上から海に身を投げて行方不明になる。これが大筋であります。

 芝居は百木の妻アイの手紙(?)の朗読から始まる。意図は分かるのだが読まれてしまうと、聞き逃したところが分からない。ドラマとして見せて欲しいと思いました。ただ「毒婦たれ」という言葉がキーワードなのだろうと思いましたが、劇中アイの苦悩が一人称で終わった感じがして、百木の理解者たろうとしたアイの心情に共感……したいのに、しきれないもどかしさを感じました。ラストも、アイの手紙と百木の助手をやった宮田の手紙の読みあいで、建前としての宮田(在台日本人の理解と意志の限界のシンボル)と、本音としてのアイの言葉のかみ合わなさを象徴的に表そうとした演出意図であると汲み取りました。ドラマとは感じさせるもので、くみ取らせてはどうなんだろう……と、思いました。

 役者は、さすがに劇団大阪で、大半の役者さんの役の形象は見事でした。ただ、百木の原住民への思いが、始めから「ありき」 所与の前提になっており、百木の思いがドラマとして昇華しきれていない感じがして、これも置いてけぼりを食った感じになりました。

 作者ご自身の、お言葉で語っておられますが、創作にあたり台湾の学者楊先生の森丑之助(実在の日本人学者)について語られた話がもとになっているようです。初稿があがった段階で楊先生に見てもらわれたようで、正直に楊先生のお言葉が書かれていました。「百木太郎は丑之助とは別の人物だし、あなたの創作上の意図はとてもよくわかります。でも、森丑之助は本当に寛容で優しい立派な人だったんですよ」 楊先生は、遠慮がちにではありますが、石原さんの作品に違和感をおぼえられたんではないでしょうか。この作品は日本人に対する目の冷たさを感じる……と言っては失礼なのですが。登場人物(百木の養女、タイヤル族のハナコを除いて全て日本人)が、百木は一途ではありますが、タイヤル族をはじめとする原住民への思いが、なにか内向きに自己完結して、観客として共感できません。他の日本人は、小市民的か独善的で、同じ日本人であることが恥ずかしくなるような形象であったことが残念です。

 作品では触れられておりませんが、パンフに書かれていた抗日蜂起、いわゆる霧社事件のほうが、双方の誤解と、日本がとった対応の残虐さがよく分かったのではないでしょうか。なんせ日本軍は毒ガスを使い、親日的な高砂族同士たたかわせたのですから。

 ただ、ここで基本的な見解の相違になると思うのですが、日本の台湾統治は、当時としては非常に成功した例であると思っております。親日感情の良さは李登輝元総統の言葉を持ち出さずとも、台湾旅行をした人たちが、たいてい感じてくることであります。この21世紀の感覚で当時を見ては、見失うものが、どうしても出てきます。

 さらに巨視的に民族が、他民族に与えた耐え難い残虐行為をとらえるなら、わたしは東京大空襲を作戦立案したアメリカのカーチス・ルメイを取り上げます。東京大空襲は、広島、長崎の原爆を上回る10万人の日本人を焼き殺し、戦後は航空自衛隊の創設に功績があったとして日本政府は勲章まで与えています。ここにアメリカ人のプラグマティズムと、日本が戦後置かれた国際的、地政学的な悲しい位置を感じるのです。しかし、わたしは建築で言えば二級建築士、三階建て以上の建物は建てられません。石原さんは一級建築士であります。建てた作品に違和感はあるとはいえ、ちゃんと耐震基準をみたした建物をお建てになったと思います。

 演劇的には、傾向の違いを感じますが、40年の長きにわたって、これだけの堅牢な劇団を経営し、発展させてこられてきたことは、後輩として敬意の念を禁じ得ません。これからも、益々のご発展を期待いたします。

       劇作家  大橋むつお

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