大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト№91『竜頭蛇尾、そしてクリスマスへ』

2013-08-09 10:23:02 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト№91
『竜頭蛇尾、そしてクリスマスへ』
     


 竜頭蛇尾という言葉がある。

 小学校六年の時に覚えた言葉なのよね。最初は、やる気十分なんだけど、後の方で腰砕けになっちゃって、目的を果たせない時なんかに使う言葉。

 担任のシマッタンこと島田先生が、三学期の国語の時間に教科書全部やり終えちゃって、苦し紛れのプリント授業。その中の数ある四文字熟語の一つがこれだったのよね。
「意味分かんな~い」クラスで一番カワユイ(でもパープリン)のユッコが言った。

「……いいか、先生はな、野球選手になりたかった。それも阪神タイガースの選手になりたかった。そのためには、高校野球の名門校聖徳学園に入学しなければならなかった。ところが受験に失敗して、Y高校に行かざるを得なかった。ところがY高校の野球部は、八人しかいない。入れば即レギュラー。でもなあ、Y高の野球部って三十年連続の一回戦敗退。それで悩んでたらさ、バレー部のマネージャーのかわいい子に誘われっちまってさ……」

 島田先生は、これで自分が野球選手になり損ねたことをもって『竜頭蛇尾』の説明をしようとした。
でも、これで言葉の意味は分かったけど、大失敗。『お里が知れる』という言葉も同時に子ども達に教えることになった。
 それまで、先生は――維新この方五代続いた、チャキチャキの江戸っ子よ!――というのが売りだった。実際住所は神田のど真ん中だった。
 でも聖徳学園高校もY高校も大阪の学校。神田生まれで阪神ファンなんて、もんじゃ焼きが得意料理ですってフランス人を捜すよりむつかしい。それに自分自身がデモシカ教師であると言ったのといっしょ。野球の腕だって、PTAの親睦野球でショ-トフライを顔面で受けたことでおおよその見当はついていた。
 五代続いた江戸っ子だってことが怪しいのも、わたしは早くから気づいていたのよね。
 島田先生は、五年生の時からの持ち上がり。
「先生は、神田の生まれで、五代続いた江戸っ子なんだぜ」
 と、カマしたもんだから、家に帰って言ったのよね。
「ね、今度の担任の先生は神田生まれの五代続いた江戸っ子なんだよ!」
 すると、おじいちゃんが前の年に亡くなったひい祖父ちゃんを片手拝みにして言った。
「ほんとの江戸っ子は、そんなにひけらかすもんじゃねえんだぜ」
「だって、先生そう言ったもん」
 すると、おじいちゃんは紙に二つの言葉を書いた。
――山手線と朝日新聞が書いてあった。
 純真だった(今だってそうだけど)まどかは、その紙を先生に見せて読んでもらった。
「これ、読んでください」
「ヤマテセン、アサヒシンブン」と……発音した。ショックだった!
「ヤマノテセン、アサシシンブン」と……わたしの家族は発音する。

 前置きが長い……これは、わたしがいかに『竜頭蛇尾』という言葉に悩んでいるかということと、シマッタン先生を始め小学校生活に愛着を持っていたかということを示しています。

 で、この『竜頭蛇尾』は、言うまでもなくクラブのことなのよ……ね。
 あの、窓ガラスを打ち破り、逆巻く木枯らしの中、セミロングの髪振り乱した戦い。
 大久保流ジャンケン術を駆使し、たった三人だけど勝ち取った『演劇部存続』の勝利。
 時あたかも浅草酉の市、三の酉の残り福。福娘三人よろしく、期末テストを挟んで一カ月はもった。
 公演そのものは、来年の城中地区のハルサイ(春の城中演劇祭)まで無い。
 とりあえずは、部室の模様替え。コンクールで取った賞状が壁一杯に並んでいたけど、それをみんな片づけて、ロッカーにしまった。
 三人だけの心機一転巻き返し。あえて過去の栄光は封印したのよね。真ん中にあるテーブルに掛けられていた貴崎カラーのテーブルクロスも仕舞おうと思ってパッとめくった。

 息を呑んだ。クロスを取ったテーブルは予想以上に古いものだった……わたしが知っている形容詞では表現できない。

 わたし達って、言葉を知らない。感動したときは、とりあえずカワイイ(わたしはカワユイと言う。たいした違いはない)と、イケテル、ヤバイ、ですましてしまう。たいへん感動したときは、それに「ガチ」を付ける。
 だから、わたし達的にはガチイケテル! という言葉になるんだけど、そんな風が吹いたら飛んでいきそうな言葉ではすまされないようなオモムキがあった……のよね。
 隣の文芸部のドアを修理していた技能員のおじさんが覗いて声をあげた。
「これ、マッカーサーの机だよ……こんなとこにあったんだ」
「マックのアーサー?」夏鈴がトンチンカンを言う。
「戦前からあるもんだよ……昔は理事長の机だったとか、戦時中は配属将校が使って、戦後マッカーサーが視察に来たときに座ったってシロモノだよ。俺も、ここに就職したてのころに一回だけお目にかかったことがあるんだけどさ、本館改築のどさくさで行方不明になってたんだけどね……」
 おじさんの説明は半分ちかく分からないけど、たいそうなモノだということは分かる。
「ほら、ここんとこに英語で書いてあるよ。おじさんには分かんねえけどさ」
「どれどれ……」里沙が首をつっこんだ。
「Johnson furniture factory……」
「ジョンソン家具工場……だね」わたし達にも、この程度の英語は分かる。
 技能員のおじさんが行ってしまったあと。そのテーブルはいっそう存在感を増した。
 テーブルは、乃木高の伝統そのものだ。貴崎先生は、その上に貴崎カラーのテーブルクロスを見事に掛けた。
――何色のテーブルクロスを掛けるんだ。それとも、いっそペンキで塗り替えるか。貴崎ってオネーチャンもそこまでの度胸は無かったぜ。テーブルに、そう言われたような気がした。


『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』第七章より

『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』        

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