高校ライトノベル・かざみ 時と風の少女・３『時代市場』

かざみ 時と風の少女・3
『時代市場』　　　



　驚くことにタマホ（二十二世紀の体内内蔵式スマホ）は圏外だった。

　存在そのものが秘密なので正式というのもおかしいが『時代市場』という。あそこのことである。
「軍事施設以外で圏外なんてあるのね」
「ここは特別さ」

　一見むかしの地下街のようだが、天井が無い。

「青空……雲が流れてる」
「ちょっとイカシテるだろう」
「あ、昔の飛行機！」
　はるか上空に悠然と大きな飛行機が飛んでいる。
「ん……B２９だ……いつもならジャンボジェットとかが飛んでるんだけど」
「ずいぶん遅いのね、でっかいエンジン四つも付けてるのに……」
「レシプロだからね、全速でもリニアほどにも出ないさ……上ばかり見てるとこけちゃうよ」
「うん……わ！」
「言わんこっちゃない」
　満腹亭のオヤジは、体格には似合わない素早さで支えてくれた。
「……びっくりしたあ」
「オジチャンもびっくりしたよ」
「え？」
「さ、あの店だ」
　オヤジは二十メートルほど先の店を指さした。それは間口は三間ほどだがウナギの寝床のように奥深いスーパーだ。
「いらっしゃいませ」
「満腹亭の高山だけど、大将いるかい？」
「マスター、満腹亭さんでーす！」
　オネーサンが呼ぶと、奥から満腹亭と同様のオジサンがニコニコ顔で現れた。
「注文したのできてる？」
「ああ、ほんのさっき揃ったとこさ。マユちゃん、あれ出して」
「はーい」
「お嬢ちゃんが、かざみちゃんだね？」
「あ、はい、お世話になります」
「もう十七年たつんだな……」
「そう、これで中佐の謹慎も解ける。かざみちゃんも心置きなく話ができる」
「うん……」
「あれ、あんなに楽しみにしてたのに」
「うん、そうなんだけど、いざとなったら……とりあえずお祝い」
「そうだな、オジサンたちが力になれればいいんだけど、俺たちの記憶は完全に消去されてるからな」
　満腹亭とマスターが酸っぱい顔になった。
「しかし、俺たちが最前線に出され全身義体になっちまうほどのことだったんだから、かなりのことなんだよな」
「あたし、もう秘密はいい……ってか、お父さんと当たり前の生活が送れればいい」
「だよな、かざみちゃんが思うようにすればいいさ」
「マスター、これですね」
　オネエサンが一抱えの紙袋を持ってきてくれた。
「これこれ、日本一の晩飯ができるよ」
「マスター、それ極上品ばかりですね。焼き豆腐なんか二十年も限界遡ってますね」
「ああ、これは特別なんだ。ちょっと位相に影響が出ちまったくらいにな」
　マスターにつられて見上げると、B２９の数が増えていた。四機のゼロ戦が舞い上がるが、三機は煙をひいて高度を下げていく。残る一機は高度をとったかと思うと、先頭のB２９に体当たりし、二機はもつれ合いながら墜ちていった。
「運命なのかね……」

　オジサンたちの呟きは、これからのかざみの運命を暗示するかのようだった……。

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