大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・かざみ 時と風の少女・5『風の中にしずもる』

2015-09-06 15:30:28 | 時かける少女
かざみ 時と風の少女・5
『風の中にしずもる』
 
  



 祐之・かえで親子が住んでいる家は歴史的建造物保存地区にある。

 平成時代の家屋が残っているので、二十年前に手が加えられ百年前の状態で保存されている。
 町内の道路にはダミーの電柱が立てられ、電線が張られている。

「……あれ?」

 かざみは電線を見上げたまま立ち止まってしまった。

「どうかしたか?」
「スズメの数が少ない」
 祐之の謹慎が解けたので初めて親子で町を出てみようと横丁まで来た。
「いつもだったら、六羽以上はいるんだけど……」
「五羽しかいないな……スズメの謹慎も解けたのかな」
「フフ、かもしれないね」
「…………。」
「……どうかした?」

 かざみが道を渡りかけるが、祐之は横断歩道の手前で立ち止まったまま。

「十七年ぶりだな、この道を渡るのは」
「そうだね」
「かざみが、ほんの子どものころ、ボールを追いかけて、この車道に飛び出しかけたことがあった」
「憶えてる。お父さん、血相変えてあたしを取り押さえに来た」
「かざみが車道に出ても危険なことは無いんだがな、オレにはこの車道が結界だった。それに戦場心理が残っていたんで、体の方が動いてしまった」
「お父さん死んだのかと思った」
「車道に飛び出したとたん気絶してしまったからな。今でも分からないが、町の結界には、何かの監視装置があったんだろう。それが働いて、なにかがオレの中枢神経に気絶の信号を送るようになっていたんだ」
「十七年も……そいつが居たら、やっつけてやりたいね」

「それは、わたしです」

 振り返るとノラが立っていた。
「ノラさん……」
「監視していたのはスズメやイヌやネコ。本物に混ぜておくとロボットだとは分かりません。そこから受けた信号で時任中佐の中枢神経に働きかけていたんです」
「ノラ……」
「わたしは大原と南禅寺の間の角豆じゃなかったんです。やっぱり、わたしは、ただの監視者だったんです」
「ノラさん……」
「もう、お二人といっしょにいるわけにはいきません。失礼します」
「待って、ノラさん!」
「これ以上は」
「それって、ノラさん無意識だったんでしょ、あたしに監視をつけたみたいに!?」
「でも、わたしがやったことには違いありません」
「一つ教えてくれないか。これだけの監視管理システムが、なんの気配も無く消えてしまった。オレも軍人だ、システムがアップしたりダウンするときの気配は分かるつもりだ。これは、いつダウンしたんだろう?」
「夕べのすき焼きです」
「すき焼き?」
「すき焼きの匂いの粒子が町の中に拡散されて、監視ロボットが解除されました。わたしのセキュリテーは厳重なので、解除されたのは、ついさっき、遅くなって申しわけありません……では」
「待って、ノラさん! いっしょに、いっしょに居て欲しい、これからもずっと。いいでしょ? いいよね?」
「ノラ、オレからも頼む。かざみのために……オレたちのために、オレたち三人のために残ってくれ」
「……三人?」
「ああ、かざみとオレと、ノラ、三人だ」
「風が……風が吹いて……新しい風と思っていいんでしょうか?」
「世間じゃ秋の風だが、今日は小春日和……オレたち三人には出発(たびだち)の風だ」
「出発の風……」
「ノラさん……」

 ノラは、風を吸い込むと、ゆっくりと振り返った。三人の笑顔が風の中にしずもっていった。


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