大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・かざみ 時と風の少女・7『突き抜ける!』

2015-09-09 13:09:41 | 小説
かざみ 時と風の少女・7
『突き抜ける!』
 
  


「あたしたち、親類かもね!」「おれたち仲間かも!」そんな歓声が教室に満ちた。

 国史の授業で苗字が話題になった。
「藤原さんが役所の佐(すけ=二等官)になって佐藤、加賀の国に引っ越して加藤とかになったのよ」
 小川先生が分かりやすく説明してくれる。お嬢ちゃんみたいな顔つきだけど博識だ。
「渡辺はどうなんですか?」
「元は源氏かな、摂津の渡辺に引っ越して孫の代から渡辺って名乗ったの。平安時代ね」
 で、にわかにクラスで親類・お仲間の騒ぎになっている。
「先生、あたしの李なんか、どうなんでしょ?」
「半島の苗字ね、本貫分かる?」
「京畿道開豊郡です」
「李舜臣と同じなんだ」
「エヘヘ」
「中国や朝鮮半島の苗字は日本よりずっと少ないんだけど、これは苗字を変えないからなの。だから李さんみたいに先祖が直ぐに分かる。日本は大雑把には分かるけど、三代前くらいになると、たいてい分からない」
「日本人て、薄情なんですか?」
「ううん、日本人は土地の結びつきを大事にするの、地縁結合って言うんだ。中国や朝鮮半島は血の繋がりを大事にする。アイデンティティーの違いね。それから……」
「時任はどうなんですか? ちょっと珍しい苗字だと思うんですけど」
 先生と目が合いそうになったので、かざみは先手を打って手を挙げた。
「宮崎県の那珂郡時任が起源ね、鹿児島にも多い、お侍さんの家系かな」
「そうなんだ!」
 喜んでみせたが、本心は違う。かざみは祐之と血の繋がりはない。十七年前の飛行機事故のたった一人の生存者だけど、身内や親類は分かっていない。救助隊の指揮官であった祐之が不憫に思い、養女として引き取ってくれたのだ。そのことに触れられないために先手を打った。授業の話題は苗字から名前に移っていた。
 
 カキーン!

 野球部の白球がグラウンドの蒼空に弧を描いた。
「身内が投げる球は打てるんだけどもね……」
 マネージャーの珠美が何度目かのため息をついた。
「あれを甲子園に連れて行こうって?」
「そこまでは高望みしてない、ベスト4……ううん、ベスト8ぐらいにはしてやりたくってさ」
「珠美、佐藤君ばっか見てるね」
「どうして?」
「横にいりゃ分かる。佐藤君の打球見てる時は、体が前のめりになってる」
「……中学の時は十年に一度の逸材って言われてたんだよ。このままじゃダメになる」
「だろうね……」
「あいつ、ずっとサボってたんだけど、無理矢理引っ張ってきたんだ……ね……あたしといっしょにマネージャーやってくれない?」
「え、あたし!?」
「正直見限ってたんだけどさ、国史の授業のあとでさ、あいつ、あっけらかんと、遠い親類みたいだから仲良くしようって……」
「ああ、加藤と佐藤だもんね」
「なんかねえ……」
「佐藤君のこと嫌いじゃないんでしょ?」
「好きだよ……でも、ついでみたいに安っぽく言われるのはやだ。あいつには、きちんと野球やってもらいたい」
「でも、あたしなんかじゃ」
「ううん、かざみならやれるよ。ってか、かざみとだったら、いっしょに野球部のマネジメントやれると思うんだ」
「どうして?」
「最近のかざみ、イキイキしてる……こないだも花園先生の授業……見事なフケかただった」
「珠美……」
「たまたま飛んできた虫がかざみの頭突き抜けるの見えちゃって、身代わりのホログラム……チクったりしないわよ、ただ、かざみとだったらやれるって思ったんだ」
「そうなんだ……」

 キーン!

 佐藤が打った球がライナーとなって、ベンチに座っていた二人の所に飛んできた。
「危ない!」

 ボールは、かざみの体をホログラムのように突き抜けて、後ろの植え込みに飛び込んだ。


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