大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!18『知井子の悩み・8』

2024-10-02 08:25:57 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!
18『知井子の悩み・8』 




 浅野さんはうつむきやがったが、マユはたたみかけたぜ。

「あなたは、多分一次選考のあとで死んだの。あなたに自覚はないから、原因は分からない。でも、あなたのオーラは生きてる人間のそれじゃない。他の人には見えないけど、受験者が一人多いのに、さっき気づいたわ」

「それは他のだれかが間違えているのよ。スタッフかも知れない。わたし、こうやってちゃんと、二次合格の書類だって持っているもの」

「ん……ああ、やっぱり」

 浅野さんが手にした書類は、ただのA4の白紙のコピー用紙だった。


 エアコンの音だけが静かに際だったぜ。


「……これは、ただの白紙よ。浅野さんには、これが本当の合格通知に見えてるんだ」

「だ、だって、こんなに、はっきりと『二時選抜合格、浅野拓美様』って書いてあるじゃない」

「拓美、あなたは、死んだ自覚がないから、それに合わせた都合のいいものしか見えてないの。無いものだってあるように見えているだけ……」

「そんな……ありえない……(◎_◎;)」
 
 浅野拓美の目が怒りに燃えてきた。マユに本当のことを言われ、当惑が怒りに変わってきやがったんだ。

 ゴオオオオオオ! ガチャガチャガチャ!!

 部屋の中に風がおこり、机や椅子が動き出し、部屋の中はグチャグチャになった。

「ああ、こんなにしちまってぇ……」

「……わたしじゃない、わたしじゃないわ。わたしには、こんな力はないわよ」

「かなり重症だな。とりあえず片づけよ」

 マユが指を動かすと、部屋はあっと言う間に元の姿に戻った。

「あ、あなたって……やっぱり魔法少女?」

「悪魔だ! 小悪魔だけどな。もう一度、落ち着いて書類を見ろ」

「……は、白紙! あ、あなた、わたしの合格通知をどこへやったの、どうしたの!?」

「何もしてねえ、おめえにも、本当のことが見えてきたんだ」

 ガタ ガタガタガタ……

 再び、部屋のあらゆるものが揺るぎだし、照明がパチンと音を立てて割れた。マユは、照明が落ちた時点で拓美の霊力を封じたぜ。

「拓美に自覚はねえんだろうけど、そうやって、二次選考では、何人もの子たちに怪我をさせたんだ。だから、最初にスッタッフのおっさんが注意していただろ」

「わ、わたしは……」

「そう、そんなつもりも、自覚もねえ。人の演技を見て、スゴイと思ったら、無意識のうちにやっちまったんだ」

 それでも飲み込むこめねえで、頭を抱えてやがる。

「仕方ねえな……」

 ガラガラ!

 マユは、部屋の窓を景気よく開けると、拓美にオイデオイデをした。

「外に……?」

 窓ぎわに来た、マユは拓美の脚をヒョイとひっかけ、背中を押した。

「キャー!」

 悲鳴を残して、拓美は、はるか眼下のコンクリートの歩道に落ちていった。


「……わたし、いったい?」


 歩道で、怪我一つしないで佇んでいる自分に驚いてやがる。

「見てろぉ!」

 はるか上の窓から、口も動かしていないのに、マユの言葉が振ってき驚く拓美。

 そして、その直後、マユは頭を下にして、真っ逆さまに落ちてやった。地面につく直前に一回転して、体操の選手みてえな決めポーズで着地したぜ。

「す、すごい……すごい、超能力!」

「おめえだって、今やったじゃねえか。マユは悪魔だから、おめえは幽霊だから怪我一つしねえんだ。周りのやつらを見てみろ。だれも、マユ達に無関心だろ。女の子が二人立て続けに、あんな高いところから、落ちてきたのによ」

「どうして……」

「ほら、今、男がおめえの体をすり抜けていくぞ……」

 拓美は、「あ」と声を上げたが、かわす間もなく、男は彼女の体をすり抜けていった。

「あ、あの人って、幽霊?」

「幽霊はおめえだ!」

「で、でも……」

「まだ、分からねえ? じゃ、もっかい、あの部屋に戻ろう……入り口からじゃねえ。戻ると思えば、それでいい」

「え、あ……」

「さっさと思え!」

「は、はい!」

 一瞬で部屋に戻った。

「わたし、やっぱり……」

「やっと分かったかぁ(-_-;)」

 もとの部屋に戻って、拓美は萎れた朝顔みてえになっちまった。

「……一次選考のあと交通事故があった。わたしはすんでのところで……」

「助かったんじゃねえ、死んだんだ。可愛そうだけど、それが真実だ」

「……でも、わたし、このオーディションには受かりたい」

「そうやって、おめえが居れば、おめえは無意識のうちに、人に怪我を……いいや、今日は殺してしまうかもしれねえ。それだけ、おめえは危険な存在なんだ」

「……じゃ、どうすれば」

「もう、あっちの世界に行っちまえ」

「あっちって……?」

「死者の世界だ」


 拓美は目に大粒の涙を浮かべ、ようやく……コックリしやがった。

「マユが、送ってやるよ」

「うん。仕方……ないのよね」

「じゃ、いくぞ。目を閉じろ」

「うん……」

「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……」

 全てを観念してひとまわり小さくなる拓美。その姿は、ハンパな小悪魔には、ちょっと心の痛む姿だったぜ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  

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