大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

あたしのあした・65『智満子んちの温泉』

2020-07-26 05:45:45 | ノベル2

・65
『智満子んちの温泉』   



 

 雲母学院に爆破予告!

 テレビでもネットでも、このショッキングなニュースがトップだ。
 昼間、雲母戎で出会った萌恵ちゃん先生も水野先生も硬い表情でニュースや動画に出ていた。校長先生が出張で不在なため、教頭先生が陣頭指揮を執ってとっているんだけど、なんといっても教頭、実質はベテランの先生方が動いているので、ニュースにしろ動画にしろ露出が多い。

「ま、どうせイタズラだろうから、明日一杯で平常に戻るさ。それよりも、せっかくの臨時休校、楽しい一日にしよーぜ!」

 智満子は、お泊り会を実りあるものにしようと絶好調になった。

 智満子の家はお屋敷なんだけど、並のお屋敷ではない。

 なんと、家の中に温泉がある!

 温泉というだけでもビックリなんだけど、温泉旅館並みに広くてデカい!
 ギャラクシースペシャルでも分かる通り、智満子のお父さんはデカくて派手なことが好きなんだ。見ようによってはスノッブなんだけど、際どいところでイヤラシサを感じないのは、できるだけ社員さんやお客さん、時にはご近所の人などを招いて楽しんでもらう。そうやって、人が楽しんでいるのを見るのが無上の楽しみという明るさがあるからだろう。

 みんなでお風呂に入って、背中の流しっこ。

 女の子というのは同性同士でも肌の露出は嫌がるんだけども、あたしたちは二カ月余りプールの補講仲間だったのでスッポンポンでもヘッチャラ。
「ねー、脱衣かごの中にパジャマが入ってるよ?」
 最初に上がったベッキーが、脱衣所のドアから首だけ出して報告した。
「え、パジャマ?」
 智満子が前も隠さずに脱衣所に、他の六人も「なんだなんだ?」とあとに続いた。
「わ、みんなお揃いのパジャマだ!」
「お、でも、ちゃんとネームが入ってる!」

――どうだい、お気に召したかな?――

 急にオッサンの声がした!
 みんな慌てて上やら下やらをタオルで隠す。
「ちょ、お父さん、なんのつもりよ!?」
 智満子の反応で、声の主が智満子のお父さんであると知れた。
――心配するな、手島君に言われて目隠ししてマイクを握っている――
――社長、あとはわたしが……――
 ドスンガタンと音がして、秘書の手島さんに替わった。
――風呂上りも同じジャージでは気の毒だと、社長が用意したものです。持って行ったのはわたしですから、どうぞご心配なく――
――わたしにも喋らせ……い、痛い、痛いよ手島……――
――では、これで館内放送切ります、みなさんごゆっくり、ちょ、社長!――
 またドスンガタンと音がして、プツンと館内放送が切れた。

 ちょっと驚いたけども、おニューのパジャマに着替えて、その夜のガールズトークは絶好調だった。

「あら、みんな寝ちゃったんだ」
 キララTDK(キララタヒチアンダンスクラブ)の話と、雲母祭りの腰元役をやる話を智満子としているうちに、ほかのみんなは寝てしまった。智満子もあたしも、それぞれ自分の道でやっていけそうなことが分かって嬉しかった。
「さ、寝る前にもう一遍温泉に浸かろうか?」
「そうね、あたし明日のことを手島さんと確認してから入る」
「いっしょに行こうか?」
「いいわよ、直ぐに済む。朝、みんなで行ってみたいところがあるから、その確認だけ」
 ということで、一足先にお風呂場に。

 階段を下りたところでスマホが鳴った。きららさんからのメールだった、旅行に行っていて年賀状の返事が出せなかったことのお詫びやら、雲母祭りへの意気込みなんかが書かれていた。メールありがとうございました……とだけ打つつもりが思わぬ長文になり、発信すると急いでお風呂に向かった。
 浴室に入ると、浴槽の湯気の中に白い影が見えた。どうやら智満子に先を越されたようだ。
「好きな時に温泉に入れるって、ほんと幸せね」
 あたしは智満子と背中合わせになるように浴槽に浸かった。
「さっき話してた雲母姫のキララさんからメールが来たんだけどさ、やっぱ、前向きでアグレッシブな人っていいよね」
 雲母祭りに参加できることで、大げさに言えば人生が変わりそうなことを、智満子に語り掛けた。

「あー、ごめん、遅くなっちゃった」

 え、智満子がドアを開けて浴室に入って来た。
「え、じゃ、あたしの後ろは?」
「いやあ、すまんすまん、声を掛けるきっかけを失ってしまってねえ」
 ザブザブと水音を立てて立ち上がったのは、声で覚えていたからよかったものの、智満子のお父さんであった。
 けしてワザとじゃないんだろうけど、お父さんは、あたしの目の前で立ち上がり、智満子に叱られた。

 前くらい隠して欲しかった……。
 


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