REオフステージ (惣堀高校演劇部)
142・学食の自販機前にて 千歳
昇降口を横目に殺して廊下を進むと学食に通じるスロープになる。開け放ったドアから自販機のサンプルをチラ見。よし、午後の紅茶無糖は残っている。
スロープは健常者用の四段の階段に対し直角に付けられている。
二段分下りたところでクニっと360度折り返して、さらに二段分下りて学食の前に着く。
折り返しのところは生け垣のスペースと被って、学食の入り口からは死角になって見えなくなる。
その折り返しの所で止まってしまった。
自販機の前に啓介先輩が立ってしまったのだ。
ちょっと気まずい。昨日のヘリコプター不時着事件で先輩にお姫様抱っこされて、その時のドキドキがまだ残ってるから。
先輩が行ってしまうまで待とう。
ゴトン……カチャ カチャ スタスタスタ…………
ペットボトルを取り出す気配がして足音が遠ざかる。
よし。
車いすを超真地旋回(ガルパンで憶えた言葉)させて、下りの勢いのまま自販機へ。
百円玉二個を握って……固まってしまった。
ウソ……午後の紅茶無糖は無情の売り切れ赤ランプ。
啓介先輩が最後の一個を買ってしまった……。
ショック…………ついさっきまで買えると思っていた午後の紅茶無糖が売り切れてしまったこと。そして、最後の一個を買ったのが啓介先輩だったこと。
なんだかドキドキしてきた。
悲しいから? お目当ての午後の紅茶無糖が無くなったから? それとも?
え……なんで涙が?
「あ、これ欲しかったのか?」
声が降ってきたので二度ビックリ! 見上げると啓介先輩。
「え!?」
「あ、ボンヤリしてて、もう一つ買うの忘れてて……俺は、どれでもええから、ほれ、これは千歳にやるわ」
「あ、いや(#'∀'#)」
「俺は、これ……っと……」
先輩は缶コーヒーを二つ買って「んじゃ」と顔も見ないで行ってしまった。
数秒、ボーっとして気づいた……お金渡してない。
車いすを超真地旋回させて校舎に戻る。
先輩が向かったのは三年生のブロックだ。
エレベーターに乗って、三年のフロアを進む。
二つ目の教室で発見。
声をかけようと思ったら、先輩の他にもう一人。
え……須磨先輩。
さっきよりもドキドキしてきた……。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- 小山内啓介 演劇部部長
- 沢村千歳 車いすの一年生
- 沢村留美 千歳の姉
- ミリー 交換留学生 渡辺家に下宿
- 松井須磨 停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
- 瀬戸内美春 生徒会副会長
- ミッキー・ドナルド サンフランシスコの高校生
- シンディ― サンフランシスコの高校生
- 生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
- 先生たち 姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
- 惣堀商店街 ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)