馬鹿に付ける薬 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
023:『噂のパリス』
関所は谷間にあり、両側は崖が阻んで、どうしても関所を通らなければ先に進めないようになっている。
「どうしても通らなきゃならないのかぁ」
面倒なことが嫌いなアルテミスが口を尖らす。
「あっちを見ろ」
プルートが顎をしゃくって、手前の分かれ道を指す。
「あ、向こうにからでも行けるんじゃ……あ、橋が落ちてる」
数歩先に進んだベロナが声を落として立ち止まった。
「元々、橋のある方が本道で、谷間の道は間道だったんだ。あれを避けてたら、道はないぞ」
「「ああ~~」」
ワン!
ついさっきまで名無しだったポチが薮の方を向いて一声吠えた。
「なに奴だ!」
シャラン!
大剣を構えてプルートが誰何する。ふだん無口なプルートが一喝すると大迫力で「待った待った、怪しい者じゃありやせん(^_^;)」と怪しいオヤジが出て来た。
「じつは、もう一本抜け道がありやす。この薮の向こうなんですがね、ほとんど獣道なんで案内無しでは通れやせん。お一人様5ギルいただけりゃ、ご案内いたしやすよ」
「怪しいぞ、おっさん」
「不躾よ、アルテミス」
「いやいや、面目ない。でも、案内するのは、この先に居るやつらです。要所要所で『右』とか『左』とか声で教えますんで」
「いや、俺たちはそのまま行く」
「でも、旦那、パリスの奴は難儀ですぜ」
「いざとなったら、ぶちのめしてでも通る」
「おお、元気のいいお嬢さんだ。でも、パリスには神のご加護があるようで、あいつを傷つけると……」
「望むところだ、この大剣の錆にしてやる。なんなら、その前に……」
プルートが剣を構えると「いや、だったら、もうお好きにぃ(;'∀')」と後からやってきた旅人たちを相手にしに行った。
列に並んでみると、前の方にバスケット選手のように背の高い狩人が、不器用そうに質問している。噂のパリスだ。
「……そうか、商品の仕入れか。じゃあ、なんでその商品なんだ? 別のものでも良かったのではないのか?」
「いや、それは……」
「お婆さん、孝行息子に会いに行くと言っていたけど、かえって息子の邪魔をすることにはならないのかい?」
「そげなことは……」
「きみは、都に受験に行くんだね。その勉強は都でなければできないものなんだろうか? そこのご夫婦は……観光かぁ、なにも遠くに行かずとも。 そちらの若者は……」
「だいぶこじらせてやがるなあ……」
「そうね、質問がどれも疑問形の否定ばっかりね」
「やはり、押し通るしかないか」
「そうだな、プルート、いっしょに突っ込むか!」
「ダメよ二人とも!」
「「ウッ」」
ベロナが腕を伸ばして遮る。持続力は無いが、ベロナの一言には力がある。昴学院高校の生徒会長を二期務めた力は伊達ではない。仲間に加わったばかりのハチが子犬らしく「クゥン?」と首をかしげる。
「パリスは真剣なのよ。見ていれば分かるわ。旅人と真剣に話をして、そこから何かを学ぼうとしている。髪のご加護もあるようだけど、彼のあの姿勢には正面から応えてあげなければいけないわ!」
そう言うと、ベロナは真っ直ぐ群衆の向こう、必死のパリスに近づいて行った。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- アルテミス アーチャー 月の女神(レベル10)
- ベロナ メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
- プルート ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
- カロン 野生児のような少女 冥王星の衛星
- 魔物たち スライム ヒュドラ ケルベロス(再生してハチ)
- カグヤ アルテミスの姉
- マルス ベロナの兄 軍神 農耕神
- アマテラス 理事長
- 宮沢賢治 昴学院校長
- ジョバンニ 教頭