時かける少女BETA・21
ウェンライト少佐は、不覚にも細井中佐と仲良くなってしまった。
細井中佐は多忙な中、少佐たち捕虜の面倒をよくみた。半分を市民に供給することを条件に畑を作らせてくれ、アイダホの農家出身の部下が、ジャガイモづくりを始め、鶏や豚も飼い始めた。少佐は100人に増えた捕虜のまとめ役になった。
「少佐、喜べ。アメリカに電話ができるぞ!」
中佐が子供のような顔をして収容所にやってきた。
「本当かい!?」
「ああ、ただし、一度に五人までだがな。どこにかけても、だれと喋っても自由だ」
そう言って、細井中佐は板チョコのようなものを五つ机に並べた。
「これが、電話なのか?」
「ああ、新型の無線機を改良したものだ。詳しくは言えんがアーチャーフィッシュを撃沈した時に使った無線中継器の性能が向上したんでな。使える回線が大幅に増えた。カミさんにでも大統領でも好きな相手に電話していい」
ウェンライト少佐は、半信半疑で、ニューヨークの自分の家に電話してみた。
「……ジョ-だ、ケティか?」
「え……ジョー? いつ復員したのよ!? いまどこからなの、シスコ? サンディエゴ?」
「残念ながら、日本だ。先週船が沈められて捕虜になってる。広島の収容所からかけてる」
「収容所? そんなところから電話できるわけないじゃないの。誰だかしらないけどいたずら電話はよして!」
「切られちまった……でも、今の本当にケティなのか? オレも信じられない」
「何度も繰り返しかけてみるんだな。お互い同士しか知らないことを言えば信じてもらえるさ」
三度目の電話で、ケティのホクロの位置を言って、やっと亭主であることを信じてもらえた。他の乗組員も交代で携帯電話に飛びついた。
収容所は、勤労動員のために事実上空き家になった中学校の校舎があてがわれていた。市内の外れにある学校で、遠くに岸壁に繋がれ艤装工事中の大和と信濃が見える。信じられないことに、細井中佐は高倍率の双眼鏡まで置いていった。
「自由に街の中を歩いてもらってもいいんだが、市民感情が厳しい。しばらくは無理だ。その代りの双眼鏡だ。公共施設や軍事施設なら、どこを見てもらってもいいが、民家は覗かんでくれ。ただでも悪い対米感情が、さらに悪くなる」
ウェンライトと、部下たちは、家庭連絡が一通り終わると、双眼鏡で見える港と船舶の動きを太平洋艦隊に直接連絡した。不思議なことに、日本側は盗聴も監視もしなかった。細井中佐にいたっては「双眼鏡では分かりづらいだろう」と、大和や信濃の図面まで持ってきた。
アメリカ軍は、ウェンライトの情報をもとに偵察機を飛ばし、航空写真を何枚も撮って行った。で、あれだけの精度のある対空火器は、ほどほどの命中率になり、あれから10人ほどの捕虜が増えた。
そんなある日、異様な飛行機を見た。
「艦長、ヘルキャットの編隊です!」
部下が叫んだので、双眼鏡で確認した。なるほど遠目にはF6Fヘルキャットに似ているが、それは真っ黒なジョージ(紫電改)の六機編隊だった。
細井中佐は多忙な中、少佐たち捕虜の面倒をよくみた。半分を市民に供給することを条件に畑を作らせてくれ、アイダホの農家出身の部下が、ジャガイモづくりを始め、鶏や豚も飼い始めた。少佐は100人に増えた捕虜のまとめ役になった。
「少佐、喜べ。アメリカに電話ができるぞ!」
中佐が子供のような顔をして収容所にやってきた。
「本当かい!?」
「ああ、ただし、一度に五人までだがな。どこにかけても、だれと喋っても自由だ」
そう言って、細井中佐は板チョコのようなものを五つ机に並べた。
「これが、電話なのか?」
「ああ、新型の無線機を改良したものだ。詳しくは言えんがアーチャーフィッシュを撃沈した時に使った無線中継器の性能が向上したんでな。使える回線が大幅に増えた。カミさんにでも大統領でも好きな相手に電話していい」
ウェンライト少佐は、半信半疑で、ニューヨークの自分の家に電話してみた。
「……ジョ-だ、ケティか?」
「え……ジョー? いつ復員したのよ!? いまどこからなの、シスコ? サンディエゴ?」
「残念ながら、日本だ。先週船が沈められて捕虜になってる。広島の収容所からかけてる」
「収容所? そんなところから電話できるわけないじゃないの。誰だかしらないけどいたずら電話はよして!」
「切られちまった……でも、今の本当にケティなのか? オレも信じられない」
「何度も繰り返しかけてみるんだな。お互い同士しか知らないことを言えば信じてもらえるさ」
三度目の電話で、ケティのホクロの位置を言って、やっと亭主であることを信じてもらえた。他の乗組員も交代で携帯電話に飛びついた。
収容所は、勤労動員のために事実上空き家になった中学校の校舎があてがわれていた。市内の外れにある学校で、遠くに岸壁に繋がれ艤装工事中の大和と信濃が見える。信じられないことに、細井中佐は高倍率の双眼鏡まで置いていった。
「自由に街の中を歩いてもらってもいいんだが、市民感情が厳しい。しばらくは無理だ。その代りの双眼鏡だ。公共施設や軍事施設なら、どこを見てもらってもいいが、民家は覗かんでくれ。ただでも悪い対米感情が、さらに悪くなる」
ウェンライトと、部下たちは、家庭連絡が一通り終わると、双眼鏡で見える港と船舶の動きを太平洋艦隊に直接連絡した。不思議なことに、日本側は盗聴も監視もしなかった。細井中佐にいたっては「双眼鏡では分かりづらいだろう」と、大和や信濃の図面まで持ってきた。
アメリカ軍は、ウェンライトの情報をもとに偵察機を飛ばし、航空写真を何枚も撮って行った。で、あれだけの精度のある対空火器は、ほどほどの命中率になり、あれから10人ほどの捕虜が増えた。
そんなある日、異様な飛行機を見た。
「艦長、ヘルキャットの編隊です!」
部下が叫んだので、双眼鏡で確認した。なるほど遠目にはF6Fヘルキャットに似ているが、それは真っ黒なジョージ(紫電改)の六機編隊だった。
「夜間戦闘機……」
それが常識的な答えだったが、少佐には違和感が残った……。