千早 零式勧請戦闘姫 2040 

18『貞治には真相を話す千早』
ちょっと注目されてしまった。
巫女服のままでは二人乗りすることもできないので、市役所の前から歩いて帰ったのだ。九尾市は小さな街なので、二人のことを知る人は多い。
名前まで知る者は多くは無いが――神社の娘と教会の息子――で通っている。
神社と協会は筋向いで、小さいころから姉弟のように育ってきたのを見て、九尾の市民憲章にある『多様性の尊重、共に生きる喜び』を地でいっているようで微笑ましく見られている。
「いやぁどうもぉ」「アハハハ」「こんにちわぁ」「いいお天気ですねえ」「またお参りに来てくださ~い」「おじいちゃんお元気ですかぁ」「うちも元気ですぅ」
道行く街の人たちに声をかけたりかけられたり、いつもなら目礼程度で済むのだが、巫女服なのでベクトルが強い。
「千早、なんで巫女服なんだよ……っていうか、なんで急に目の前から消えてんだ。わけ分かんねえぞ」
「え、あ……それはね……」
言い淀む千早だが、先月の末からのアレコレには貞治がいっしょのことが多い。これからのアレコレも一緒のことが多いだろうと、千早はこの半月余りの出来事を話した。
「……というわけで、わたし零式勧請戦闘姫ってのに指名されたみたいで……(^_^;)」
「ええ( ゚Д゚)!?」
「あ、みんなにはナイショだからね、お姉ちゃんにも!」
「カザシねえちゃんには言っといた方がよくないか?」
「だめだめ、お姉ちゃん、月末には結婚式なんだから!」
「あ、そうか、そうだな……」
昨日までの自分だったら信じられないと貞治は思った。しかし、市役所前で見つけた千早は、大仕事を成し終えた、たとえば葦の海を割ってイスラエルの民を救った後のモーゼのような疲労感が見えた。市役所の周辺にも大事故の痕を始末したばかりというようなササクレた空気を感じた。
それに、なによりも授与品のお札に熨斗掛けをしていて、テレビが甲子園の中継の途中で市役所前の惨事を映し出し、ビックリしていたら忽然と千早が消えるのを見ている。
これは本当だと、貞治は感じたのだ。
「ああ……えと……どう言っていいか分かんねえけど、なんかあったら、また相談しろよ」
「うん、ありがとう」
熨斗かけの残りが気になったが、いまはそれどころじゃないだろうと「手伝いが要ったらまた言えよ」と言って教会に帰って行く貞治だった。
☆・主な登場人物
- 八乙女千早 浦安八幡神社の侍女
- 八乙女挿(かざし) 千早の姉
- 八乙女介麻呂 千早の祖父
- 神産巣日神 カミムスビノカミ
- 天宇受賣命 ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
- 来栖貞治(くるすじょーじ) 千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
- 天野明里 日本で最年少の九尾市市長
- 天野太郎 明里の兄
- 田中 農協の営業マン
- 先生たち 宮本(図書館司書)
- 千早を取り巻く人たち 武内(民俗資料館館長)
- 神々たち スクナヒコナ
- 妖たち 道三(金波)
- 敵の妖 小鬼