大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルベスト『リセウォッチング奇譚・1』

2018-08-10 06:14:53 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
『リセウォッチング奇譚・1』  
         


 天六を過ぎたとこで省吾が急に立ち上がりよった。

 二三秒立ち上がっていたかと思うと座る気配がした。オレはスマホでゲームをやってたんで別人やないことだけを確認して、またゲームに没頭した。
「セーヤン、いま通った子見たか……?」
「オレは省吾みたいなリセウォッチャーと違うからな……」

 ここから後は、後に一時戻って来た省吾から聞いた話。

 リセウォッチング言うのは、間違うたら変態扱いされかねん趣味。
 女子高生の制服を電車やら駅のホームで見かけたら観察して、記憶に留め、その記憶の蓄積をもとにスケッチを描きメモを付けてファイルにする。関東に少数生息するウォッチャーが居てて、ベテランは『東京女子高制服図鑑』というベストセラーを出して、前世期の終わりごろに、このウォッチングを変態のカテゴリーから、立派な趣味に昇華した。
 この趣味が、半ば公認されるようなると、逆に学校が利用し始め、制服改訂の資料なんかにして、一時高校の制服モデルチェンジブームを作り、私立高校の合同説明会なんかには、マネキンに制服を着せて並べて分かりやすくしてある。この四五年は公立高校でも似たようなことをやってるらしい。

 省吾曰く、このリセウォッチングには厳しい掟がある。

 スマホなんかで写真を撮ってはいけない。盗撮などもってのほか。
 観察している相手に気づかれてはならない。
 友人関係などを利用して実物や資料の提供を受けてはならない。
 観察対象に話しかけたり、ナンパまがいのことをしてはならない。
 同行の士と語らいあうのは構わないが、やたらに自分がウォッチャーであることを吹聴してはいけない。
 あくまでスケッチと資料の収集であり、実物の制服の収集をやってはいけない。
 それから……あとは聞いたけど忘れた。

 オレはゲームに夢中で気いつけへんかったけど、天満橋の駅から乗ってきた子が、信じられん制服を着ていた。

 なんと十年前に廃校になった北浜高校の制服。
 最近は、有名女子高校の制服のレプリカなんか売ってるらしく、ごく少数やけど、これをコスプレにして楽しんでる人も居てるとか。
「コスプレは雰囲気で大概わかる。あの子は現役の高校生の空気があった」
 省吾は、リセウォッチャーらしく絵が上手い。サラサラっと……珍しく顔から描き始めよった。
「メッチャ可愛い子やんけ!」
 省吾は、この道の使徒らしく頬を染めて、直ぐ制服のスケッチにうつりよった。

 オレが見ると、普通のセーラー服やけど、省吾に言わせると胸当ての刺繍、白線の間隔、ポケットの位置、持ってる鞄なんかが大違いで、旧制女学校から続いた雰囲気を色濃く残しているらしい。
 オレは可愛いということを除くと、今時珍しいお下げやいうことぐらいやった。

 省吾はセオリー通り、距離をあけて付いていき、隣の車両へ。
 横長のシートを五人分開けて座り、他の乗客の隙間から向かいの窓ガラスに写る彼女の姿を観察し始めた。
 天満橋で横の席が空くと、なんと、その子が座ってきた。

「あんた、ずっとウチのこと観察してるでしょ」

 省吾は、心臓が止まりかけた……。



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