RE・友子パラドクス
三十年前、友子の娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来から来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に復帰する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」 そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……夏休みも終り、いよいよ始業式……と思ったら、もう日曜日。
「倍返しだからね!」という怖ろしげな紀香の電話がかかってきた。
「ち、仕方ねえなあ!」と、相手を先輩とも思わぬタメ口で返事をした。
もっとも紀香とは、第三者が居ない限り、友だち言葉で話すことにしていた。公式には、紀香は未来からやってきた義体で、『友子の娘が極東戦争を起こす』という未来の予測のために監視していることになっている。しかし、それは今世紀の地球温暖化と同じく利権化した仮説で、紀香とは、監視し監視されるフリをして仲良くしている。
新学期といっても半日授業。
退屈なので、『倍返しごっこ』を始めたのである。
明日の天気を予測して、百円かけるのだ。
両方が同じ予測で当たれば、何も無し。両方とも外れば互いに百円を払う(客観的には意味はないのだが、ゲームだから面白い)。で、片方が外れば倍の二百円を払うことになっている。
ただし、予測について、電脳を使ってはいけないことにしている。ネットに出ている天気図だけをもとに、当てっこするのである。ズルができないように、予測するときには、互いにリンクして、電脳を使っていないことを確認する。
で、二日目にして友子は予報を外してしまった。
「くそ、倍返ししてやりたいなあ!」
父であり、弟である一郎がため息混じりに大きな独り言を言った。母であり義妹である春奈は、今日はクラス会に行って留守である。
友子は、すぐに一郎の思いが飛び込んできて、そのアマチャンぶりに呆れた。
「そりゃ一郎、あんたが甘いのよ」
「なんだ、心読んだのか?」
「それだけハッキリ恨んじゃったら、読まなくってもわかってしまうわよ」
「だったら、どうして甘いなんて言うんだよ!」
「日本の感覚で、商談したり契約したりするからよ」
「でもなあ……」
中身は、こうである。C国から受け入れた熱心な研修者に、新製品のルージュの製法を盗まれたのである。おまけに、彼の勤務態度の良さに気をよくして派遣してきた子会社に十億円の融資をしたのであるが、この子会社が、計画倒産をしてしまい、十億の融資は焦げ付いてしまった。
おまけに、研究職の太田を引き抜かれてしまった。
太田は、この春に一郎たちと一緒に新製品のルージュを開発した後輩であるが、同じく研修生として引き受けていた美人のハニートラップにひっかかって、今朝、一番の飛行機でC国に渡ってしまったのである。
まさか太田に限ってはと、一郎らしく甘く見ていた。
「まあ、尖ってないで、コーヒーでも飲みなよ」
隣家のカーテンが揺れた。
泥棒事件で助けてもらって以来、中野は友子が気になって仕方がない。
友子も隣人が覗いていることを承知で見せつけている。
――うらやましかったら、家庭をもちなさいよ――
そう思っているが、半分は面白がっている友子だ。
一郎はイライラとスマホを繰りながらシュガーポットの砂糖をコーヒーに入れた。
「ウッ、姉ちゃん、このコーヒーしょっぱいよ!」
「あたしは、ただ、塩のポットを置いただけよ。ちょっと見ればすぐに分かるのに。やっぱ一郎は抜けてんねえ」
「まさか、姉ちゃんがするとは思わないだろ!?」
「ハハ、怒るな怒るな。お姉さまがが倍返ししてあげるから」
「ほ、ほんと!?」
「お金の方は、証券会社が開いてからやるとして、とりあえず、太田くんを取り戻してくる」
そう言うと、友子は二階への階段を上がって隣家の窓からは死角に入った……。
太田は、C国の彼女のことで頭がいっぱいであった。
――本社が、子会社に不動産投資をさせて焦げ付かせてしまって。このままじゃ、お父さんは、責任をとらされて、会社を首になるわ――
会社の給湯室で泣いていた彼女から三日がかりで聞き出したのが、このお盆明け。少し迷いはあったが、今朝、決行してしまいC国S市行きの飛行機の中で、一人高揚していた。
「太田様、後ろのP席窓ぎわのお客様が、ご用があるとおっしゃっておられますが」
キャビンアテンダントのオネーサンが優しく後部座席を指し示した。首を回して、そっちを見ると見慣れた彼女の頭が見えた。
「ありがとう!」
キャビンアテンダントのオネーサンが友子であることにも気づかずに、太田は後部座席に急いだ。
「もう、ほんとに日本の男ときたら!」
そう呟くと、友子はスッと姿を消した。
「ありがとう、ボクと同じ飛行機に乗ってくれたんだね!」
彼女は、ゆっくりと窓から、太田に顔を向けた。
「お久しぶり、太田さん」
「!……君は、鈴木先輩のお嬢さん!?」
次の瞬間、目の前が真っ白になり、気が付いたら、同じ飛行機の同じシートに、友子といっしょに座っていた。
「友子ちゃんがどうして?」
「周りを見てごらんなさい」
「……あ!?」
それは同型機ではあるが、日本航空のS市発羽田行きの飛行機であった。
「とりあえず、あたしの家に来てもらおうかしら」
二時間後、太田は友子といっしょに家のリビングに居た……。
☆彡 主な登場人物
- 鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
- 鈴木 一郎 友子の弟で父親
- 鈴木 春奈 一郎の妻
- 鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
- 白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
- 大佛 聡 クラスの委員長
- 王 梨香 クラスメート
- 長峰 純子 クラスメート
- 麻子 クラスメート
- 妙子 クラスメート 演劇部
- 水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
- 滝川 修 城南大の学生を名乗る退役義体兵士