鳴かぬなら 信長転生記
頭だけかと思ったら、その下には首と胴が付いていて、その胴は山そのものだ。
ノシ
大地が軋むような音をさせて山のような牛が立ち上がる。
「あんなにデカイのに脚が無いブヒ!」
「ちがうっッパ、砂煙で脚が霞んでるッパ!」
ドドドド!!
「まずい、こっち来るウキ!」
「逃げるブヒ!」
馬の首と八戒の腹に押しつぶされそうになりながらも馬腹を蹴る!
「な、なんで真っ直ぐ逃げないブヒ!?」
「あの牛、意外に速いウキ」
「真っ直ぐ逃げてはすぐに追いつかれるッパ! 雪崩を躱す要領なんだなッパ!?」
「そうだがな……」
グモオオオオオオオオオオオオオオ!
がぜん速度を上げてきた牛を辛うじて躱す。
ズザザザザザザザザザ
砂漠が爆発したかと思うような砂煙を上げて停止したかと思うと、停止いした力を旋回と跳躍の力に変換、こちらが息つく間もなく襲い掛かって来る!
『この牛魔王から逃げられると思うてか!』
ドドドドオオオオオオオン!!
かろうじて避けると真反対に逃げ、牛魔王が立ち直る前にさらに直角に折れて牛の視界の外に出る。
『待てえ!!』
「ブヒーー!」
「これでは、キリがないッパ!」
「次がチャンスだウキ!」
俺も二度躱したことで牛魔王の呼吸が掴めた。
「飛べ!」
命ずると同時に――変身!――と念じた。
予想通り頭の緊箍児(きんこじ)の一言主も感応、空中で馬は元の紙飛行機に戻って、キョロキョロする牛魔王の上を小さく旋回した。
「少し小さくなったッパ」
「一割は三蔵法師になっていたからなウキ」
『グオオオ どこに失せおった!?』
真上を飛んでいるとは気づかずキョロキョロする牛魔王。
「高度が落ちてきたブヒ!」
「八戒が重いッパ」
「重さは変わらないブヒ」
「ジッとしてろ、ウキ!」
体重を移して紙飛行機を旋回させて牛魔王の背中に着陸させる。
文字通り山のような化物なので、着陸さえすれば身は隠せる。
「……で、どうするのブヒ?」
「そうか、羅刹女と牛魔王は夫婦だ、放っておいても羅刹女のところに戻っていくわけだッパ」
「ああ、子どもの頃、平手の爺に聞いた『西遊記』を思い出してなウキ」
「しかし、羅刹女のもとに行くときは人の姿になっているはずだッパ」
「タイミングを見計らって隠れるウキ」
「隠れたその後はブヒ?」
「兄を信じろウキ」
「あんた、大事なとこで失敗してるからブヒ」
「信長でも失敗するのかッパ?」
「ブヒ、荒木村重が裏切った時さぁ、説得に黒田官兵衛に行かせて、黒田官兵衛がそのまま人質になっちゃったのを寝返ったと勘違いしたじゃん」
「そんなことがあったのか?」
「うん、それで、人質に取ってた官兵衛の息子の首を切った」
「え、子供に罪はないだろ」
「それを『さっさと倅の首を切れ!』ってブチギレてぇ」
「黒田官兵衛と言えば、関ヶ原の戦いの時、どさくさに紛れて九州の北半分取っちゃうほど軍事の天才だって、三国志でも有名だぞ。敵に回したらまずいでしょ?」
「官兵衛が人質になってるって分かって、サルがね、別の死んだ子供の首を見せて匿っていたのよ。『上様、このサルの一存にて官兵衛の息子は生かしております!』って、その時のアニキの顔って無かった」
「無事に済んだのぉ?」
「くやしいけど、サルは行き届いていたわよ。言うと同時に戸板に乗せられた官兵衛を連れてきてさ。官兵衛、人質生活で足が動かなくなってたのよ」
「それはヤバイ」
「『有馬の湯が効く、有馬の湯で湯治しろ!』って、あの時の狼狽え方は、めちゃくちゃカッコ悪かった」
「うるさい! おまえら素に戻ってるぞ!」
「ブヒ!」「ッパ!」
やがて、羅刹女の住処の山に到着。牛魔王が人の姿に戻る寸前に飛び降りて、まずは三蔵法師の居場所を探った。
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 雑賀 孫一 クラスメート
- 松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
- 天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主