時かける少女BETA・26
今回の釈放に応じた捕虜は2000名だった。
残り500の捕虜たちは油と交換されることを拒絶した。軍人らしいと言えばそうだが、そういう者は一握りで、大半の者は仲間や上官の意志に流されたものだった。
捕虜たちの出発は、3月20日横浜の埠頭からだった。今回の乗船は前回油を積んできたアメリカの二隻のタンカーである。
「日本には、もう余分な船は残っていない。交換を迅速に済ますためにも、この二隻のタンカーを使わざるを得なかった。見送りに500人の残留する仲間にも来てもらった。30分の猶予を与える。残留したい者は船から降り給え。また、見送りの諸君で気の変わった者も乗船してもらっても構わない。この10日余りで、携帯電話でいろんな話をいろんな相手にしてもらったと思う。上官や仲間の気持ちはどうでもいい。一人のアメリカ市民として判断したまえ。4月の初旬には君たちの大部隊が沖縄に上陸する。我々は全力で阻止する。釈放される諸君は二度と戦場には出られない。国際法だからね、お互いに最低限の約束は守ろう。帰国する諸君はアメリカで声をあげてもらいたい。原子爆弾は使うなと。じゃあ、30分のシンキングタイムだ」
見送りの捕虜たちに動揺が走った。結果、新たに300の捕虜が見送る側から見送られる側に変わった。
護衛には、前回同様に大和と信濃が付いた。前回と違って、信濃には30機あまりの紫電改が積まれていた。いずれも、あの真っ黒い紫電改である。その紫電改が、なぜか250キロの爆弾を積んで発進した。
「何のつもりだ……!?」
捕虜たちに動揺が走った。釈放を餌にして味方の攻撃に出たのかと思ったのだ。
紫電改は3機ずつの編隊になり、なんと大和を急降下爆撃し始めた。
「な、なんだこれは!?」
紫電改の10組の編隊は、全機正確に30発の爆弾を大和に命中させたが、爆煙が風に吹き飛ばされると、大和は何事もなかったように無傷で航行していた。
そして、9機の紫電改が空中に「バカげた戦争を終わらせよう」と英語で空中に文字を描いた。
空中の文字が消えかかったころ、米軍の船団がやってきた。今回は護衛に新鋭の戦艦ノースカロライナを伴っていたが、さっきの紫電改の爆撃に耐えた大和にくらべると、どこか見劣りがした。
「じゃ、ウェンライト。今度は戦争が終わってから会おう」
「ああ、ただしアメリカが勝った上でな」
「勝負は五分五分で幕を下ろす」
「原爆もカミカゼもない、勝負でな」
日米の中佐が、そう言葉を交わした一週間後、アメリカ軍は沖縄本島に上陸を開始しようとしていた。そして、上陸前の艦砲射撃を加えようとした直前、米軍司令官サイモン・バックナー、レイモンド・スプルーアンスに電文が届いた。
――ただちに攻撃作戦を中止し、艦隊を戻せ。5分後に威嚇攻撃をかける――
発信者は、伊藤整一中将であった。そして、きっちり5分後に、空母エンタープライズが爆沈した……。
残り500の捕虜たちは油と交換されることを拒絶した。軍人らしいと言えばそうだが、そういう者は一握りで、大半の者は仲間や上官の意志に流されたものだった。
捕虜たちの出発は、3月20日横浜の埠頭からだった。今回の乗船は前回油を積んできたアメリカの二隻のタンカーである。
「日本には、もう余分な船は残っていない。交換を迅速に済ますためにも、この二隻のタンカーを使わざるを得なかった。見送りに500人の残留する仲間にも来てもらった。30分の猶予を与える。残留したい者は船から降り給え。また、見送りの諸君で気の変わった者も乗船してもらっても構わない。この10日余りで、携帯電話でいろんな話をいろんな相手にしてもらったと思う。上官や仲間の気持ちはどうでもいい。一人のアメリカ市民として判断したまえ。4月の初旬には君たちの大部隊が沖縄に上陸する。我々は全力で阻止する。釈放される諸君は二度と戦場には出られない。国際法だからね、お互いに最低限の約束は守ろう。帰国する諸君はアメリカで声をあげてもらいたい。原子爆弾は使うなと。じゃあ、30分のシンキングタイムだ」
見送りの捕虜たちに動揺が走った。結果、新たに300の捕虜が見送る側から見送られる側に変わった。
護衛には、前回同様に大和と信濃が付いた。前回と違って、信濃には30機あまりの紫電改が積まれていた。いずれも、あの真っ黒い紫電改である。その紫電改が、なぜか250キロの爆弾を積んで発進した。
「何のつもりだ……!?」
捕虜たちに動揺が走った。釈放を餌にして味方の攻撃に出たのかと思ったのだ。
紫電改は3機ずつの編隊になり、なんと大和を急降下爆撃し始めた。
「な、なんだこれは!?」
紫電改の10組の編隊は、全機正確に30発の爆弾を大和に命中させたが、爆煙が風に吹き飛ばされると、大和は何事もなかったように無傷で航行していた。
そして、9機の紫電改が空中に「バカげた戦争を終わらせよう」と英語で空中に文字を描いた。
空中の文字が消えかかったころ、米軍の船団がやってきた。今回は護衛に新鋭の戦艦ノースカロライナを伴っていたが、さっきの紫電改の爆撃に耐えた大和にくらべると、どこか見劣りがした。
「じゃ、ウェンライト。今度は戦争が終わってから会おう」
「ああ、ただしアメリカが勝った上でな」
「勝負は五分五分で幕を下ろす」
「原爆もカミカゼもない、勝負でな」
日米の中佐が、そう言葉を交わした一週間後、アメリカ軍は沖縄本島に上陸を開始しようとしていた。そして、上陸前の艦砲射撃を加えようとした直前、米軍司令官サイモン・バックナー、レイモンド・スプルーアンスに電文が届いた。
――ただちに攻撃作戦を中止し、艦隊を戻せ。5分後に威嚇攻撃をかける――
発信者は、伊藤整一中将であった。そして、きっちり5分後に、空母エンタープライズが爆沈した……。