オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
117『帰りたんですけど』
トイレに行くのが先決問題だったので瀬津さん……と間違えたメイドさんの正体は分からずじまい。
手洗いのあと通された部屋は十二畳ほどで広かったけど、ほどよく暖房がきいている。
南向きの窓には淡いグリーンのカーテン。二重窓になっているようで、窓の傍によっても寒くない。
窓に沿ってベッド。セミダブルと言っていいほどの大きさで、硬すぎず柔らかすぎず。
枕は、うちのと同じ低反発ピロー。
枕の方角にL字型に机、デスクトップのパソコンは大学に入ったら、これに買い替えようと思っている新型。
モニターが二つと思ったら、一つは憧れの二十四インチの液タブだ。
書架には、わたしがシリーズで読んでいるラノベが6シリーズ並んでいる。
部屋の真ん中には四人で鍋ができそうな炬燵があって、足を突っ込むと、とてもホンワカ。
ウツラウツラしながら思った。さっきの大広間と違って、広さ十分なわたし好みの部屋……わたし好み?
トントン
ドアがノックされた。
「ど、どうぞ」
反射で、そう答えてしまう。
――失礼します――
一声あって、さっきのメイドさんが入って来た。
「今日は、申し訳ありませんが、御屋形様お戻りになりません。時間も時間ですので……」
「あ、いいのいいの。大お祖母さまは忙しい方なんだから、わたしはこれで失礼します。穴山さんに駅まで送ってもらったら、まだ十分新幹線には間に合う、さ、急ぎましょうか」
「あ、いえ。食事になさいますか? お風呂になさいますか? というお話なんですが」
「あ、あ……えと……」
「申し遅れました、わたくし美晴お嬢様のお世話を担当いたします瀬奈と申します。お嬢様も御存じの瀬津の娘でございます。母は、いまは御屋形様の秘書を務めております。不束者ではありますが、よろしくお引き回しのほどお願いいたします」
瀬奈さんか、やっと正体が分かった。そうよね、似てると思ったら親子だったのね。お辞儀の仕方なんて、もう堂に行っちゃって、アキバのメイド喫茶なんて目じゃないわ。それでこそわたしの世話係……世話係って? わたしスグにでも帰るつもり……
スマホの呼び出し音……わたしにじゃない。
「失礼いたします」
なんだ瀬奈さんの……あの、帰りたんですけど~(;^_^A
「お食事は、お役目のみなさまや里のみなさまが御一緒されますので、お嬢様にはお風呂の方にご案内せよとのことです。ささ、どうぞこちらへ」
さっさとドアの外に出て行くしぃー!
「お嬢様、お湯殿にまいられますー、みなみなさま御仕度をーーーー!」
彼方で大勢の人が動く気配、なんだかとんでもないことになって来た(;゚Д゚)。