オフステージ(こちら空堀高校演劇部)148
お弁当箱の入った巾着袋を抱えて家庭科準備室へ、階段の踊り場から正門が見える。
遅刻した生徒は、正門を入ったところの守衛室で入室許可書をもらわなければならない。守衛室のカウンターに見覚えのある女生徒……Sさんだ!?
体調悪いのに大丈夫……?
この距離でも気配を悟ったのか、わたしの姿に気が付いて、ピョンピョン跳ねながら手を振って来る。
可愛く健気な姿に、窓から身を乗り出して手を振り返す。
「家庭科準備室行くから! Sさんもいっしょにおいで!」
我ながら、こういうところはアメリカ人。
ここをアニメにしたとしたら、顔の上半分を二つのへの字、下半分をノドチンコむき出しの口にして、陽気に叫んでいる金髪女子だね。それで、十秒スポットの予告編になりそう。
事情を説明すると――わたしもですか?――という表情をするけど、わたしの圧が強いのか、Sさんは大人しく付いてきた。
「体は大丈夫?」
「はい、お弁当張り切り過ぎて、心配かけました」
「そっか、元気ならなによりなにより(^▽^)/」
「でも、なんで家庭科準備室なんですか?」
「ああ、それはね……」
いきさつを話すと、Sさんも「そうなんですか」と笑ってくれる。
ほんとうは、目論見なんかあるわけない。なりゆきよ。
相談にのるとは言ったものの、冷静に考えると、啓介がSさんを受け入れる可能性は低い。
でも、啓介自身千歳への気持ちが固まっているとも言い難い。
だからね、Sさんという変数を加えて見れば、結果はともかく、事態は動くと……ちょっと乱暴かもしれないけどね。
「「失礼しまーーーす」」
二人で挨拶すると『どーーぞ』と先生の声。
「あら、Sさん、間に合ったの!?」
「はい、三時間ほど寝たら元気になりました。休んだら、お弁当無駄になりますし」
「そうね、じゃ、掛けなさいな。家庭科特性のお味噌汁入れてあげる」
「「ありがとうございます」」
「じゃ、お弁当、見せてくれるかなあ(^▽^)」
お味噌汁をつぎながら杉本先生。
「じゃ、いくよ」
「はい」
「いち、に、さん、でね」
「はい」
わたしは巾着袋から、Sさんは通学カバンの他にもう一つ持ったバッグから、それぞれ一人分にしては多すぎるお弁当箱を出した。
「ほほ、たまに作ると量が多くなるのね。はい、お味噌汁」
「「ありがとうございます」」
わたしのは千代子のお婆ちゃん出してくれた曲げワッパ。Sさんは三段重ねの大型タッパー。
ワッパとタッパー、取りあえずゴロはいい。
「じゃ、いち、に……」
「「さん!」」
日米のお弁当が御開帳になった!
☆ 主な登場人物
- 啓介 二年生 演劇部部長
- 千歳 一年生 空堀高校を辞めるために入部した
- ミリー 二年生 啓介と同じクラス アメリカからの交換留学生
- 須磨 三年生(ただし、六回目の)
- 美晴 二年生 生徒会副会長