REオフステージ (惣堀高校演劇部)
111・ヒトという字は人? 入?
人いう漢字を手ぇの平に書いて飲んだらええねんぞ!
衣装に着替えてワタワタしていたら啓介が教えてくれた。
「そ、そうなんや(;゜Д゜)、ちょ、ちょっとサインペンとかないかな?」
「はい、どうぞ!」
美晴がサッとサインペンを……差し出した手ぇにもドーランの香り。
楽屋になった体育準備室は演劇部と、そのお手伝いさんたちで一杯。
予想はしてたけど心臓バックンバックン!
舞台に立つというのはエキサイティングすぎる!
「えと、ヒトってどっちやったっけ?c(゜.゜*)エート。。。 」
使い込んだ台本の端っこに「人」と「入」を書いて須磨先輩に見せる。須磨先輩は、六回目の三年生という貫録で敵役の『うんず』のコス。
「アハハ、緊張すると忘れるよね『人』の方だよ」
「あ、ども」
「……って、手に書くの?」
「うん、啓介が言うてたから」
「あ、それって指で書くだけよ」
「え、あ、そうなんや(''◇'')!」
在日4年、たいていのことには慣れたけど、こういうところでポカをやる。
「あ、せやけど、わたしアメリカやからAの方がええかな?」
在日4年、たいていのことには慣れたけど、こういうところでポカをやる。
「あ、せやけど、わたしアメリカやからAの方がええかな?」
「A?」
「 audienceの頭文字」
「なーる(▼∀▼)!」
「あ、でも観客は日本人ばっかですよー」
千歳がチェック。
「そっか、じゃ両方やっとこ……ちょ、ミッキー、あんたも書いとき!」
「me?」
「相手役はわたしなんやから、やるやる!」
ガタガタガタガタ……
さっきからアメリカ人らしからぬ貧乏ゆすりをして、テーブルの上のドーランやらペンシルがカタカタ言うてる。
「ちょ、テーブルの上のもんが落ちるがな!」
「お、ソーリーソーリー……あ、なんて書くんだっけ(@゜Д゜@;)?」
「人や人! ほんでもってオーディエンス!」
「え、あ……(''◇'')ゞ」
テンパってやがる。
「書いたげる!」
小道具のチェックをしていた美晴が乗り出す。
「サ、サンキュ~(///◇///) 」
とたんにデレるミッキー。
ま、こんなときやから突っ込まんとく、貧乏ゆすり停まったし。
本番まで15分、みんな準備は済んでしまって静かになってしまう。
本番まで15分、みんな準備は済んでしまって静かになってしまう。
う~~~~こういう時の静けさは逆効果。
いったんは納得した「こんなに痩せてしまって」の台詞が、おりから観客席で沸き起こった笑い声と重なって、自分が笑われたみたいに緊張する。
ステージはミス八重桜の奮闘で倍の広さになって安全になった。
ステージはミス八重桜の奮闘で倍の広さになって安全になった。
こないだは、そのステージを見て、グッとやる気になったんやけど、今日は、その分――笑われたらアカン!――というプレッシャーになる。
あ、えと、本番前なんで……
入り口でなにかもめてると思ったら「わたしは着付け担当ですぅーー」と声がして人の気配。緊張しすぎのわたしは顔も上げられへん。
あ、えと、本番前なんで……
入り口でなにかもめてると思ったら「わたしは着付け担当ですぅーー」と声がして人の気配。緊張しすぎのわたしは顔も上げられへん。
「ミリー、観に来たよ!」
間近で声がして、やっと分かった。
「お、お婆ちゃん!?」
「着付けが気になってねぇ……ちょっと立ってごらん」
「は、はひ!」
着付けはさんざん練習したんで完璧のはず。
「うん、きれいに……ん? ミリー、あんた左前やがな!」
「え? え? そんなことは……オオ(|||ノ`□´)ノオオオォォォー!!」
みごとな左前に気づいて、いっぺんにいろんなことが飛んでしもた!
みごとな左前に気づいて、いっぺんにいろんなことが飛んでしもた!
「これでは『夕鶴』ちごて『四谷怪談』やがな! ちょっと、いったん脱いで!」
言うが早いか、お婆ちゃんは長じゅばんごとわたしをひんむいた。
本番は大汗をかくと言われていたので下着しか着ていない……それも、線が出たらあかんので、そういう下着!
本番終るまでは、もう目も当てられんことに……なったかどうかは、またいずれ(^▢^;)。
本番終るまでは、もう目も当てられんことに……なったかどうかは、またいずれ(^▢^;)。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- 小山内啓介 演劇部部長
- 沢村千歳 車いすの一年生
- 沢村留美 千歳の姉
- ミリー 交換留学生 渡辺家に下宿
- 松井須磨 停学6年目の留年生
- 瀬戸内美春 生徒会副会長
- ミッキー・ドナルド サンフランシスコの高校生
- シンディ― サンフランシスコの高校生
- 生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
- 先生たち 姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
- 惣堀商店街 ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)