ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第136話《髑髏ものがたり・8》さつき 
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「困ったなあ……」
自薦他薦合わせて五組も阿部中尉の遺族が名乗り出たのだ。
遺骨の管理権は一応トムから託されたあたしにある。そんでもって、トムに預けたアメリカ人のアレクのひい祖父ちゃんも「日本の遺族に返してほしい」という希望だった。
DNA鑑定までやってるんだから、それをもとに一番血のつながりの濃い遺族に渡せばいいんだけど……ためらいがある。
話が大きくなりすぎているのだ。
下手をすれば、遺族の手によって見世物にされる恐れがある。現にあたし個人にもマスコミからの取材の申し込みがあった。ただバイト先の雑誌社が正面に立ってくれて、遺骨の髑髏そのものを見せることはひかえてきた。
遺族によっては、髑髏を見世物にして取材費用や拝観料をとって一儲けすることも考えられた。現にいくつかの番組制作会社からは、かなりの額の取材費の申し込みもあった。それは雑誌社を通して断ってもらっている。今のところ厳密なDNA鑑定を遺骨と「遺族」のみなさんにやってもらって時間を稼いでいる。
「あまり気にやまなくってもいいよ」
阿部中尉が現れて、直接あたしに言った。思わず叫び声をあげるところだった。
だって、お風呂の中なんだもん(>o<)!
「この家で二人きりで話せるって、お風呂かトイレしかないからね」
トイレは問題外だ。こっちを向かないことで妥協した。
「この七十年で見世物になるのは慣れっこだよ」
「あまり気にやまなくってもいいよ」
阿部中尉が現れて、直接あたしに言った。思わず叫び声をあげるところだった。
だって、お風呂の中なんだもん(>o<)!
「この家で二人きりで話せるって、お風呂かトイレしかないからね」
トイレは問題外だ。こっちを向かないことで妥協した。
「この七十年で見世物になるのは慣れっこだよ」
「だからこそ、もう阿部さんを見世物にしたくないのよ」
「それより、こんなことで君を悩ませている方が気詰まりだよ」
「でもね……」
気づくと阿部さんが背中を流してくれていた。恥ずかしい気持ちはどこかへ行ってしまった。
あたし、少しずつ阿部さんのことを好きになり始めていた。
『そんなことだろうと思った』
そう電話してきたのは、さくらの『ゴンドラの唄』でお世話になった恵庭さんだった。
『明日、わたしの家にいらっしゃい。阿部中尉もいっしょに』
ホンダZに阿部さん乗っけて、二輪さんちにいった。
「さつき君の車が玩具に見えるね」
阿部さんが無邪気に言う。ごっつい外車が4台も並んでいては、ホンダN360Zはたしかにオモチャだ。
「阿部中尉さん、こっちに移ってもらうわ」
恵庭さんが出したのは30センチほどの日本兵のブロンズ像だった。
「これはね、高村早雲さんて彫刻家さんが戦友の慰霊のために作ったブロンズ。昨日すこし手を入れていただいて、階級章を中尉にして……ほら、台座の下に『陸軍中尉 阿部忠』って、入れてもらったの。阿部さん、こっちなら移り甲斐もあるでしょ?」
気づくと阿部さんが背中を流してくれていた。恥ずかしい気持ちはどこかへ行ってしまった。
あたし、少しずつ阿部さんのことを好きになり始めていた。
『そんなことだろうと思った』
そう電話してきたのは、さくらの『ゴンドラの唄』でお世話になった恵庭さんだった。
『明日、わたしの家にいらっしゃい。阿部中尉もいっしょに』
ホンダZに阿部さん乗っけて、二輪さんちにいった。
「さつき君の車が玩具に見えるね」
阿部さんが無邪気に言う。ごっつい外車が4台も並んでいては、ホンダN360Zはたしかにオモチャだ。
「阿部中尉さん、こっちに移ってもらうわ」
恵庭さんが出したのは30センチほどの日本兵のブロンズ像だった。
「これはね、高村早雲さんて彫刻家さんが戦友の慰霊のために作ったブロンズ。昨日すこし手を入れていただいて、階級章を中尉にして……ほら、台座の下に『陸軍中尉 阿部忠』って、入れてもらったの。阿部さん、こっちなら移り甲斐もあるでしょ?」
「よく出来ていますねぇ。いいですよ、こっちに移ります」
阿部さんは、あっさりとブロンズに移ってしまった。
「はい。これで遺骨はただの髑髏。だれに渡しても平気よ。ブロンズはさつきさんがお持ちなさい、気の済むまで。いつか好きな人が出来たら、あたしのところか、近くのお寺にお納めすればいいから」
結果的には、お兄さんのひ孫にあたる遺族のところに遺骨は引き渡された。案の定、ひ孫は取材やSNSやらで一財産稼いだ。
「でも、あれでいいんだよ。取材のためだけど、仏壇買って亡くなった兄貴の供養までやってくれたからね……え、ちょっと、どこへ連れていくんだね?」
阿部さんは、あっさりとブロンズに移ってしまった。
「はい。これで遺骨はただの髑髏。だれに渡しても平気よ。ブロンズはさつきさんがお持ちなさい、気の済むまで。いつか好きな人が出来たら、あたしのところか、近くのお寺にお納めすればいいから」
結果的には、お兄さんのひ孫にあたる遺族のところに遺骨は引き渡された。案の定、ひ孫は取材やSNSやらで一財産稼いだ。
「でも、あれでいいんだよ。取材のためだけど、仏壇買って亡くなった兄貴の供養までやってくれたからね……え、ちょっと、どこへ連れていくんだね?」
「ブロンズの阿部さんは、もう我が家の一員ですからねぇ」
「え、あ、それは光栄なんだが……」
阿部さんをリビングの棚、招き猫たちの真ん中に安置する。
お母さんが面白がって、フェルトで兵隊の帽子を作って猫たちの頭にかぶせる。
猫たちの手が敬礼みたく見えて、我が家の守護神部隊のようになった。
☆彡 主な登場人物
- 佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
- 佐倉 さつき さくらの姉
- 佐倉 惣次郎 さくらの父
- 佐倉 由紀子 さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
- 佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
- 佐久間 まくさ さくらのクラスメート
- 山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
- 米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
- 白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
- 原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
- 坂東 はるか さくらの先輩女優
- 氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
- 秋元 さつきのバイト仲間
- 四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
- 四ノ宮 篤子 忠八の妹
- 明菜 惣一の女友達
- 香取 北町警察の巡査
- クロウド Claude Leotard 陸自隊員
- 孫大人(孫文章) 忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
- 孫文桜 孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
- 周恩華 謎の留学生