鳴かぬなら 信長転生記
転生は扶桑の専売特許ではないのよ。
あやうく茶を噴き出すところだった。
秘書官の備忘録の用件がすんで、椅子に腰かけるやいなや、カマされた。
「職丹衣(しょく にい)、君は織田信長の生まれ変わり。で、そちらは信長の妹、市の生まれ変わりの……こちらでは、職市(しょく しい)よね?」
「なぜ、知っている?」
今朝出会った時から、かなりのところまで知られていると思っていたが、まさか転生したことまで知っていたとは思わなかった。
「スパイを送り込んでいるのは、そちらばかりではない……とは思わないかしら?」
「であるか」
「でも、職丹衣とは、うまくつけたわね」
「そうか」
「ええ、シイが君を呼ぶときは『にいちゃん』で済むわよね。シイ……市は、良くも悪くも兄妹愛が抜けないみたい」
「そんなことはない!」
「市、おまえは黙ってろ」
「なにさ!」
「アハハハハ」
「「なにがおかしい!?」」
「いや、失礼。報告にあった市という子は、針の先のように鋭く気難しいというものだったのでね。いや、見た目通りの女の子なので、ちょっと嬉しくなったわ」
たしかに、三国志に来てから、少々幼さを感じさせる市だが、そこまで茶姫は見抜いている……だけではなく、茶姫は『幼い』とは言わずに『見た目通り』と、市の神経を傷つけない言葉を選んでいる。ちょっと油断がならない。
「おまえも、誰かの転生なのか?」
「うん……というか、いいえでもある」
「なんだ、それは?」
「転生の自覚はあるけで、あなたたちのように、誰の転生なのかは分からない」
「ほお……」
「あら、にいちゃんは、なにか感心するところがあるようね」
「にいちゃんと呼ぶのは止せ」
「じゃあ、にいさん?」
「ただの『にい』でよい」
「天下の織田信長を?」
「ここでは、ただの職丹衣だ」
「だからにいさん」
「う」
「アハハハハ(≧∇≦*)」
「笑うなシイ!」
「困ったわね、おにいさん」
「コラ(;`O´)o」
「じゃあ、少佐」
「少佐?」
「ええ、決めたわ。近衛少佐職丹衣と同じく近衛少尉の職市」
「え、わたし三階級も下の少尉なの!?」
「厳密には特任少佐と少尉。まあ、参謀と話相手の中間みたいな。実質無任所だから動きやすいと思うわ」
「御伽衆のようなものね? うん、わたしは、それでいいよ」
「しかし、なぜ、そこまで好意的なのだ?」
「それを含めてスパイしてくれるといいわ。条件は一つだけ」
「なんだ」
瞬間、茶姫の瞳が真剣な光を宿すので身構えてしまう。
「なにを調べてくれてもいいけど、破壊活動だけはしないで。ものを壊したり、人を殺したり……」
「もう、殺してしまったぞ」
「夕べの事は、人命救助のための正当防衛でしょ」
「そうだ」
そうか、とりあえずは、俺たちを近衛として取り込むことで曹素への牽制にはなる。
そう理解して、取りあえずは茶姫の手の平に載ることにしたぞ。
☆ 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍