REオフステージ (惣堀高校演劇部)
123・大お祖母ちゃん・3
一時間近くかけて山を下りると、登った時とは違う場所に出た。
山の様子など分からないので、ちょっとキツネにつままれた感じ。
山の傾斜が途切れて、そこだけが水平で、自然な地形ではないように思われた。
「このあたりの五つの山から切り出した原木が集められるところなのさ。四百年前にご先祖が切り開いて、ずっと使っている。シーズンになればトラックやら重機で賑やかになるよ。ここで枝を払って長さを整えて甲府の駅やら関越自動車道やらに運ばれて行くんだ」
クレーン車や作業小屋も見えるから、貯木と製材を兼ねた広場なのだろうけど、適当な言葉が浮かばない。それだけ須磨の日常からはかけ離れた所なのだ。甲府の家そのものが子どもの頃に日帰りで来ただけなので、様子が分かっていない。
広場の下り斜面の方から自動車の音が響いてきた。街なかで見かける半ば電気で動く車と違って音が大きい。四五台はいるのかと思ったら、上って来たのは二台の四輪駆動車だ。
「周りがみんな山だから、木霊して多く感じるんだよ。それにしても猛々しいねえ」
先頭の車は怒ったカブト虫のようにガチャガチャして、後ろの車は一回り小さくて、カブト虫の子分のように思えた。
「やっと会えたです、松井さん」
前の車から妙なアクセントの男がダークスーツを従えて降りてきた。後ろの車からは穴山さんと、夕べの宴会で見かけた男が心配顔で下りてきた。
「林(りん)さん、話の続きは明日のはずでしたが」
「申し訳ありません、どうしてもとおっしゃるので……」
穴山さんが申し訳なさそうに付け加える。林(りん)さんと言うのだから中国の人なんだろう、その林さんが、穴山さんたちがダメだと言うのも無視してやってきたんだろうということが想像できた。
「ごめんなさいね穴山さん、みなさん。チンタオ公司が動き始めてるので先を越されると心配なのです。きのう提示した金額に三億の上乗せします。どうか、この私に売ってください」
「ご心配なく、どこが来ても、この案件には同意しません」
「ん……こんなことを言ってはなんなのですが、あの山の所有者は惟任(これとう)さんです。慣習上松井さんの了解が必要、それは尊重しますが、法的には私と惟任さんだけの取引でもできますよ。でも、わたし日本の人たちと仲良くやっていきたい思うからです。チンタオ公司はもっとビジネスライクにやってきますよ」
「そうはいきませんよ、商取引、特に山林売買に関しては慣習が重視されます。無視すれば、その後の業務で日本の、少なくともここらあたりの協力は得られませんよ。そうなればどこの山道も使えないし、山の木一本運び出せない」
「あーーーでも、山の木は切りださなきゃ、九州豪雨のようなことになるんじゃないですか。100ミリちょっとの雨で山崩れとかありえないでしょ」
「そうなれば、持ち主である林さんの責任になるでしょう。それに、ここいらで太陽光発電に賛同する者は一人もいません」
「んーーーかもしれないけど、林道や入会権は松井さんの裁量、裁判になったら五分五分でしょうが、納得してもらった上でないと、わたしも気持ちが悪いです」
林さんは、けして無理を言っているのではないと須磨にも分かる。ハキハキものを言うけど、どこかすまなさそうに眉をヘタレさせるところなどクマのプーさん思わせるところがある。
「とにかくチンタオ公司は相手にしません。ここで言いあっても仕方がない、今夜はうちにお泊りなさいな、温泉にでも浸かれば、いい考えが浮かぶかもしれない」
「……ハーー、そうしましょうか。おーい美麗」
林さんは4WDの後部座席に声をかけた。
「わたし、日本の温泉好きよ」
そう言いながら4WDから出てきたのは……夕べ見かけた女子高生だ!
山の傾斜が途切れて、そこだけが水平で、自然な地形ではないように思われた。
「このあたりの五つの山から切り出した原木が集められるところなのさ。四百年前にご先祖が切り開いて、ずっと使っている。シーズンになればトラックやら重機で賑やかになるよ。ここで枝を払って長さを整えて甲府の駅やら関越自動車道やらに運ばれて行くんだ」
クレーン車や作業小屋も見えるから、貯木と製材を兼ねた広場なのだろうけど、適当な言葉が浮かばない。それだけ須磨の日常からはかけ離れた所なのだ。甲府の家そのものが子どもの頃に日帰りで来ただけなので、様子が分かっていない。
広場の下り斜面の方から自動車の音が響いてきた。街なかで見かける半ば電気で動く車と違って音が大きい。四五台はいるのかと思ったら、上って来たのは二台の四輪駆動車だ。
「周りがみんな山だから、木霊して多く感じるんだよ。それにしても猛々しいねえ」
先頭の車は怒ったカブト虫のようにガチャガチャして、後ろの車は一回り小さくて、カブト虫の子分のように思えた。
「やっと会えたです、松井さん」
前の車から妙なアクセントの男がダークスーツを従えて降りてきた。後ろの車からは穴山さんと、夕べの宴会で見かけた男が心配顔で下りてきた。
「林(りん)さん、話の続きは明日のはずでしたが」
「申し訳ありません、どうしてもとおっしゃるので……」
穴山さんが申し訳なさそうに付け加える。林(りん)さんと言うのだから中国の人なんだろう、その林さんが、穴山さんたちがダメだと言うのも無視してやってきたんだろうということが想像できた。
「ごめんなさいね穴山さん、みなさん。チンタオ公司が動き始めてるので先を越されると心配なのです。きのう提示した金額に三億の上乗せします。どうか、この私に売ってください」
「ご心配なく、どこが来ても、この案件には同意しません」
「ん……こんなことを言ってはなんなのですが、あの山の所有者は惟任(これとう)さんです。慣習上松井さんの了解が必要、それは尊重しますが、法的には私と惟任さんだけの取引でもできますよ。でも、わたし日本の人たちと仲良くやっていきたい思うからです。チンタオ公司はもっとビジネスライクにやってきますよ」
「そうはいきませんよ、商取引、特に山林売買に関しては慣習が重視されます。無視すれば、その後の業務で日本の、少なくともここらあたりの協力は得られませんよ。そうなればどこの山道も使えないし、山の木一本運び出せない」
「あーーーでも、山の木は切りださなきゃ、九州豪雨のようなことになるんじゃないですか。100ミリちょっとの雨で山崩れとかありえないでしょ」
「そうなれば、持ち主である林さんの責任になるでしょう。それに、ここいらで太陽光発電に賛同する者は一人もいません」
「んーーーかもしれないけど、林道や入会権は松井さんの裁量、裁判になったら五分五分でしょうが、納得してもらった上でないと、わたしも気持ちが悪いです」
林さんは、けして無理を言っているのではないと須磨にも分かる。ハキハキものを言うけど、どこかすまなさそうに眉をヘタレさせるところなどクマのプーさん思わせるところがある。
「とにかくチンタオ公司は相手にしません。ここで言いあっても仕方がない、今夜はうちにお泊りなさいな、温泉にでも浸かれば、いい考えが浮かぶかもしれない」
「……ハーー、そうしましょうか。おーい美麗」
林さんは4WDの後部座席に声をかけた。
「わたし、日本の温泉好きよ」
そう言いながら4WDから出てきたのは……夕べ見かけた女子高生だ!
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- 小山内啓介 演劇部部長
- 沢村千歳 車いすの一年生
- 沢村留美 千歳の姉
- ミリー 交換留学生 渡辺家に下宿
- 松井須磨 停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
- 瀬戸内美春 生徒会副会長
- ミッキー・ドナルド サンフランシスコの高校生
- シンディ― サンフランシスコの高校生
- 生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
- 先生たち 姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
- 惣堀商店街 ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)