大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・トモコパラドクス・18『乃木坂パンケーキ』

2023-09-15 06:54:09 | 小説7

RE・友子パラドクス

18『乃木坂パンケーキ』 

 

 

 優に五十人は並んでいた……と思いきや、角を曲がって最後尾に並ぼうと思ったら、もう八十人ほどが並んでいた!

 部室のプレステ5で紀香VS友子の模擬戦をやり、データをとった二人はいそいそと新装開店の駅前のパンケーキ屋さんに急いだのだ。

 

 乃木坂パンケーキ

 

 おしゃれなキーワードが二つも入っている。

 乃木坂ほど由緒正しく、東京の老若男女から「ちょっとオシャレでイケテル」と思われる地名はない。渋谷も池袋も新宿も人が多すぎて、ポピュラーな割にはゴッタ煮の感じで、たまに足を向けると自分が寄せ鍋の具になったようで、楽しむ前にくたびれてしまう。

 そこへいくと、乃木坂というのは有名なわりには人が多くない。前世紀の終りぐらいまでは「ああ、そういえば……」程度の知名度で、最初に思い浮かぶのは乃木大将の乃木神社。楽しむと言うよりはモノクロのゆかしさを覚える地名であった。これに色を付けたのは乃木坂を冠したアイドルグループと『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』ぐらいのもので、まだ、そんなに手垢の付いた地名ではない。なんと言っても自分の学校の所在地なので乃木坂や都乃木の生徒には五割り増しの好感度。

 方やパンケーキは、この春から流行りだした懐かし系のお手軽スィーツ。ごちゃごちゃトッピングしたり、無理やり挟んだりしないプレーンなところが、ひところ流行ったチーズケーキに似ている、価格的にもタイ焼き今川焼のレベルで高校生の財布にも優しく、近ごろでは青山赤坂あたりから足を伸ばす者もいる。

 

「ねえ、ちょっと待ってくださいよ!」

 

 寝ぼけマナコの妙子が、制服のリボンを揺らしながら、乃木坂を駆け下りてきた。

「うわー、こんなのができたんだ。おお~、いま流行の最先端のパンケーキじゃないっすか。こんなに並んじゃって。へー、こだわりのプレーンパンケーキ! これは並ばない手はないですね!」

 妙子は、列さえ出来ていれば並ぼうというオバサンDNAを働かせた。この行儀がいいというか無節操というか、こういうノリにはついて行けない友子であった。

「こう言うときに並ぶ練習して、きたるべき災害時に備えるんじゃあ~りませんか!」

 妙子はポジティブというか、おめでたいというか。ただ「食いたい!」という気持ちから災害対策まで持ち出して、その意欲を見せた。

「あ、大佛クンも浅田麻子も、徳永亮介……長峰さんまで並んでる」

「うちと都乃木(都立乃木坂高校)で半分は占めてるね」

 気が付いたら並ばされている友子。

 高校生の情熱というのは大したものだと思った。現役女子高生とはいえ中身はオバサンの友子、もっとエネルギーの使いようがあるだろうと思う。受験勉強だって、これにくらべれば高尚なものに思えたし、知識として知っている新宿フォークゲリラや、学園紛争は、文化や政治のありようさえ変える可能性があった。
 スマホで調べりゃ通学圏内に五軒ほどはあろうかというパンケーキ、さっきまで紀香とやっていた、模擬戦の方が情熱が湧く。

「……!」

「どうした、友子?」

 紀香が小声で聞いてきた。

――殺気!――

 心で叫ぶと、友子はテレポートしていた。

 また自分の能力を発見した。


 そこは、富士の樹海であった。


 木の間隠れに見える姿は、都乃木の制服を着ていた。

「あなたね、三十年前の事故から、未来の技術で蘇った子って……鈴木友子っていうのね」

 そう言うと、その子の気配は背後に回っていた。

「あなたは……」

 友子は、相手の思念やスペックを読み取ろうとしたが、何一つ分からなかった。

「この惑星の人間は、不安と猜疑心をこんなカタチで現すこともあるのね」

「それって、わたしのこと?」

 また、気配が移動した。

「あなたの中には、人類の不安がとんでもない力として凝縮されている。でもあなたには、パンケーキ屋に並ぶJKへの偏見があるようだけど、他にはこれといって悪意もない。安心したわ……」

「え……宇宙人?」


 振り向くと、誰も居らず、視界が白くなったかと思うとパンケーキ屋の列に戻っていた。

 

―― 友子、テレポしたわね ――

―― ちょっと変なのがいたんで……でも、もう大丈夫 ――

 そう言うしかなかった、相手のことは何も読めなかった。この列のどこかにはいるんだろうけど、もう気配も感じない。ちょっとおかしいけど、缶コーヒーのCMに出てくる宇宙人を連想した。

「あ~、おいしかった。やっぱ、パンケーキはプレーンだね!」

 妙子は無邪気に喜んで、向かい側のホームに行った。

「あの店、市販の業務用のパンケーキ粉に、タイ焼きの残った粉混ぜてるね」

「成分分析したのね」

「タイ焼き屋のおじさん、体こわしたんだね。で、息子が流行に乗ってパンケーキに転業」

「まあ、美味しかったし」

「並んだ甲斐はあったか。ね……友子?」

 あの宇宙人も、このことを調べに?……苦笑する友子であった。
 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部

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