大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)037・トランクの中身

2024-05-21 07:14:34 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
037・トランクの中身                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 キャーーーー(((٩(๏Д⊙`)۶))) !


 中庭にこだます悲鳴!


「え、なに!?」「きゃ!」「なに!?」「なんだ!?」「なにごと!?」「見にいこ!」

 演劇部員たちは、ほかの部室棟の住人たちと中庭に飛び出した。

 車いすの千歳と付き添いのミリーが遅れて出た時には古井戸を覗き込むように人だかりがしていた。部室棟から運び出されたガラクタが並べられて、演劇部の札が立てかけられているところだ。

 えぇ……あぁ……うぅ………… 

 人だかりは声にならない唸り声をあげている。

「わ、わたしいいです!」

 人だかりに怯えたのか、なにかを予見したのか、千歳は車いすを止めて尻込みした。

「ほんなら、ここで待ってて」

 安全な場所に車いすを停めると、ミリーは人だかりの中に突入した。

 う……

 人だかりの中心からは変な臭いがして、みんな手やハンカチで口と鼻を押えている。


 OH MY GOD!!


 めったに出ない母国語が口をついた。

 人ごみの真ん中には古ぼけたトランクが口を開いている。そして、トランクの中には信じられないものが収まっていた。

 それは、古いセーラーの制服を着て胎児のように膝を抱えた女生徒のミイラ。


 見るんやない!!


 立ち会いの松平先生がトランクの蓋を閉めたので、ミリーが見たのはほんの一瞬だった。

 しかし、その姿は一瞬でミリーの脳に焼き付いた。

 くぼんだ眼窩には乾ききった梅干しのような眼球が収まり、鼻の先は欠落して二つの鼻孔が露わになっていた。
 唇は周囲の皮膚と一緒に乾ききってめくれ上がり、異様に白く見える歯列が覗いている。
 長い髪は古い絹糸の束のように艶が無く、上になった左頬を隠しながら体に掛かって、幅広のカチューシャだけが艶めいていた。

「うーーーーえらいもん見てしもたあ(-_-;)」

 部室に戻ったミリーは腕組みをしたまま椅子に座って固まっている。

 啓介も口をきかない。

 須磨は椅子を車いすに寄せて千歳の手を握ってやっている。

 四人とも中庭の方を見ようとしない。

 中庭には、運び出されたガラクタが並べられ、その真ん中には古いカーテンを掛けられたトランクが鎮座している。
 
 残留物の捜索は打ち切られ、出入り口には障害物競走のジャンプバーが置かれ部室棟は立ち入り禁止に戻された。

 演劇部の四人は狭いタコ部屋で息もするのを忘れたようにジッとしている。

 他の文化部員たちは早々に下校したが、トランクの出所が演劇部の部室だったので足止めを食っているのだ。

 ピィーポォーピィーポォーピィーポォーー

 梅雨時の湿った空気のせいか、地獄の使者を思わせるくぐもったサイレンが響いてきた。

「警察が来たわ、大変だけど中庭に集まってちょうだい」

 生徒会副会長の美晴が、獄卒のように四人を呼びに来た……。
 
 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局     

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 銀河太平記・222『フーち... | トップ | 巡(めぐり)・型落ち魔法少... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説7」カテゴリの最新記事