真凡プレジデント・59
何ごとも規則通りにやると息が詰まる。
たとえば、道路の左側を歩けば道路交通法違反になる。
空き地を斜めにショートカットすると不法侵入罪になる。
女の子を五秒以上見つめるとセクハラになる。
これと同じ理屈で、学校は生徒会室のエアコン使用を許可しなかった。
だから、事務所と同じ感覚で校内を見て回った。
主に教官室や教科準備室など十五か所。
出てくる出てくる。
冷蔵庫が十二台、エアコンが二台、洗濯機が二台、電子レンジが四台、ガスコンロが一台。
いずれも学校の備品ではなく私物として持ち込まれたもの。コンロにいたっては隣の部屋からホースを敷いて堂々の消防法違反。
いつもならネットに晒す。
今回は生徒会室のエアコンを稼働したいだけなので、タブレットに取り込んだだけで事務所に向かう。
「これ、問題だと思うんですけど」
それだけ言って主査のオッサンに見せる。
ほんの五秒で、オッサンは事務長に耳打ち。
チラチラと俺を見てはヒソヒソ。
「時間かかるようならエンターキー押しますが」
「「エンターキー!?」」
「はい、ネットに流れると同時に都教委と都庁の記者クラブに……」
「分かった分かった、直ぐに生徒会室の電源を入れてあげるから(^_^;)!」
事務長は若い主事のニイチャンに指示して電源を入れてくれた。
「学校の節電努力も理解しています。給湯室のレンジなんか使用しないときはプラグ抜いてらっしゃいますもんね」
「え?」
主事のニイチャンの背中が驚く。
事務所の給湯室は隣接する校長室と共用で通路を兼ねている。万が一の校長の脱出ルートでもあるし、秘密の相談が行われるコーナーでもあり、生徒はいっさい立ち入れない。その給湯室の秘密なんだから驚くだろう。ただ、ヤマはっただけなんだけどね。
ウワーーーー!
生徒会執行部、四人の女の子が歓声を上げる。日ごろはなにかと癖のある子たちだけど、これだけの暑熱が一気に解消されると、彼女たちのコアな女の子らしさが出るんだ。エアコンの威力は絶大だ。
それと、真凡が特徴のない女の子だと言われる理由が分かった。
分かったんだけど、なにもかも表ざたにするのも芸のない話なので、ここでは言わないぞ。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡 ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
- 橘 なつき 中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問
- 柳沢 琢磨 天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
- 北白川綾乃 真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
- 福島 みずき 真凡とならんで立候補で当選した副会長
- 伊達 利宗 二の丸高校の生徒会長