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三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された!
妙子が、ヨダレを垂らして眠っている……かわいそうなぐらいだらしなく。
しかし、妙子は悪くない。紀香と友子によって眠らされているのだ。
水島クンが現れて三日目。
土曜なので、しっかり時間をとって部活ができるんだけど、今日は、そうはいかない。
水島クンがサゲサゲなのである。水島クン自身は、ダクトの中で満足していた。
彼は、ほかの幽霊さんと同様に、昭和二十年三月の大空襲で死んだ。でも、他の幽霊のようには、この世に未練は無かった。空襲で、みんなが死んでいくのは辛かった。B29も憎くて怖かったけど、自分一人に関しては自業自得だと思っていた。三年ちょっと前には、神国日本は必ず勝つと思っていた。ミッドウエー海戦が終わって半年ぐらいから変だと思い始めた。山本連合艦隊司令長官が戦死して、もう日本は負けるなあと思った。でも、自分も熱烈に賛成した戦争なので、恨みの行き場所も無かった。
父や『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』で、名脇役を果たした兄は、この戦争には、最初から反対だった。だから、日本もアメリカも等しく恨むことができた。また、自分の命と引き替えに助けてやりたいと思う人間も居た。
兄は、麻布高女の池島潤子という女生徒を愛していた。通学途中にすれ違うだけの仲だった。昭二は、そんな兄がまどろっこしくって通学途中、友だちに頼んで潤子さんにわざとぶつかり本を落とさせたことがある。
「あ、本落ちましたよ」
「ど、どうもありがとうございます」
兄は、これで池島潤子さんの名前を確認はしたが、それ以上には、いっこうに進まなかった。そのくせ自分が死ぬときには、潤子さんのことを思い続けた。せめて、君は助かってくれと……。
そして、潤子さんが、まともな幽霊にも成れないほど焼き尽くされたことを知った兄は、戦後六十余年にわたって、潤子さんが成仏するのを待ち続け『はるか 真田山学院高校演劇部物語』の終盤に成仏するのを見届けて、やっと先年、逝くべきところに逝った。それまでに、解体寸前の乃木坂学院の演劇部を立て直すのに、大いに力を発揮し、坂東はるかや仲まどかが俳優として身を立てる手助けもし、最後は消えゆく姿のまま『仰げば尊し』を、みんなと共に渾身から歌い上げ、ドラマチックに昇天していった。
この弟の方の水島クンは、そんなに心を寄せた人もおらず、他の幽霊のテンションにもついていけず、一人ダクトの中でくすぶっていた。と、いうのが実際である。
「そうだ、芝居の手伝いをしようか?」
昭二も兄に負けず、浅草などに通っていたので、芝居は、かなり詳しい。
「あたしたち、義体だからさ、演技なんてお手の物なのよねえ、友子……」
「うん、いざとなれば、世界中のCPUにもアクセスできるし、有名無名を問わず演劇関係者の頭脳も覗き込めるしね」
「道具とか、力仕事は!?」
「わたし、こう見えても十万馬力なの」
「そうか……」
「ごめんね、せっかくダクトの中で、ほどよくタソガレテいたのに」
「いや、いいんだ……」
水島クンはうなだれてしまった。
そのとき談話室がノックされた。
「どうぞ」
と言ってみたものの、相手の正体が見抜けない。
一応の外見は分かる。乃木坂学院の女生徒のナリはしているが、テンプラだ。全クラスの生徒の情報を検索しても、こいつは分からない。
「だれなの?」
「分からない、初めての気配……」
紀香と友子は、念のため戦闘モードに切り替えた。
「ああ、ごめんごめん。この気配なら分かるでしょ?」
「……ああ、なんだ、あの時の宇宙人さん」
そいつは、駅前のパンケーキ屋でいっしょになり、富士の樹海にテレポートしてバトルを繰り広げた宇宙人であった。
「これ、お土産」
「わ、駅前のパンケーキ!」
「レシピ分かったから、レプリケーターで合成したものだけどね。あ、その眠っている妙子ちゃんには、これね。保温になってるの。それから清水クンには、こっち。幽霊さんでも食べられる、特別制」
水島クンは、恐る恐る手を伸ばして口に入れた。
「う……美味い! ほんとうに食べられるものなんて六十何年ぶりだ!」
涙さえ浮かべて喜ぶので、三人は女子高生らしくコロコロと笑った。
「ダクトから出てきて正解だった!」
「ハハ、今の今まで落ち込んでたのに」
「エヘヘ」
初めて、年相応に水島クンは笑った。
「でもね、水島クン。食べ物食べて楽しいのは、ほんのしばらくよ。どうちょっとしたアドベンチャーに出てみない?」
「アドベンチャー?」
水島クンの目が輝き、宇宙人が微笑んだ。前田敦子が居なくなったAKB選抜メンバーの本心のように……。