ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第25話《え、うそ……!?》さくら
歳のわりに『なごり雪』が好きだ。
東京で見る雪は最後ねと さみしそうに きみが呟く……
なんてフレーズはたまらない。歌い出しのとこも好き。
汽車を待つ君の横で ぼくは時計を気にしてる 季節はずれの雪が降ってる……
『なまり歌』の鹿児島弁バージョンを聞きながら、兄貴と明菜さんの品川の別れの写真を見ている。
アツアツで入れたココアがすっかり温くなって、薄い膜が張っている。
あたしは、なんとか写真から恋人同士の別れの情感を汲み取ろうとしたんだけど、数十枚撮ったどれを見ても、情感の情の字もない。
さみしそうに呟くこともなく、時計も気にしない。「さようなら」がこわくて俯くこともなくヘラヘラする兄貴。なんとも絵にならない。
どう見ても、いつも出会っている知り合い同士の何気ない会話にしか見えない。
スマホを置いてココアを飲む。薄皮がキモイけど一気に飲み込む。
アッチッ(◎Д◎) !
思ったより、中は熱かった。と、閃くものがあった。
さみしそうに呟くことも時計を気にすることもないほど、この二人の想いは熟している。だから妹にも、それとなく見学させた?
スマホを置いてココアを飲む。薄皮がキモイけど一気に飲み込む。
アッチッ(◎Д◎) !
思ったより、中は熱かった。と、閃くものがあった。
さみしそうに呟くことも時計を気にすることもないほど、この二人の想いは熟している。だから妹にも、それとなく見学させた?
表でお父さんと犬養のおばさんが笑顔で挨拶してる。でも、お正月なのに「おめでとうございます」の言葉が無い。
そうだ、お向かいさんは喪中だよ。
お葬式を思い出した。葬儀会館ではあたしもお姉ちゃんも胸に迫るものがあって、白布を取ってもらったおいちゃんの顔を見たとたんに涙が溢れて、お姉ちゃんも「うっ」てせき上げてハンカチで口を押えてた。
でも、おばさんはニコニコして、おいちゃんの耳もとで「ほら、さつきちゃんとさくらちゃんよぉ!」って、いつもの調子で目をつむったおいちゃんに大きな声。「あら、いやだ、いつもの調子になっちゃった」と笑ってた。
どちらも平然とした態度の中に意外に熱いものが隠れているのかもしれない。
暖かいココアと共に胸を満たすものがあった。
「ちょっ、じゃま」
お母さんが、洗濯物のカゴを持って、あたしを跨いで行った。
あたしの部屋は三階の六畳だけど、ベランダの物干しと直結していて、今みたいにタイミングが悪いと、お母さんに跨がれてしまう。それに、元々和室だったとこをフローリングの部屋にしたので、ドアなどという気の利いたものは無い。襖のような引き戸なので、音楽なんか聴いていると気配に気づかないこともある。
ベチョ。
足首に冷たい感触……目を向けると、お風呂で下洗いした自分のおパンツが転がっている。きちんとカゴに押し込んでいなかった自分が悪いんだけど胸くそが悪い。
「渋谷に映画観にいってくる」
――いいご身分ねぇ――
背中で、そう言ってるお母さんをシカトして、おパンツを洗濯機に放り込むと、ピンクという以外に可愛げのない機能性だけのブルゾン羽織って家を出る。なんとなくだけど『宇宙戦艦ミカサ』の最新作を観る気にはなっている。
どちらも平然とした態度の中に意外に熱いものが隠れているのかもしれない。
暖かいココアと共に胸を満たすものがあった。
「ちょっ、じゃま」
お母さんが、洗濯物のカゴを持って、あたしを跨いで行った。
あたしの部屋は三階の六畳だけど、ベランダの物干しと直結していて、今みたいにタイミングが悪いと、お母さんに跨がれてしまう。それに、元々和室だったとこをフローリングの部屋にしたので、ドアなどという気の利いたものは無い。襖のような引き戸なので、音楽なんか聴いていると気配に気づかないこともある。
ベチョ。
足首に冷たい感触……目を向けると、お風呂で下洗いした自分のおパンツが転がっている。きちんとカゴに押し込んでいなかった自分が悪いんだけど胸くそが悪い。
「渋谷に映画観にいってくる」
――いいご身分ねぇ――
背中で、そう言ってるお母さんをシカトして、おパンツを洗濯機に放り込むと、ピンクという以外に可愛げのない機能性だけのブルゾン羽織って家を出る。なんとなくだけど『宇宙戦艦ミカサ』の最新作を観る気にはなっている。
ギュ
豪徳寺のホームに立つと、いきなり腕をつかまれた。
え!?
そのままホームのベンチに座らされたかと思うと、そいつはジャケットの襟を立て、毛糸の帽子を目深にした。
「四ノ宮クン……!」
「シ……後ろは見ないで!」
そう言って、ヤツは馴れ馴れしく腕を肩に回してきた。
そのままホームのベンチに座らされたかと思うと、そいつはジャケットの襟を立て、毛糸の帽子を目深にした。
「四ノ宮クン……!」
「シ……後ろは見ないで!」
そう言って、ヤツは馴れ馴れしく腕を肩に回してきた。
背後の階段から、三人ほどが駆け上がってくる気配がしたけど、言われたようにシカトして、直後にやってきた電車に乗った。
あ……!
ドアが閉まると同時に発見されたようで、三人のオジサンとオニイサンが口をOにして見送っている。ナリからしてマスコミ関係の人と見当がついた。
「なにか、やらかしたあ(´¬_¬) ?」
あ……!
ドアが閉まると同時に発見されたようで、三人のオジサンとオニイサンが口をOにして見送っている。ナリからしてマスコミ関係の人と見当がついた。
「なにか、やらかしたあ(´¬_¬) ?」
こいつには、いろいろと前科がある。
「世間には暇な人もいるんだ(-_-;)」
あたしが、渋谷に映画を観にいくんだと言ったら、ヤツも付いてくると言う。料金を出してくれるというので、アッサリOK。
が、渋谷の改札を出たところでアウトだった。
「四ノ宮忠八さんですね!?」
マイクを持ったレポーター風のオバサンを先頭に、カメラさん、音声さん、その他が待ちかまえていた。
「なに、この人たち?」
あたしが、渋谷に映画を観にいくんだと言ったら、ヤツも付いてくると言う。料金を出してくれるというので、アッサリOK。
が、渋谷の改札を出たところでアウトだった。
「四ノ宮忠八さんですね!?」
マイクを持ったレポーター風のオバサンを先頭に、カメラさん、音声さん、その他が待ちかまえていた。
「なに、この人たち?」
「すまん、巻き込んじまった」
「元華族の四ノ宮さん、お家を出られたというのはほんとうなんですね!?」
「こちらの女性は!?」
え(OωO ) ?
わけわかめのあたしだった……。
え(OωO ) ?
わけわかめのあたしだった……。
☆彡 主な登場人物
- 佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
- 佐倉 さつき さくらの姉
- 佐倉 惣次郎 さくらの父
- 佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
- 佐久間 まくさ さくらのクラスメート
- 山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
- 米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
- 白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
- 氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
- 秋元 さつきのバイト仲間
- 四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
- 四ノ宮 篤子 忠八の妹
- 明菜 惣一の女友達
- 香取 北町警察の巡査