大阪府立千塚高校(ちづかこうこう)っていうんだ。
いうっていうのは、あの中河内中学校の元になった高校。
年末にあれだけ通っていたのに知らなかった。 中河内中学校の近所じゃ、いまでも千塚高校のほうが通りがいいらしい。
で、千塚高校は、お知り合いになったばかりの輝さんの母校でもある。
「ホー……ホー……」
マウスを操作しながら輝さんはホーホーばかり言ってる。 我が家に来るのは三回目の輝さんだけど、ヤードの戦車に感心したり、お母さんやお父さんと話し込んでしまって、なかなか話が出来なかった。 で、今日はやっと、わたしの部屋に来てもらった。そして、千塚高校のあれこれをマップを見ながら話している。
「敷地とか校舎とかは変わってないのねえ、この外階段のとこで、よくタバコ喫ってたんだよね~」
「え、輝さんがですか?」
「アハハ、悪たれの男子らがね~」
「えと、ここです、この体育館の横っちょで最初に見かけたんです」
「やっぱし……」
そう言うと、輝さんは椅子の背もたれに背中を預けて腕と足を組んだ。
お母さんたちと話している時は、きちんとした大人なんだけど、わたしの部屋に入ってくると、ものの五分ほどで高校生のアネゴみたくなってしまった。ちなみに、京ちゃんも居るんだけど、京ちゃんはお使いに出ている。
「体育館の下にはお墓があったんよ」 「あ、方形周溝墓とか言うんですよね」
「ミッチャン詳しいのね!」
「あ、えと、たまたまです」
心合寺山古墳でソンナワケさんに教えてもらったとは言えない。
「学校建てる前に調査とかはしたらしいねんけどね……」
言葉を濁すと、椅子に座ったままクルリと回転。向き直った時には胡座なんかになっていて、牢名主の貫録になって来た。
「買ってきました~(^^♪」
京ちゃんがたこ焼の匂いとともに戻って来た。
「ご苦労! お、半分はお母さんに……」
「入れ違いで出かけられて、三人であがってくださいということですねん」
「あ、そうなんだ」
そうだ、お母さんは知り合いが入院したのでお見舞いに行くって言ってたんだ。お父さんもシゲさんも仕事だし、いま家にはわたしたちしか居ないんだ。
「よーし、じゃ、気合い入れてたこ焼きをやっつけよう!」
で、以下は二千円分のたこ焼きをやっつけながらの輝さんのお話し。
輝さんは、こう見えて、在学中は茶道部だった。
ある日、一番で活動場所の作法室に行くと、輝さんより早く来ていた一年生が、顔色を変えて飛び出してきた。
「ちょ、ちょっと、どないしたんよ!?」
パニクッテいる一年生の肩を掴んで問いただした。
「へ、部屋に、ざ、ざ、座敷童がああああああ!」
それだけ言うと、一年生は輝さんを振り切って、女子とは思えない速さで逃げて行った。
「も~、なにをチャラいことを……」
怖いものなしの河内少女であった輝さんは、そのままガラリと戸を開けると、ズイズイと作法室に乗り込んだ。
「も~、誰もおらへんやんか、あのビビりは」
二間ある和室にも、控えの部屋にも人影はなかった。
「そんで、とりあえずはお稽古の用意をしよと思てね……ちょ、手ぇ止まってる、食べることに集中しよ」
輝さんは、たこ焼にはこだわりがあるようで、冷めてから食べるのはもちろんレンジで温め直すのも邪道。
三人はハフハフやりながら、暴れ食いをしたのでした。
そして、お話は、ますます佳境に入ってくるのでした……。