大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)107・リスペクトの気持ち

2024-08-01 07:14:44 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
107・リスペクトの気持ち  




 リスペクトの気持ちはあるんや。


 なんちゅうても惣堀高校演劇部は看板だけで、放課後の居場所が欲しいという動機だけでつるんでる。

 もともとは俺一人だけで普通教室の半分もある部室を占拠してて、それが生徒会に睨まれて――生徒会規約どおりの部員数がなければ存続を認めない――と言われて、必死こいて集めた。

 実態は、放課後のスクールライフを優雅に過ごすためのサロン。

 せやけど、看板に演劇部を名乗って連盟に加盟している限り、コンクールの受付ぐらいはやらんとあかん。よその演劇部はちゃんとやってんねんやろからな。

 演劇部としての実態が無いことが、逆に高校演劇へのリスペクトの気持ちになってる。


「あ、全員で来られたんですか(^_^;)」


 一時間前に着いた俺らは、どこに行っていいか分からへんかったんで、そろいのジャージで走り回ってる真田山の生徒を掴まえて聞いた「どないしたらええんでしょ?」

「あ、あわわわわ、椅子の数増やしますね(;'∀')」

 ジャージはすっ飛んで行って、お仲間とパイプ椅子を両手に抱えて戻って来た。

「えと、これで人数分はあると思います」

 受付には七脚のパイプ椅子が並んだ。

「あ、わたし車いすだから要りません」

 千歳が生真面目に返答。

「あ、え、でも出してしもたから」

「そ、そですか」


 ゼミテーブル一個だけの受付に六人(引率の朝倉先生込み)は多い。


 どうやら受付というのは二人も居たら間に合うようで、開始直前になっても手持無沙汰この上ない。

「まだ二十人だよ」

「パンフは三冊売れただけだ」

 千歳と須磨先輩が何べんも来客数をカウントする。この二人が本来生真面目なのがよく分かる、観客が少ないのを自分たちのせいみたいに感じている風情がある。

「ハー、なんかギャップだわね」

「ギャップて?」

「だって、ホールも学校もすごくいい設備じゃない、打ち合わせの時も人数多かったし。その雰囲気と、受付通った人の数がね……」

 なるほど同感。

 ミッキーが耳打ちしてミリーがスマホをいじりだした。

「なにしてんねん?」

「連盟のサイトをね……えと……難波高等学校演劇連盟でよかったわよね?」

「え、あ、たぶん」

「おかしいわね……」

「なにがですか?」

 千歳が車いすを寄せ、それが合図だったようにみんなの首がミリーのスマホに集まった。

「コンクールの予告とかプログラムとか地図案内とか……なんにもないのよ」

「えー、うそ?」

 朝倉先生まで乗り出した。先生は引率責任者としての義務感で来てる。

 その義務感からすると、コンクールは貴重な休日を潰されることに相応しいイベントでなければ「ぶっ殺すぞ!」と言いだしそうな気迫がある。

「なんにも出てませんね」

「ちょ、貸して! あ、自分の使えば……」

 先生は自分のスマホで検索し始めた。

「東京なんかは詳しく出てるよ~」

 悔しさがにじみ出ているけど、この人は休日を潰された事のショックや。ま、分かりやすいけど(^_^;)。

「打ち合わせの最後にさ、役員の先生が言ってたじゃん『開会式には必ず全校出てください』って」

 そう言えば言ってた。

「あれって、コンクールの大切さってか、参加する心構え的に言ってるんだと思ったけどさ……」

「参加校だけでも揃わなきゃ観客席が寂しすぎるってことじゃね?」

「あ、まあ……」

 それ以上は本番前の受付で喋るのははばかられ口をつぐんだ。

 ブ~~~~~

 そして開会のブザー、ホールのドアを閉めようとすると、開会の挨拶を始めた役員の先生の声がした。

 その挨拶も終わったのか、ドアが静かに開くと七人が出て行った。プログラム一番の北浜高校や。

「……てことは」

「観客席は……」

 十三人という言葉を呑み込んだ。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 銀河太平記・237『テムジ... | トップ | やくもあやかし物語2・06... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説7」カテゴリの最新記事