ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第87話《吉本一佐の退職》惣一 

吉本一佐はGパンにポロシャツというナリで裏門を出ようとしていた。
「待ってください、艦長!」
我々はいっせいに駆けだした。
「あちゃー、見つかってしもたな」
護衛艦たかやすの艦長吉本一佐は、オンボロ艦隊の司令職も解かれ、定年にまだ数週間を残し、依願退職というカタチで自衛隊を放り出されようとしている。
「言うとくけどな、この依願退職は、わしが言いだしたこっちゃ。基地司令は、せめて定年退官をて言うてくれたんやけど、自衛隊に迷惑かけられへんよってな」
「しかし艦長。世論の中には、艦長や我々の戦いを擁護、いや、積極的に賞揚する声もあります」
遅れて江田島に送られてきた船務長も一歩前に出た。
「艦長の父上は……」
「親父は親父、わしはわしや」
艦長は船務長の言葉を封じた。
知っている。
艦長のお父さんは、護衛艦てんぽうの艦長をやっていた時、遊覧船との衝突事故をやって艦長職を解かれ退職に追い込まれている。後の海難審判で、非は遊覧船側にあるとされ、法的に無実が確定しているが、解職を決定した防衛大臣は処分を取り消さないばかりか、退職に追い込んだと言われている。
「国際的な常識から言っても、艦長の指揮も我々の行動も適切です」
艦長は首をコキっと言わせて切り出した。
「おおきに船務長。せやけど、わしが文句言うたら、やしまの船長が処分されよる。それに真田君のこともなあ……」
「国際的な常識から言っても、艦長の指揮も我々の行動も適切です」
艦長は首をコキっと言わせて切り出した。
「おおきに船務長。せやけど、わしが文句言うたら、やしまの船長が処分されよる。それに真田君のこともなあ……」
ボディカメラの映像を流した真田三曹は、機密漏洩の咎で逮捕され、あくる日には免職された。
彼の映像公開で、世論はこちらに向くかと思ったが――全ての漁船がドローンであったとは言えない――とマスコミは言い出し、官房長官も記者会見で「調査中であります」と逃げを打ち、こちらを向きかけた世論は、あくる日にはまたソッポを向いた。
そしてさらに、世間の七割はたかやすを責めているが、三割は曳航中にC国船を沈めてしまったやしまに責任があるとしている。C国船を沈めろと命じたのは国交大臣の命を受け、やしまに乗り込んできた役人だ。与党もマスメディアも国交大臣の後ろにいるK党に遠慮して積極的にはやしまには触れない。
「海自と保安庁はマシになったとはいえ仲が悪い。これからは、有事に備えて海上保安庁は沿岸警備隊になっていかなあかん。それに水を差すようなことはあかんのや」
「しかし、艦長……」
「わしは自衛官や、日本の防衛体制を後退させるようなことはでけへん。佐倉君、ポケットに入ってるもん出し」
ウ……
見透かされていた。オレは黙って、白い封筒を取り出した。
「こんなことで連れション気分出すなよ」
「連れションでもありますが、自分は……」
「君が嫌になっても、自衛隊は君を嫌にはなってへんで。あの時、無事に任務を果たせたのは、いつにかかって君らの技量と錬度のお蔭や。そんな自衛官を養成すんのにどれほどの税金と時間がかかってるか、よう考えならあかんでぇ……まあ、ほんならなぁ」
吉本艦長は、まるで見学のオッサンのように飄々と裏門を出た。
門衛の敬礼にもオッサン然と頭を下げただけである。我々は、まだ収まらず、裏門の際まで迫った。
見透かされていた。オレは黙って、白い封筒を取り出した。
「こんなことで連れション気分出すなよ」
「連れションでもありますが、自分は……」
「君が嫌になっても、自衛隊は君を嫌にはなってへんで。あの時、無事に任務を果たせたのは、いつにかかって君らの技量と錬度のお蔭や。そんな自衛官を養成すんのにどれほどの税金と時間がかかってるか、よう考えならあかんでぇ……まあ、ほんならなぁ」
吉本艦長は、まるで見学のオッサンのように飄々と裏門を出た。
門衛の敬礼にもオッサン然と頭を下げただけである。我々は、まだ収まらず、裏門の際まで迫った。
ブォォォ
すると裏門に通じる道を一台の軽自動車がやってくるのが分かった。
市民団体に見つかったかと一瞬緊張した。市民団体は江田島の幹部学校にまで押し寄せてきている。
車から出てきたのは、艦長同様ポロシャツにGパンという外人のオッサンだった。一呼吸して気づいた。
「ジェンキンス司令!?」
我々は、一斉に敬礼した。相手は在日佐世保アメリカ海軍のジェンキンス司令官だった。司令官は慌てて、我々の敬礼をやめさせた。
「吉本さん。四月にやったゴルフ、ドローだったから、勝負つけようよ。ちょうどボクも休暇だし」
「アメリカの諜報は一枚上手やなあ。わしちょっとも凹んでへんさかい、負けしませんよぉ」
「口ではなんとでも言える。正門前にいる人たちみたいにね(^_^)」
「しゃあないなあ。ほなワンラウンドだけ……(^▽^)」
日米のオッサン二人は軽自動車に乗って、古鷹山の裾を撫でるようにして行ってしまった。
車から出てきたのは、艦長同様ポロシャツにGパンという外人のオッサンだった。一呼吸して気づいた。
「ジェンキンス司令!?」
我々は、一斉に敬礼した。相手は在日佐世保アメリカ海軍のジェンキンス司令官だった。司令官は慌てて、我々の敬礼をやめさせた。
「吉本さん。四月にやったゴルフ、ドローだったから、勝負つけようよ。ちょうどボクも休暇だし」
「アメリカの諜報は一枚上手やなあ。わしちょっとも凹んでへんさかい、負けしませんよぉ」
「口ではなんとでも言える。正門前にいる人たちみたいにね(^_^)」
「しゃあないなあ。ほなワンラウンドだけ……(^▽^)」
日米のオッサン二人は軽自動車に乗って、古鷹山の裾を撫でるようにして行ってしまった。
☆彡 主な登場人物
- 佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
- 佐倉 さつき さくらの姉
- 佐倉 惣次郎 さくらの父
- 佐倉 由紀子 さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
- 佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
- 佐久間 まくさ さくらのクラスメート
- 山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
- 米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
- 白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
- 原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
- 坂東 はるか さくらの先輩女優
- 氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
- 秋元 さつきのバイト仲間
- 四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
- 四ノ宮 篤子 忠八の妹
- 明菜 惣一の女友達
- 香取 北町警察の巡査
- クロウド Claude Leotard 陸自隊員
- 孫大人(孫文章) 忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
- 孫文桜 孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる