頑固爺の言いたい放題

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アベノミクス批判の検証

2018-01-18 11:07:35 | メモ帳

私は基本的にはアベノミクスの支持者である。“基本的には”とは、全面的に賛同するわけではないが、プラス・マイナスを総合すればプラスの方が多少大きいと考えているという意味である。

こういう立場で、アベノミクスを批判する経済学者たちが具体的にどう批判しているのか知っておこうと考え、浜矩子氏の『これでも「アベ」と心中しますか』(副題 国民の九割を不幸にする安倍政治の落第通信簿)を読んだ。数あるアンチ・アベノミクス論者の中から同氏を選んだ理由は、彼女の父君が私のかつて勤務していた商社の先輩で、彼がロンドン支店長だった時、いささかお世話になった縁があるから(つまり、大した理由はないということ)。

浜氏はアベノミクス批判の急先鋒で、アホノミクスという造語で安倍政権の政策を揶揄してきた。だから、私はこの『これでも「アベ」と心中しますか』も、てっきり安倍政権の経済政策を批判しているのだろうと思ったが、そうではなかった。

というわけは、浜氏が「チーム・アホノミクスには『21世紀の大日本帝国』を構築しようという不純な下心がある」ときめつけていること。「経済大国」と表現すればいいことを、あえて「大日本帝国」なるネガティブな単語を使って安倍政権を貶める印象操作をしている。「下心」にしても、まるで悪事が進行しているような感がある。多分、浜氏は安倍政権の国家安全保障政策に反対なんだろう。政治に関して信念をもっていることは彼女の勝手だが、経済問題を論じるのに、政治に関する信念を絡めるのはいかがなものか。

副題にある“落第通信簿”とはどういうことかというと、好転した経済指標すなわち、株価上昇、失業率低下、GDP増大、就職内定率過去最高などを分析し、安倍政権が自慢するほどのことはなにもなく、実際にはこれらの経済指標はすべて落第点だという。

確かに彼女の分析は経済学者らしく的を射ている。しかし、悪い点ばかり強調し、改善された点には口を閉ざしている。さらに、経済学者なら経済学者らしく、“悪い点はこうしたらよくなる”という建設的対案を提示すべきだろうが、それもない。彼女ほどの知見があれば、改善策なぞお手のもんだと思うのだが・・・。

“終章にかえて” には次の記述がある。

下心に根ざす経済政策は、実に様々な形で日本経済の均衡を突き崩していた。その機能を損なっていた。日本経済から、我々を幸せにできる力を奪っていた。下心が暴走させる政策運営のお蔭で、日本経済は次第に呼吸困難に陥りつつある。…強くて大きい経済の構築に固執するあまり、彼らは日本経済を硬直的で脆い状態に追い込んでいる。このまま行ったら、日本経済は窒息死にいたる。

この部分(つまり結論)は、悪意に満ちた表現で安倍政権を批判し、読者が悲観的に受け止めるように誘導している。野党の面々が泣いて喜ぶ論理展開だ。

さて、枝葉末節だが浜氏の間違いを指摘したい。同氏は安倍政権の株価押上げ政策に関して次のように述べている。

株価が上がると景気が良くなるわけではない。景気がいいから、株価が上がるのである。この順序を間違えてはいけない。ここでもまた、チーム・アホノミクスは思い違いをしているらしい。株価を上げれば、景気も「景気づく」と思い込んできた節がある。これは違う。話の順序が逆転している。(93ページ)

経済理論としてはその通りだろう。しかし、現実は必ずしもそうではない。いい例が私だ。持ち株の値上がり分を温泉旅行の費用に充当しているから、交通機関、宿泊施設、飲食店、土産物製造業者の業績に多少なりとも貢献しているはずだ。私だけなら大した金額ではないが、同じような行動をしている人は多いと思う。また、値上がり株を換金せずとも、含み益が増えたことで気分が高揚し、消費支出を増加させている人も多いだろう。

企業でも同じことが言える。年度末に持ち株(取引先や関連会社)を時価評価すると利益が増える(減る場合もあるが)。企業努力で稼いだ利益も持ち株の価値上昇も、利益ということでは同じである。それが給与とか配当として支出されれば、経済を活性化する。

つまり、株価上昇は景気拡大をもたらす部分もあるのだ。浜説の一方通行は誤りで、双方向なのである。浜氏は株式投資に経験がないから投資家の行動様式や心理を知らないのか。それとも、安倍政権の政策を批判するために、株価→景気の流れは無視しているのか。合点がいかぬ話である。

ところで、一般論として予言者は予言が的中することを願う。この伝にならうと、浜氏は日本経済が“窒息死”することを願っていることになるが・・・。魔女に呪いをかけられているようなおぞましい気分である(笑い)。